進歩性 本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

 進歩性:本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

1.本件発明の内容

 本件発明は、特許第5356625号の訂正後の請求項1に係る発明である。

 すなわち、本件発明は、肌をマッサージする一対のボールをハンドルの先端部で軸線まわりに回転可能に支持し、ボールの各軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ,各ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されている。

 訂正後の請求項1は、詳しくは、次のように記載されている。

 

【請求項1】

「ハンドルの先端部に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,

 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し,

 一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし,

 前記ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており,

 ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした

 ことを特徴とする美容器。」

 

 本件発明では、次の構成Aと構成Bとが互いに関係している。

 

構成A:

「ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ、一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし」

 

構成B:

「ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており」

 

 構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。

 この問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

2.主引用例との対比

 主引用例には、構成Aに似た構成が記載されているが、構成Bは記載されていない。

 

3.副引用例との対比

 副引用例には、構成Aは全く記載されていないが、構成Bは記載されている。

 

4.判示事項

 本件発明では、構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。すなわち、構成Aは、ボール支持軸が肌に接触してしまう構成である。

 このような構成Aの問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

 したがって、本件発明において、構成Bと構成Aは、「それぞれ別個独立に捉えられるべきものではなく,相互に関連性を有するものとして理解・把握するのが相当である」。

 ここで、「」内は上記判決からの抜粋です。

 

 よって、副引用例において構成Aと関係なく単に構成Bが記載されていることに基づいて,構成Bを主引用例において採用することに当業者が容易に想到し得たということはできない。

 

5.実務上の指針

 したがって、本願発明において構成Aと構成Bが互いに関係しており、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されている場合に、次のような拒絶理由通知が来た場合には、上記判例に基づいて反論できる可能性がある。

 

拒絶理由通知:

「主引用例に副引用例の構成Bを採用することで、本願発明に容易に想到できる。」

 

弁理士 野村俊博

進歩性 一般的要請に基づいて周知技術を引用発明に適用する場合に、当該周知技術が引用発明の前提になじまない場合には、当該適用は容易ではない。

判例No. 42平成18年(行ケ)第10488号審決取消請求事件

進歩性 一般的要請に基づいて周知技術を引用発明に適用する場合に、当該周知技術が引用発明の前提になじまない場合には、当該適用は容易ではない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 引用発明に周知技術を適用することにより、本願発明に容易に想到できる旨の拒絶理由通知を受けた場合に、次の(1)を検討する。

 

(1)引用発明の前提が、周知技術になじまないものであるかを確認する。すなわち、引用発明の前提となる制御又は構成が、周知技術の制御又は構成に反するものであるかを確認する。

 

(2)引用発明の前提が周知技術になじまなない場合には、周知技術を引用発明に適用する阻害要因があるので、当該適用は容易ではない。

 

2.前審である審決で認定された相違点

 本願発明では、発光素子がPWM調光駆動されるに対し、引用発明(国際公開第01/45470号に記載の発明)では、発光素子のPWM調光駆動については記載されていない。

 

3.上記判決で認定された引用発明の内容

 引用発明では、商用交流電流から、その電圧が一定値以上となる一部期間でのみ電力をLEDランプに供給することにより高効率な電力供給を実現する構成において、LEDランプに流れる電流を一定にすること、すなわち、LEDランプの連続的な点灯を前提としている。

 

4.争点

 当業者にとって、周知技術のPWM調光技術を引用発明に適用することが容易であるか否か。

 

5.判示事項

 引用発明では、LEDランプに流れる電流が一定となるように制御されることを前提としているのに対し、PWM調光駆動では、LEDに流れる電流をオン・オフさせる制御を行うのであるから,制御の方法において両者はなじまない。

 したがって、発光強度を調節するという一般的要請があり、その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても、引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情(阻害要因)がある。

 よって、一般的要請に基づいて周知技術のPWM調光技術を引用発明に適用することは容易でない。

 

弁理士 野村俊博

権利範囲 請求項において機能又は作用効果のみによって表現された事項には、明細書及び図面の開示内容から当業者が実施できない構成は含まれない。広い権利範囲を確保するために、上位概念では共通するが、具体的構成では、互いに異なる技術的思想(アイデア)による構成を明細書や図面に記載する。

判例No. 41 平成17年(ワ)第22834号債務不存在確認等請求事件

 

権利範囲 請求項において機能又は作用効果のみによって表現された事項には、明細書及び図面の開示内容から当業者が実施できない構成は含まれない。広い権利範囲を確保するために、上位概念では共通するが、具体的構成では、互いに異なる技術的思想(アイデア)による構成を明細書や図面に記載する。

