主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

 

判例No. 38平成27年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.本件発明(特許第5337221号の請求項1)の内容

 特許第5337221号の請求項1は、次の「」内の通りです。ただし、下線はここで付しました。

「シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,

前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,

前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され

且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記

流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する

流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路と

を備え,

前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移

動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変

化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを

検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」

 

2.主引用例(米国特許第3,540,348)の内容

 シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて、ピストンの動きを反転させる。これにより、ピストンは自動的に反転動作する。

 以下で、上記の内容の一部を次のように構成要素Aという。

 構成要素A:「シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて」

 

3. 主引用例との相違点

出力部材(ピストン)が所定の位置(工程端)に達したときの動作について,本件発明では「前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,主引用例では、二方パイロット弁によりピストン21の反転動作を可能にしたもので,「検知」については不明である点。

 

4.副引用例(米国特許第4,632,018)の記載内容

 次の構成要素A’,Bが互いに置換可能であることが記載されている。

構成要素A’:ピストンが工程端に達すると、プランジャ型スイッチピストンと機械的に連動することにより作動する。

構成要素B:ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される。

 

5.適用について(進歩性の判断)

 上記判例の判示内容の独自解釈は次の通りです。

 

 副引用例の構成要素A’(主引用例の構成要素Aに相当)を構成要素Bに置換できることを、主引用例に適用することにより、上記相違点は埋められる。すなわち、主引用例において、構成要素A「シリンダ室の一端に達すると、このピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動すること」を、構成要素B「ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される」に置き換えると、上記相違点は埋められる。

 しかし、主引用例だけを考慮すると、主引用例では、機械的な連動で、ピストンが自動的に反転動作するようにしているので、主引用例において、ピストンの工程端への移動による圧力変化を検知する動機づけはない。

 すなわち、構成要素Aと構成要素Bとで用途や構成が共通していても、機械的な連動によりピストンを自動的に反転動作させている主引用例においては、構成要素Bの検知機能を持たせる合理的理由がないので、主引用例において、構成要素Aを敢えて構成要素Bに置き換える動機づけは無い。

 よって、上記相違点に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性の主張が困難であるように思える場合に、本願発明の技術的思想と引用例の技術的思想の相違という観点から検討すると、有力な反論が見つかることがある。

進歩性の主張が困難であるように思える場合に、本願発明の技術的思想と引用例の技術的思想の相違という観点から検討すると、有力な反論が見つかることがある。

 

判例No. 37平成28年(行ケ)第10071号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.判決の概要

 上記判例では、以下のように、技術的思想の観点からの検討により、本願発明の進歩性が肯定された(進歩性を否定した審決が取り消された)。

 

2.本願発明

 上記判例における本願発明の請求項1(特開2012-108704号公報の請求項1)は、次の「」内と通りです。

 

「【請求項1】

 機密事項を扱うアプリケーションを識別する機密識別子が記憶される機密識別子記憶部と,システムコールの監視において,実行部がアプリケーションを実行中に行う送信処理に応じたシステムコールをフックし,当該アプリケーションが,前記機密識別子記憶部で記憶されている機密識別子で識別されるアプリケーションであり,送信先がローカル以外である場合に,当該フックしたシステムコールを破棄することによって当該送信を阻止し,そうでない場合に,当該フックしたシステムコールを開放する送信制御部と,を備えた機密管理装置。」

 

3.審決の内容(独自解釈)

 主引用例(特開2009-217433号公報)では、保護方法データベースは、アプリケーションの識別子を安全性の情報に関連付けて格納している。

 主引用例において、アプリケーションに対する識別子と安全性の情報の組み合わせは、本願発明の「機密事項を扱うアプリケーションを識別する機密識別子」に相当する。

 また、主引用例では、入力元の安全性(識別子に関連付けられた安全性)と出力先の安全性を比較して送信するかを決定することが記載されている。

 更に、送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止すること自体は周知である。

 そうすると、主引用例において、入力元の安全性と出力先の安全性を比較して送信するかを決定する場合に、識別子が示す入力元の安全性の情報が最高レベルを示している時に(本願発明の「機密識別子で識別されるアプリケーションの送信処理を行う時」に相当)、送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止することは、容易に想到できる。

 

4.反論の可能性(独自解釈)

 上記審決の論理は、そのまま読むと妥当であるように見え、反論の余地はなさそうに思える。

 

 これに対し、上記判例では、次のように審決を取り消している。

 審決によると、主引用例において、様々なバリエーションが考えられ、その1つのバリエーション(入力元の安全性と出力先の安全性を比較して送信するかを決定するというバリエーション)と周知と思われる事項(送信先がローカルであれば送信を許可し,ローカル以外であれば送信を阻止すること)との組み合わせにより、本願発明に至るとされている。

