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進歩性 除くクレーム

 

進歩性 除くクレーム

 

判例No.20平成20年(行ケ)第10065号審決取消請求事件

※以下は独自の見解です。

 

1.本件特許の記載

 特許第3835698号の請求項1の記載は、次の「」内と通り。ただし、下線部の箇所は、除くクレームとする補正箇所に変更した。

 

「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0.01~1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m2/g以上であり、そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが、但し、式(1):

    R=(I15-I35)/(I24-I35)      (1)

〔式中、I15は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I35は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I24は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕

で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、

ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。」

 

2.判示事項

「球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明(甲6発明)は同一であるということができる。そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない」

 ここで、「」内は上記判決からの引用です。

 

 また、上記判決は、審査基準と同じ趣旨の見地からなされています。

 

3.特許庁の審査基準

 特許庁の審査基準には、以下の各『』内の記載がある。

 

『以下の(i)及び(ii)の「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。

(i) 請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正』

 

『上記(i)における「除くクレーム」は、第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る引用発明である、刊行物等又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む。)のみを除外することを明示した請求項である。

上記(i)の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。したがって、このような補正は、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。

なお、「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。』

 

4.考察

 請求項に記載した発明の範囲の一部が、引用文献に記載の発明と重複する場合に、次の(1)を満たす場合には、当該一部を請求項から除く補正をすることによって、当該引用文献を、対象発明の新規性と進歩性を否定する検討材料から除外できると考える。

 

(1)請求項に記載した発明の技術的思想が、引用文献と顕著に異なる。

 

(考察1:新規性)

 請求項1の発明と引用文献1の発明は、次のように事項Aを有し、請求項1の発明の事項Bの概念が、引用文献1の発明の事項B’を含むとする。

 

請求項1の発明=A+B

引用文献1の発明=A+B’

 

 この場合、上記(1)を満たす場合、請求項1を次のように補正すれば、引用文献1の発明を、対象発明の新規性を否定する判断材料から除外できる。

 

「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

(考察2:進歩性)

 上記考察1において、請求項1に従属する請求項2が、事項Cを含み、この事項Cが引用文献2に記載されている。

 引用文献1に引用文献2の事項Cを組み合わせて、請求項2に容易に想到できるとして請求項2の進歩性が否定されている。

 

請求項1の発明=A+B

請求項2の発明=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

 請求項1を「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」のように補正すれば、「さらにCを含む、請求項1に記載の装置」と記載された請求項2の進歩性は、引用文献1、2によっては否定されなくなると考える。

 請求項1の補正「BがB’であることを除く」により、引用文献1は、進歩性の判断材料から除外されるからである。

 

(考察3:進歩性)

 そうすると、下記の独立請求項Xも下記の補正(除くクレームとする補正)により、進歩性が認められると考える。

 ここで、事項A,B,B’,Cは上記の通りである。

 

独立請求項X=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

請求項Xの補正:「AとBとCを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

弁理士 野村俊博

 

進歩性 特徴の表現が困難な場合には、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載すれば、請求項の限定を少なくできる。

進歩性 特徴の表現が困難な場合には、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載すれば、請求項の限定を少なくできる。

判例No.19 平成21年(行ケ)第10403号審決取消請求事件

※以下は独自の見解です。

1.本件発明のポイント
 特許第3290336号の請求項1は、次の「」内の通りに記載されている。

 「金属板を円筒状に曲成しその両端部を接合することにより形成した胴部と,この胴部の下縁部に結合した底板,及び胴部の上縁部に装着したバランスリングとを具備するものにおいて,フィルタ部材を具え,このフィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余すことを特徴とする洗濯機の脱水槽。」

隙間の技術的意義:「フィルタ部材で直接胴部の接合部を見えなくでき」(すなわち外観が良くなり)、かつ、「フィルタ部材が熱収縮しても、これとバランスリングとの間、又は底板との間にはもともと隙間があり、それらが広くなるだけで、そこには洗濯物が挟まれるようなことはない」

ここで、「」内は、上記特許の明細書からの引用です。

2.判示事項

 『確かに,「隙間」ということば自体の一般的な意味は,辞書に記載されているとおり明確であるといえる。しかし,本件発明1を記載した請求項1においては,「フィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余す」として,「隙間」について,フィルタ部材との関係で相対的に大きさを示し,バランスリング,底板及びフィルタ部材との関係で位置を示しているから,本件発明1における「隙間」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載のみでは一義的に理解することはできず,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その技術的意義を明確に理解することはできない。
 そして,明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題・課題の解決手段・作用効果との関係で「隙間」の技術的意義を考慮するならば,「隙間」は,「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認められる』ここで、『』は上記判決からの引用です。
 その結果、本件発明(請求項1)の明確性と進歩性が認められている。