 

以下は、独自の見解です。

 

1.本件発明について

 本件発明では、係止体により、地震時に、扉がわずかに開いた位置を越えて開くことを許容しない状態を保持し、地震のゆれがなくなると、扉が開くことを許容する。

 すなわち、本件発明は、特許第3650955号の請求項1において、次のように特定されている。

 

「【請求項1】

 地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において棚本体側に取り付けられた装置本体の扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり,前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し,地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法。」

 

 下線部は、本判決における争点となった構成要件Dであり、ここで付した。

 

2.争点

 対象製品が、上記請求項1における構成要件D「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」を充足するか否かが争点になった。

 

3.本件発明の具体的構成

 本件発明について、その明細書と図面には、次の構成が記載されている。

 地震時に、球が、地震の揺れにより第1領域へ転動して、係止体を押して扉に係合させる係合位置へ揺動させる。これにより、係止体は、扉の開く動きを許容しない。

 また、球の案内路の形状により、球は、地震の揺れが扉を開く方向である時には扉が開くよりも早く第1領域へ移動し、地震の揺れが扉を閉じる方向である時にはゆっくりと、係止体から離間する第2領域の側へ移動する。これにより、地時の揺れが継続している間は、球は第1領域にあり、係止体は、扉の開く動きを許容しない係合位置に保持される。

 地震がなくなると、球は、自重で案内路に沿って転動して、第2領域に移動し、その結果、係止体は、自重で揺動して扉から離間する。これにより、係止体は、扉の開く動きを許容する。すなわち、上記構成要件D「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」が達成される。

 

4.対象製品(原告製品)の構成

 対象製品では、本件発明の具体的構成の球の代わりに、2つの感震体(倒立分銅)を用いている。各感震体は、地震の揺れにより転がり、係止体を押して揺動させ扉に係合させる係合位置へ移動させる。これにより、係止体は、扉の開く動きを許容しない。

 2つの感震体は、地震時に互いに異なる周期で揺れるので、一方の感震体が係止体から離間する離間位置に揺動しても、他方の感震体が係止体を押して係合位置に保持する位置に揺動している。これにより、地震の揺れが継続している間は、少なくともいずれかの感震体により、係止体は係合位置に保持される。

 地震がなくなると、いずれの感震体も、自重で、係止体を扉に係合させない元の離間位置に戻り、これにより、係止体は、扉の開く動きを許容する。すなわち、上記構成要件D「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」が達成される。

 

5.対比

 上述のように、本件発明の具体的構成は、揺れの向きに応じて球の転動速度を変えるという技術的思想(アイデア)で、上記構成要件Dを達成しているのに対し、対象製品は、2つの感震体が異なる周期で揺動するという異なるアイデアで、上記構成要件Dを達成している。

 

 本件発明の明細書や図面には、揺れの向きに応じて球の転動速度を変えるための、球の案内路について、多数のバリエーションが記載されているが、対象製品の構成(2つの感震体)は記載されていない。

 

6.判示事項の独自解釈

 請求項において機能又は作用効果のみによって表現された事項には、明細書及び図面の開示内容から当業者が実施できない構成は含まれない。

 

 請求項において機能又は作用効果のみによって表現された事項の技術的範囲は、明細書及び図面に開示されている具体的な構成に示されているアイデア(技術思想)に基づいて確定される。

 

 本件発明の明細書及び図面には、揺れの向きに応じて球の転動速度を変えるというアイデアによる具体的構成だけが開示されている。

 すなわち、本件発明の明細書及び図面には、2つの感震体が異なる周期で揺動するという異なるアイデアによる具体的構成は開示されていない。

 したがって、上位概念(構成要件D)では、本件発明と、対象製品は共通していても、下位概念(具体的構成)では、本件発明のアイデアと対象製品のアイデアは相違している。

 そうすると、本件発明の構成要件Dの技術的範囲は、その具体的構成のアイデアに基づくものであり、これと異なるアイデアの対象製品の構成を含まない。

 

 これについて、以下の『』内は上記判決からの抜粋です。なお、以下の下線は新たに付しました。

 

『構成要件Dは、本件発明の目的そのものを記載したものであり、機能又は作用効果のみを表現しており,本件発明の目的を達成するために必要な具体的な構成を明らかにするものではない。