 しかし、技術的思想の観点から見ると、本願発明と主引用例に記載の発明(引用発明)とは、明確に相違する。

 「本願発明の根幹をなす技術的思想は,アプリケーションが機密事項を扱うか否かによって送信の可否を異にすることにあるといってよい。」ここで、「」内は上記判例からの抜粋です。

 これに対し、「引用発明の技術的思想は,入力元のアプリケーションと出力先の記憶領域とにそれぞれ設定された安全性を比較することにより,ファイルを保護対象とすべきか否かの判断を相対的かつ柔軟に行うことにある」ここで、「」内は上記判例からの抜粋です。

 このように、本願発明と引用発明とは、技術的思想が異なる。

 引用発明において本願発明の技術的思想に従って変更することは、引用発明の技術的思想に反する。すなわち、引用発明において、本願発明の技術的思想に従う変更をすると、次の(A)~(C)が成立する場合、(A)と(B)が満たされているので、(C)に関わらず、送信を阻止することになる。これは、引用発明の技術的思想に反する。引用発明の技術的思想に従うと、(A)~(C)が成立する場合、(A)と(C)が満たられているので、(B)に関わらず送信を実行することになるからである。

(A)入力元のアプリケーションに対応する安全性の情報(入力先の安全性)が機密(最高レベル)を示している。

(B)出力先がローカル以外である。

(C)出力先の安全性が入力先の安全性よりも低い。

 

 よって、主引用例において、本願発明になるような変更をすることの動機づけは無く、このような変更は容易でない。

 

弁理士 野村俊博

主引用例との相違点となる対象発明の構成が周知であっても、それだけでは、進歩性を否定できない。例えば、当該構成を、主引用例で用いる理由や動機づけがない場合には、進歩性が認められる余地がある。

 主引用例との相違点となる対象発明の構成が周知であっても、それだけでは、進歩性を否定できない。例えば、当該構成を、主引用例で用いる理由や動機づけがない場合には、進歩性が認められる余地がある。

 

判例No. 36平成22年(行ケ)第10351号 審決取消請求事件

 

1.本件発明について

 対象となった本件発明(特願2000-582314の請求項1)の記載は、次の「」内の通りです。

 

「【請求項1】

 飲食物廃棄物の処分のための容器であって、飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し、かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と、前記液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と、前記吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え、前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ、飲食物廃棄物の処分のための容器。」

 

2.主引用例との相違点となる本件発明の構成

 本件発明において、次の構成Aは、主引用例(実開平1-58507号)に記載されていない。

構成A:

「液体透過性ライナー(裏張り)を吸収材に隣接して(すなわち、積層して)配置している」

 なお、本件発明と主引用例とで、液体不透過性壁に吸収材を積層する点は共通している。

 

3.相違点となる構成Aによる効果

 本件発明では、上記構成Aの液体透過性ライナーにより、次の機能Bが得られる。次の「」内は特願2000-582314の公開公報(特表2002-529347)からの抜粋です。

効果B:

「ライナーを設けることによって、飲食物の廃棄物および食べ残しを中に入れる過程で容器の中に手を入れる消費者は、液状の廃棄物でほとんど、あるいは完全に飽和された吸収材との偶発的で、望ましくない接触をしないですむ。」

 

4.周知技術

 周知技術では、吸収材が容器の内面から脱落することを防止するために、液体透過性ライナーを吸収材に隣接して(すなわち、積層して)配置している。

 

5.判示事項(独自解釈)

 相違点に係る構成Aが周知であるとして本件発明の進歩性を否定することは、周知の構成Aを主引用例に容易に適用できるかの検討・判断をしていないので、妥当でない。すなわち、周知の当該構成を主引用例に適用することが容易であるかについての検討が必要である。

 周知技術では、吸収性ポリマー(吸収材)を基材に付着させる場合、吸収性ポリマーが基材から脱落することを防止するために、ライナーを吸収性ポリマーに積層して配置している。

 これに対し、主引用例では、吸収性ポリマーは、その材料の性質と基材への被覆方法を考慮すると、基材と一体化しているので、基材から脱落することはない。

 したがって、主引用例において、ライナーを吸収性ポリマーに重ねて配置する必要はない。そうすると、主引用例において、上記効果Bを得るという目的で、ライナーを吸収性ポリマーに重ねて配置する動機づけはない。