 なお、本件特許による損害賠償が別の判決(平成 23年 (ワ) 8085号 各損害賠償等請求事件)で認められている。

3.実務上の指針
 明確に表現することが困難な特徴(上記の判例では、洗濯物が挟まれないようにする隙間)の数値範囲を請求項で限定せずに、特許とするためには、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載する。
 言い換えると、技術的意義を分かりやすく明細書に記載しておけば、当該特徴(隙間)を、余計な限定(数値限定)なしで引例との相違点にして、当該請求項を特許にできる。
 これは、少なくともプロパテント側の日本では言えそうに思える。

 それでも、争いを避けるために(又は外国での確実な特許取得のために)、可能であれば、当該特徴(隙間)の数値範囲などを従属請求項や当初明細書に定義しておくことが好ましい。
 例えば、上記特許では、隙間の数値範囲や、フィルタ部材の全長に対する隙間の割合などを、複数の段階で従属請求項や当初明細書に記載しておくことが好ましい。

 また、上記特許に関して「隙間」の目的を請求項に記載することも1つの選択肢になりえる。例えば、「フィルタ部材とバランスリングとの間に洗濯物が挟まれないようにするための隙間」のような表現を独立請求項1に記載することも1つの選択肢になりえる。技術的意義(作用効果)を認めてもらうためには、その作用効果を得るという目的を請求項で特定することで足りる場合もあるからである(本ブログのNo.1進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定 - hanreimatome_t’s blog

を参照)。

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例の部材Aの必須条件a(不燃性)と副引用例の部材Bの性質b(難燃性)とが似ていても、条件aを部材Bが満たすのかが副引用例から不明である以上、部材Aを部材Bに置き換える動機づけはない。

進歩性 主引用例の部材Aの必須条件a(不燃性)と副引用例の部材Bの性質b(難燃性)とが似ていても、条件aを部材Bが満たすのかが副引用例から不明である以上、部材Aを部材Bに置き換える動機付けはない。

判例No.18 平成27年(行ケ)第10233号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.本件発明と主引用例との相違点

 特許第5142055号の請求項1に係る本件発明では、透明不燃性シートからなる防煙垂壁において、透明不燃性シートが不燃性材料の規格を満たす。

 

(具体的には、請求項1に記載されているように、透明不燃性シートは、不燃性材料の規格である「輻射電気ヒーターから透明不燃性シートの表面に50kW/m2の輻射熱を照射する発熱性試験において,加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり,且つ加熱開始後20分間,最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない」を満たす)。

 

 これに対し、主引用例(甲1:米国特許第5240058号明細書)では、「樹脂で被覆したガラス繊維織物(透明不燃性シートに対応)」が透明であるとは記載されていない。

 

2.審決の判断の概要

 副引用例(甲6:特開平5-123869号公報)には、「ウエルディングカーテン材」は難燃性であると記載されており、「ウエルディングカーテン材」は透明でもあることも記載されている。

 この副引用例について、『実施例1の「ウエルディングカーテン材」は、上記(ウ)で検討したとおり、防煙垂壁に求められる「不燃性」を備えている蓋然性が高く、仮に「不燃性」を備えていないとしても、「不燃性」を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得る単なる設計的事項である。』と判断している。

 ここで、『』内は、審決(無効2014-800024号)からの引用です。

 

3.判示事項

 主引用例(甲1)への副引用例(甲6)の適用について、『甲6文献には,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすものであるか否かについてはその記載がなく,甲6発明のウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすかどうかは不明である。防煙垂壁において,不燃性規格を満たすべきことが周知の課題であったことからすると,当業者が,甲1発明の防煙垂壁として,甲6発明のウエルディングカーテン材を組み合わせる動機付けに乏しいといわざるを得ない。』と判断している。ここで、『』内は、上記判決からの引用です。

 

 また、副引用例(甲6)において、ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たすことが記載されていない点について、『甲6文献からこの点が明らかではない以上,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たす蓋然性が高いとまではいえず,当業者が甲6文献の実施例1の再現実験をして,同ウエルディングカーテン材が不燃性規格を満たしているかどうかを確認するのが当然であるということもできない』と判断している。ここで、『』内は、上記判決からの引用です。

 

 上記を理由の1つとして、本件発明の進歩性を否定した審決が取り消されている。

 

4.実務上の指針

 権利化しようとする対象発明の進歩性が、下記(1)の論理付けにより否定されそうな場合、下記(1)の論理付けが最もらしくても、下記(2)に該当する場合には、諦めずに例えば下記(3)のような反論をする。

 

(1)主引用例において部材Aが条件a(不燃性)を満たすことが必須であり、副引用例の部材Bが条件aに似た性質b(難燃性)を有しており、主引用例において部材Aに部材Bを適用すると(部材Aを部材Bに置き換えると)対象発明に至る。

 

(2)部材Bが条件aを満たすかが副引用例からは不明である。

 

(3)副引用例において部材Bが条件aを満たすかが不明である以上、主引用例において、条件aを必須とする部材Aを、部材Bに置き換える動機付けはない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 無理な用語解釈を前提として進歩性が否定されていないかを確認する。