 特許請求の範囲に記載された発明の構成が機能的,抽象的な表現で記載されている場合において,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解すると,明細書に開示されていない技術思想に属する構成まで発明の技術的範囲に含まれ得ることになり,出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となりかねないが,このような結果が生ずることは,特許権に基づく発明者の独占権は当該発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することとなる。したがって,特許請求の範囲が上記のような表現で記載されている場合には,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。具体的には,明細書及び図面に開示された構成及びそれらの記載から当業者が実施し得る構成が当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。』

 

7.実務上の指針

 請求項において機能又は作用効果のみによって表現された事項の技術的範囲を広く確保するために、その具体的構成を、互いに異なるアイデア(技術的使用)の観点から記載できるかどうかを検討する。

 すなわち、互いに異なるアイデアに基づく複数の具体的構成を明細書や図面に記載しておく。

 

なお、権利範囲に関する過去のブログには、次のものがあります。

権利範囲の解釈に発明の課題及び作用効果が考慮される - hanreimatome_t’s blog

権利範囲 請求項において明確な用語も明細書を参酌して解釈される。 - hanreimatome_t’s blog

 

弁理士 野村俊博

ある変更が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。

判例No. 40平成29年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件

 

 ある変更(本判例では、処理の順序の入れ替え)が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。

 

以下は、独自の見解です。

 

1.本件発明の内容

 特願2014-509742号の請求項1は、次の「」内のように記載されている。

 この請求項1に係る発明を以下で本件発明という。

 

「レーダー送信機及びレーダー受信機を備えるレーダーセンサを用いてホスト自動車の外部の環境で1又は複数のターゲット物体をモニタリングするための装置であって,

前記装置は,前記ホスト自動車と前記1又は複数のターゲット物体との間の所定の相対移動の検知に応答して少なくとも1のアクションを始動するように構成され,

前記装置は,前記ホスト自動車の延伸軸からの前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の距離である横方向オフセット値を判断し,前記横方向オフセット値に基づいて前記少なくとも1のアクションの始動が行われないように,前記少なくとも1のアクションの始動を無効にし,

前記装置は,前記レーダーセンサの出力に応じて前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の前記横方向オフセット値を判断するように構成された装置。」

 

すなわち、本件発明では、自動車の制御において、処理1「ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動させる」を行い、その後に,処理2「ターゲット物体の横方向オフセット値に基づいて(自車線上にターゲット物体が存在物しない場合に)アクションの始動を無効にする」を行っている。

 

2.主引用例(特開2005-28992号公報)の内容

 自動車の制御において、処理A「認識された存在物が自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され」,その後に、処理B「自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されない」を行っている。

 

3.本件発明と主引用例との相違点

本件発明では,処理1の後に処理2を行っているのに対し、主引用例では、処理A(処理2に対応)の後に処理B(処理1に対応)を行っている。

 

4.審決の判断

次の『』内は本判決の前審である審決からの抜粋です。

『「作動」を「開始」する(「アクションの始動が行われ」るようにする)か否かの判断の対象とすべき特定存在物(ターゲット)の「絞込み」を、事前に(つまり、ACC制御、PCS制御等の衝突対応制御が行われることを事前に停止させるために)行うか、事後に(つまり、ACC制御、PCS制御等の衝突対応制御が行なわれ、作動装置を作動させるための信号が生成されるが、信号の出力は阻止される)行うかは、通常行いうる設計変更と認められる』

 

 すなわち、審決では、処理の順序の入れ替えは、単なる設計変更であると判断されている。

 

5.判決の概要(独自解釈)

 主引用例を本件発明に至らせるには、主引用例において処理A,Bの順序を入れ替える必要がある。

 処理の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても、主引用例において処理A,Bの順序を入れ替えることは単なる設計変更ではない。

 主引用例において処理A,Bを入れ替えると、処理負荷が増大し、主引用例の技術的意義「処理A,Bの順序により処理負担を軽減できる」が変動(喪失)してしまうからである。

 なお、より詳しくは、主引用例において、処理A,Bを入れ替えると、認識された多数の存在物について処理Bを行う必要があるので、処理負荷が増大してしまう。

 

6.考察

 主引用例の技術的意義が失われる変更は、主引用例から動機づけられないと思う。

 したがって、「処理の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても、その入れ替えを特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、主引用例において処理の順序を入れ替えることは単なる設計変更ではない」を、次のように一般化できるように思う。

 

 ある変更が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動(喪失)する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。

 

弁理士 野村俊博

副引用例に、複数の構成①~③が記載され、当該構成毎に、その効果が記載されている場合でも、副引用例の明細書に、発明の効果として、構成①~③により、これらの効果を統合したものが得られると記載されている場合は、構成①~③は不可分のものである。したがって、副引用例から構成①のみを抽出して主引用例に適用することは容易でない。