 よって、主引用例において、ライナーを吸収性ポリマーに隣接して(積層して)配置することは容易に想到できたとする審決は妥当でない。

 

6.考察

 対象発明が、主引用例との相違点となる構成P(上記判例では、構成A)を有しており、この構成Pが周知技術であるとして、対象発明の進歩性が否定されている場合、次の(1)(2)に該当するかを検討する。

(1)(2)の両方に該当すれば、(1)(2)を主張することにより、進歩性が認められる可能性がある。

(1)(2)のうち(2)のみに該当しても進歩性が認められる可能性があると思う。(2)に該当すれば、主引用例で構成Pを採用する理由や動機づけがないからである。

 

(1)対象発明では、上記構成Pが周知技術と異なる機能Q(上記判例では、上記機能B)を得るために用いられているのに対し、主引用例には、当該機能Qを得ることについて何ら示唆されていない。

 

(2)周知技術では、上記構成Pは、機能Qとは異なる機能Rを得るため用いられているのに対し、主引用例において、機能Rを得る必要がない。

 

 なお、(1)については、請求項において、その機能が発揮されていることが明確な記載になっているかを検討する。そのようになっていない場合には、そのようになるように請求項を補正する。これにより、進歩性が認められる可能性が高まる。

 上記判例では、(1)(2)の両方に該当しているとして、進歩性否定の審決を取り消している。

 

 弁理士 野村俊博

進歩性 対象発明と引用例とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば、進歩性が認められる。

進歩性 対象発明と引用例とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば、進歩性が認められる。

 

判例No. 35 平成25年(ネ)第10051号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件

 

※以下は独自の解釈です。

 

1.本件発明の内容
 上記判例における特許第2137621号の請求項1に係る発明(本件発明)は、次の「」内の通りです。
「【請求項1】 版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において、前記版胴の表面層をクロムメッキ又は耐食鋼で形成し、該版胴の表面粗さRmaxを
6.0μm≦Rmax≦100μm
に調整したことを特徴とするオフセット輪転機版胴。」

 

2.主引用例との相違点
 本件発明では、版胴の表面粗さRmaxが6.0μm≦Rmax≦100μmであるのに対し、主引用例(証拠の設計図)では、版胴の表面粗さRmax=2.47~4.02μmが調整されている点で、両者は相違する。

 

3.副引用例の内容
 副引用例(特開昭57―156296号公報)では、版胴にかけられる印刷版用基材において、版胴との接触面となる裏面の表面粗さを20μm以上,好ましくは25~100μmとすることにより(ただし、表面粗さがRmaxかRaであるかは不明)、版胴へのフィット性を向上させ,印刷中に版胴との間にズレや歪みを生じにくくしている。

 

4.判示事項(独自解釈)
 副引用例では、次の原理により、版胴とのズレの問題を解決している。副引用例では、版胴ではなく,版胴にかけられる印刷版用基材を、圧縮弾性が得られる材料(樹脂層を含む材料)で形成し、当該基材において版胴と接触する裏面に適度な凹凸をつけている。これにより、版胴に対するフィット性が高まり、版胴とのズレの発生を防止している。
 これに対し、本件発明では、次の原理により、版胴とのズレの問題を解決している。本件発明では、金属製の版胴の表面粗さRmaxを6.0μm≦Rmax≦100μmに調整している。これにより、版と版胴間の摩擦係数を増加させることで、版ずれトラブルを防止している。
 このように、副引用例と本件発明では、面の凹凸を調整する点では共通するが、副引用例では、圧縮弾性材料とのフィット性を高めてズレを防止しているのに対し、本件発明では、金属製の表面の凹凸で摩擦係数を増加させてズレを防止しているので、両者の課題解決原理が相違する。
 また、本件発明の課題解決原理は、主引用例と副引用例のいずれにも記載されていないので、本件発明は、主引用例と副引用例に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

 

5.実務上の指針
 対象発明と引用発明とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点(上記判例では面の凹凸を調整するという共通点)があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば(上記判例では、フィット性の向上と摩擦係数の増加とで相違する)、進歩性が認められる。

 なお、上記判例では、本件発明の権利行使が認められている。これは、その上記請求項1において、記載が短くて限定が少なかったことにもよると思えた。
 したがって、発明のポイント(上記判例では、Rmaxが6.0μm≦Rmax≦100μmである点)さえ記載すれば、他の内容はできるだけ簡潔に、不要な限定をせずに記載するのがよさそうと改めて思った。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 複数の周知例を抽象化した技術を周知技術として認定することはできない

進歩性 複数の周知例を抽象化した技術を周知技術として認定することはできない。

 