副引用例に、複数の構成①~③が記載され、当該構成毎に、その効果が記載されている場合でも、副引用例の明細書に、発明の効果として、構成①~③により、これらの効果を統合したものが得られると記載されている場合は、構成①~③は不可分のものである。したがって、副引用例から構成①のみを抽出して主引用例に適用することは容易でない。

 

判例No. 39平成29年(行ケ)第10120号  審決取消請求事件

 

以下は、独自の見解です。

 

1.審決の概要

 当業者は、副引用例(特開昭62-152906号公報)に記載された構成①を主引用例(特開2011-207283号公報)に適用することにより、本件発明に容易に想到できる。

 

2.副引用例の記載

 副引用例には、乗用車のタイヤに関して、次の構成①~③が記載されている。

 

構成①:「溝面積比率を25%とし、しかも、踏面幅Tの50%以内の領域Wの全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍とする」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

構成②:「ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブロック1の表面に独立カーフをタイヤ幅方向FF’に形成した」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

構成③:「ブロック1の各辺とカーフcの各辺(実質的にカーフcの両側)のタイヤ幅方向FF’全投影長さLGとタイヤ周方向EE’の全投影長さCGとの比LG/CG=2.5とした」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

 また、副引用例には、構成①~③毎に、その効果が次のような内容で記載されている。

 構成①により、耐摩耗性能を向上させ、乗心地性能及び湿潤路走行性能の低下を抑えることができる

 構成②により、良好な乗心地性能を享受でき、乾路走行性能を向上させることができる。

 構成③により、湿潤路走行性能を向上させることができる。

 

 更に、副引用例には、その目的と効果が次のような内容で記載されている。

 副引用例の発明は、耐摩耗性能、乗心地性能、湿潤路走行性能、および乾路走行性能を向上させることを目的としている。

 副引用例の発明は、構成①~③により、耐摩耗性能、乗心地性能、湿潤路走行性能、および乾路走行性能を向上させることができる。

 

3.上記判決の概要

 「副引用例の記載を鑑みると、構成①~③は不可分のものであり、構成①のみを抜き出して、副引用例に構成①が開示されていると認めることはできない」と、判示されていると解釈する。

 なお、上記判決によると、構成①~③は不可分であること以外に、副引用例はブロックパターンのタイヤであることも前提(不可分)であるとして、構成①のみを抜き出して、副引用例に構成①が開示されていると認めることはできないとされている。

 しかし、上記判決において、構成①~③は不可分であると述べられているので、ブロックパターンの前提を考慮しなくても、副引用例から構成①のみを抜き出すことは容易ではないと思う。

 

 上記に関する上記判決文からの抜粋は、次の「」内の通りです。当該「」内において甲4は副引用例のことであり、①ないし③は上記の構成①~③のことです。

 

「①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。」

 

なお、関連する過去のブログには、次のものがあります。

進歩性 一体不可分の複数の構成から一部の構成だけを分離するのは、容易でない。 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。 - hanreimatome_t’s blog

 

弁理士 野村俊博

主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

 

判例No. 38平成27年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.本件発明(特許第5337221号の請求項1)の内容

 特許第5337221号の請求項1は、次の「」内の通りです。ただし、下線はここで付しました。

「シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,

前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,

前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され

且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記

流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する

流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路と

を備え,

前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移

動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変

化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを

検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」

 

2.主引用例(米国特許第3,540,348)の内容

 シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて、ピストンの動きを反転させる。これにより、ピストンは自動的に反転動作する。

 以下で、上記の内容の一部を次のように構成要素Aという。

 構成要素A:「シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて」

 

3. 主引用例との相違点

出力部材(ピストン)が所定の位置(工程端)に達したときの動作について,本件発明では「前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,主引用例では、二方パイロット弁によりピストン21の反転動作を可能にしたもので,「検知」については不明である点。

 

4.副引用例(米国特許第4,632,018)の記載内容

 次の構成要素A’,Bが互いに置換可能であることが記載されている。

構成要素A’:ピストンが工程端に達すると、プランジャ型スイッチピストンと機械的に連動することにより作動する。

構成要素B:ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される。

 

5.適用について(進歩性の判断)

 上記判例の判示内容の独自解釈は次の通りです。

 

 副引用例の構成要素A’(主引用例の構成要素Aに相当)を構成要素Bに置換できることを、主引用例に適用することにより、上記相違点は埋められる。すなわち、主引用例において、構成要素A「シリンダ室の一端に達すると、このピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動すること」を、構成要素B「ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される」に置き換えると、上記相違点は埋められる。

 しかし、主引用例だけを考慮すると、主引用例では、機械的な連動で、ピストンが自動的に反転動作するようにしているので、主引用例において、ピストンの工程端への移動による圧力変化を検知する動機づけはない。

 すなわち、構成要素Aと構成要素Bとで用途や構成が共通していても、機械的な連動によりピストンを自動的に反転動作させている主引用例においては、構成要素Bの検知機能を持たせる合理的理由がないので、主引用例において、構成要素Aを敢えて構成要素Bに置き換える動機づけは無い。

 よって、上記相違点に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性の主張が困難であるように思える場合に、本願発明の技術的思想と引用例の技術的思想の相違という観点から検討すると、有力な反論が見つかることがある。

進歩性の主張が困難であるように思える場合に、本願発明の技術的思想と引用例の技術的思想の相違という観点から検討すると、有力な反論が見つかることがある。

 

判例No. 37平成28年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.判決の概要

 上記判例では、以下のように、技術的思想の観点からの検討により、本願発明の進歩性が肯定された(進歩性を否定した審決が取り消された)。

 

2.本願発明

 上記判例における本願発明の請求項1(特開2012-108704号公報の請求項1)は、次の「」内と通りです。

 

「【請求項1】

 機密事項を扱うアプリケーションを識別する機密識別子が記憶される機密識別子記憶部と,システムコールの監視において,実行部がアプリケーションを実行中に行う送信処理に応じたシステムコールをフックし,当該アプリケーションが,前記機密識別子記憶部で記憶されている機密識別子で識別されるアプリケーションであり,送信先がローカル以外である場合に,当該フックしたシステムコールを破棄することによって当該送信を阻止し,そうでない場合に,当該フックしたシステムコールを開放する送信制御部と,を備えた機密管理装置。」

 

3.審決の内容(独自解釈)

 主引用例(特開2009-217433号公報)では、保護方法データベースは、アプリケーションの識別子を安全性の情報に関連付けて格納している。

 主引用例において、アプリケーションに対する識別子と安全性の情報の組み合わせは、本願発明の「機密事項を扱うアプリケーションを識別する機密識別子」に相当する。

 また、主引用例では、入力元の安全性(識別子に関連付けられた安全性)と出力先の安全性を比較して送信するかを決定することが記載されている。

 更に、送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止すること自体は周知である。

 そうすると、主引用例において、入力元の安全性と出力先の安全性を比較して送信するかを決定する場合に、識別子が示す入力元の安全性の情報が最高レベルを示している時に(本願発明の「機密識別子で識別されるアプリケーションの送信処理を行う時」に相当)、送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止することは、容易に想到できる。

 

4.反論の可能性(独自解釈)

 上記審決の論理は、そのまま読むと妥当であるように見え、反論の余地はなさそうに思える。

 

 これに対し、上記判例では、次のように審決を取り消している。

 審決によると、主引用例において、様々なバリエーションが考えられ、その1つのバリエーション(入力元の安全性と出力先の安全性を比較して送信するかを決定するというバリエーション)と周知と思われる事項(送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止すること)との組み合わせにより、本願発明に至るとされている。

 しかし、技術的思想の観点から見ると、本願発明と主引用例に記載の発明(引用発明)とは、明確に相違する。

 「本願発明の根幹をなす技術的思想は,アプリケーションが機密事項を扱うか否かによって送信の可否を異にすることにあるといってよい。」ここで、「」内は上記判例からの抜粋です。

 これに対し、「引用発明の技術的思想は,入力元のアプリケーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ設定された安全性を比較することにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔軟に行うことにある」ここで、「」内は上記判例からの抜粋です。

 このように、本願発明と引用発明とは、技術的思想が異なる。

 引用発明において本願発明の技術的思想に従って変更することは、引用発明の技術的思想に反する。すなわち、引用発明において、本願発明の技術的思想に従う変更をすると、次の(A)~(C)が成立する場合、(A)と(B)が満たされているので、(C)に関わらず、送信を阻止することになる。これは、引用発明の技術的思想に反する。引用発明の技術的思想に従うと、(A)~(C)が成立する場合、(A)と(C)が満たられているので、(B)に関わらず送信を実行することになるからである。

(A)入力元のアプリケーションに対応する安全性の情報(入力先の安全性)が機密(最高レベル)を示している。

(B)出力先がローカル以外である。

(C)出力先の安全性が入力先の安全性よりも低い。

 

 よって、主引用例において、本願発明になるような変更をすることの動機づけは無く、このような変更は容易でない。

 

弁理士 野村俊博