判例No.34平成28年(行ケ)第10044号 審決取消請求事件

 

※以下は独自の解釈です。

 

1.実務上の指針

 主引用例に周知技術を適用することにより、対象の発明に容易に想到できるとされた場合、次の(1)(2)に該当すれば、次の(3)の主張をする余地がある。

 

(1)複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項から、抽象化(一般化)された周知技術が認定されている。

(2)複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項は、それぞれ互いに異なる目的で使用されている。

(3)認定された周知技術は、複数の周知例を抽象化したものである。しかも、複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項の目的が互いに異なることを考慮すると、周知技術が複数の技術事項の組み合わせに相当するとしても、このような組み合わせは容易ではない。したがって、当業者は、このように抽象化したものを周知技術として把握できない。

 

2.判決の概要

2.1.本件発明の要点

 第1~第3の化合物半導体層を、それぞれn型、p型、p型として、この順に積層した赤外線センサ。この赤外線センサでは、第3の化合物半導体層のp型ド-ピング濃度が第2の化合物半導体層のp型ド-ピング濃度よりも高い。これにより、第2の化合物半導体層への赤外線入射で発生した電子と正孔のペアのうち電子が、第3の化合物半導体層へ拡散することを防止できる。

 

2.2 相違点

 主引用例(引用発明C)のπ-InSb層は、本件発明の第2の化合物半導体層に対応するが、「Undopted」とされているから、本件発明においてp型ド-ピングされた第2の化合物半導体層と実質的に相違する。

 

2.3 審決における相違点の判断

 赤外線検出器において、雑音を低減する手段として,赤外線検出器の光吸収層をp型ドーピングして所望のp型キャリア濃度にすることは,本件特許の出願日当時,周知である。

 

2.4 判示事項

 複数の引用例には、それぞれの目的に応じた技術事項が記載されている。

 審決が認定した周知技術は、これらの技術事項を抽象化したものであるで、このように抽象化した技術事項を周知技術として認めることができない。

 

 次の『』の記載は、これに関する上記判例からの抜粋です。

『このように,引用例3,引用例4,甲5,甲6には,光吸収層のドーピングの調整によって,量子効率の最大化,ライフタイムの最大化,ノイズの最小化,熱によるキャリア生成に対する光によるキャリア生成の比率の最大化,熱生成-再結合が起こる領域の最小化,オージェ再結合の抑制が図られる旨記載されているものである。また,甲7には,オージェ制限のある光検出器の検出能力の最大化は,p型ドーピングによって実現できる旨記載されている。

そうすると,赤外線検出器の検出能力を向上させるためには,その目的に応じて,光吸収層のドーピングを調整することが必要であるというべきである。引用例3,引用例4,甲5ないし7から,おおよそ赤外線検出器の検出能力を向上させるための技術事項として,「光吸収層のドーピングが,他の層のドーピング等とともに適切に設計されること」(前記①)や,光吸収層のドーピングが「ノンドープ,p型及びn型のいずれも可能であること」(前記②)といった抽象的な技術事項は認めることはできない。

 ・・・したがって,前記①及び②の周知技術は認めることができない。』

 

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例に副引用例を適用する際に副引用例の構成を変更すると対象発明の構成に至る場合に、当該変更によって副引用例の効果が失われる場合には、当該変更は容易ではない。

進歩性 主引用例に副引用例を適用する際に副引用例の構成を変更すると対象発明の構成に至る場合に、当該変更によって副引用例の効果が失われる場合には、当該変更は容易ではない。

 

判例No.33平成28年(行ケ)第10265号 審決取消請求事件

以下は独自の解釈です。

 

1.実務上の指針

 主引用例に副引用例を適用する際に、副引用例の構成を周知技術に基づいて変更すれば、対象発明の構成に至る場合に、次の(1)に該当すれば、当該適用の際に副引用例の構成を変更することは容易ではない。

 

(1)副引用例の構成を周知技術に基づいて変更すると、変更前の副引用例の効果が失われてしまう。

 

2.上記判例における本件発明と主引用例と副引用例

・本件発明

 本件発明では、盗難防止対象物に取り付ける盗難防止タグが、暗号コードを一部に含む解除指示信号を受信し、解除指示信号に含まれる暗号コードが、記憶されている暗号コードと一致するかを判断し、一致する場合には、その警報出力状態を解除する。

 

・主引用例

 主引用例では、盗難防止タグが、コード信号を受信し,前記コード信号を受信したと判定したら、その警報動作を解除する。

 

・副引用例

 副引用例では、盗難防止用の付け札は、受信したコード信号が、記憶されているコード信号と一致しているかを判断し、一致している場合には、その警報動作を解除する。

 

3.主引用例に副引用例を適用した構成と本件発明との共通点および相違点

 共通点:主引用例に副引用例を適用して得られる構成では、盗難防止タグが、コード信号を受信し、コード信号が、記憶されているコード信号と一致するかを判断し、一致する場合には、その警報出力状態を解除する点で、本件発明と共通する。

 相違点:主引用例への副引用例の適用では、本件発明の事項A「解除指示信号の一部に暗号コードが含まれている」には至らない。

 

3.判示事項

 周知技術「信号がコードを一部に含み,この信号に含まれるコードについて一致判断をする」に基づいて、主引用例に副引用例を適用して得られる構成を変更して上記事項Aに至るようにすることは、通常、容易ではなく,副引用例の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるとされた。

 これについて、次の「」内は、上記判決からの抜粋です。

 

上記判決からの抜粋:

「引用発明Aに引用例3事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないところ,さらに周知技術を考慮して引用例3事項を変更することには格別の努力が必要であるし,後記(ウ)のとおり,引用例3事項を適用するに当たり,これを変更する動機付けも認められない。主引用発明に副引用発明を適用するに当たり,当該副引用発明の構成を変更することは,通常容易なものではなく,仮にそのように容易想到性を判断する際には,副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるから,本件審決の上記判断は,直ちに採用できるものではない。」

 

 より詳しくは、次のように判断された。

 周知技術に基づく上記変更で、さらに,何らかの効果が得られるかは不明であり、当該変更により、副引用例が目的としている効果が失われてしまう。すなわち、副引用例では、コード信号である終了メッセージの時間スロット数が固定されていることにより、他の信号との識別が可能となっているのに、終了メッセージの時間スロット数を増やして、終了メッセージの一部にコード信号が含まれるようにすると、他の信号とコード信号との識別ができなくなってしまう。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 請求項において構成に関する記載により引例との相違が明確にならない場合には、引例と異なる技術的意義を請求項に記載することもできる。

進歩性 請求項において構成に関する記載により引例との相違が明確にならない場合には、引例と異なる技術的意義を請求項に記載することもできる。

 

判例No32 平成29年(行ケ)第10001号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.判例の概要

 本件発明(特願2014-116674号の請求項1に係る発明)における構成要素A「支柱が貫通する筒状の基礎体」が、引例(実開昭63-59973号)における構成要素a「支柱が貫通するパイプ」に対応する(と異なる)か否かが争われた。

 

 請求項1の記載からは、「筒状の基礎体」の技術的意義が不明確であるため、明細書を参酌して、その技術的意義が解釈された。

 その結果、構成要素Aは、当該技術的意義を有しない構成要素aには対応しないとして拒絶審決が取り消された。すなわち、本件発明の「筒状の基礎体」は引例の「パイプ」と異なるとして、拒絶審決が取り消された。

 

2.考察

 上記判例では、本件発明の「筒状の基礎体」の構成が、引例の「パイプ」の構成と異なることを、請求項1において表現するのは、かなり難しそうに思えた。本件発明の「筒状の基礎体」と引例の「パイプ」は、いずれも筒状であり、しかも、地中において、その内側にいずれも土や砂が充填されるようになっているからである。本件発明の「筒状の基礎体」の内側には土が充填され、引例の「パイプ」の内側において支柱との隙間に砂が充填されるようになっている。

 このように、請求項1における構成の表現により、「筒状の基礎体」が引例の「パイプ」と相違することを明確にするのが困難であったため、審査と審判で特許査定が得られなかった印象を受けた。

 

 上記判例では、本件発明の「筒状の基礎体」の技術的意義が引例の「パイプ」と異なることにより、両者が互いに異なるとされたので、請求項において、技術的意義を請求項に記載する補正も有効であると思う。これにより、特許庁での審査段階又は審判段階でスムーズに特許される可能性が高まるように思える。引例と構成が同じであっても、異なる技術的意義、機能又は目的が請求項に記載されていたことによって特許となった判例には、例えば次の3つがある。

進歩性 構成が同じでも機能が異なれば特許になる(物の発明)。 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 機能で進歩性が認められる。 - hanreimatome_t’s blog

 上記判例では、「筒状の基礎体」の技術的意義が、「支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける」ことであると判断されたので、上記判例の場合には、「筒状の基礎体は、支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける」というような記載を審査段階で請求項1に追加する補正も、スムーズな権利化の観点から有効であるように思える。

 

弁理士 野村俊博