進歩性 無理な用語解釈を前提として進歩性が否定されていないかを確認する。

 

判例No.17-2 平成28年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、『』内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 本件発明の進歩性を否定した審決の取り消し理由として、サービスという用語の解釈に無理があることを挙げている。

 

2.審決での用語解釈

 本件発明と引用発明との一致点が、本件発明と引用発明とは、所定の場合に、所定のサービスの実行を許可している点で一致しているとしている。

 これに関して、サービスを次のように解釈している。

 「サービス」とは,「サービス要求と,それに対し,何らかの利便を提供する行為の総称」である。

 

3.判示事項

『被告は,前記の「サービス」とは,「サービス要求と,それに対し,何らかの利便を提供する行為の総称」であると主張する。前記の定義は,その文言上,①第1の主体が,第2の主体に対し,何らかのサービスを要求する行為,②第2の主体が,第1 の主体からの何らかのサービスの要求に対し,第1の主体又は第3の主体に対し,何らかの利便を提供する行為という,2 種類の行為を含んでいる。

 「サービス」は,「①奉仕,②給仕。接待。③商売で値引きしたり,客の便宜を図ったりすること。④物質的生産過程以外で機能する労働。用益。用務。⑤(競技用語)サーブに同じ。」(広辞苑第6版)と解されているのであって,前記の行為のうち,「第2の主体が,」「第1の主体又は第3の主体に対し,何らかの利便を提供する行為」は,「サービス」と表現され得るが,「第1の主体が,第2の主体に対し,何らかのサービスを要求する行為」は,「サービス」と表現され得るとは考えられず,「サービス」を,前記の2種類の行為を一個の概念に包括する総称と定義することには,無理がある。』

 

 このような無理な用語解釈を理由の1つとして、審決が取り消されている。

 

4.実務上の指針

 権利化しようとする対象発明の進歩性が、次の(1)のように否定されている場合、次の(2)の反論をする。

 

(1)対象発明の進歩性を否定する論理が、無理な用語解釈を前提としている。

 

(2)用語解釈に無理があることを、辞書(広辞苑)の定義に基づいて反論する。

 

 弁理士 野村俊博

進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

判例No.17平成28年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.判決の概要

 審決では、引用文献の記載事項を上位概念化した内容と、本件発明の事項を上位概念化した内容とが一致する点を、引用文献に記載の発明と本件発明との一致点としているが、引用発明の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

2.本件発明の要点

 第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータが第2通信装置によってアクセスされるべきかを決定する方法において、第1通信装置と第2通信装置との間の距離測定を実行し,測定された距離が事前に規定された距離間隔の範囲にある場合に、第2通信装置によるマルチメディアデータへのアクセスを許可する(特願2010-103072号の請求項1の概要)。

 

3.審決の概要

 本件発明では、第1通信装置と第2通信装置との距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータへの,第2通信装置によるアクセスを許可している。このように、上記距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置は、第2通信装置にマルチメディアデータへアクセスさせるというサービスの実行を許可している。

 

 引用発明(甲1:特開平9-170364号公報)では、車両側無線装置と携帯型無線装置との距離が規定範囲にある場合に、車両側無線装置が,携帯型無線装置からの応答信号に基づいて,ドアの解錠指令を送出している。このように、車両側無線装置は、ドアの解錠指令の送出というサービスの実行を許可している。

 

 したがって、本件発明と引用発明とは、上記距離が規定範囲にある場合に、所定のサービスの実行を許可している点で一致している。

 

4.判示事項

 引用発明において、車両側無線装置が搭載された車のドアの解錠指令の送出を決定することを、所定のサービスの実行を許可することとして抽象化し、このように上位概念化(抽象化)された動作を、引用発明の記載事項(構成要素)であると評価することは許されない。その理由として、次の(A)(B)を挙げています。

 

(A)「甲1発明は,車両のドアに限定されないものの,ドアの施解錠に限定されたものであるといえる。」ここで、「」内は上記判決文からの引用です。

 

(B)サービスという用語の解釈に無理がある。詳しくは、本ブログの判例No.17-2http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2017/01/24/123746を参照。

 

5.実務上の指針

 まず、別の判例(平成14年(行ケ)第546号 審決取消請求事件)では、「進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提作業として行われるものである。相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,」と判断されています(ここで「」内は当該別の判例からの引用です)。

 

 しかし、今回の判例のように、次の(1)に該当する場合には、その旨を反論できる。

(1)引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用発明の記載事項が上位概念化して認定されている。

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

 

判例No.16平成28年(行ケ)第10011号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.本件特許発明の要点

 本件特許(特許第4553629号)の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という)は、以下の特徴A,Bを有し、特徴Bにより以下の効果Cを奏する。

 

 特徴A:

 掘削により削り出される掘削土が、ケーシング内で吹き上げられて、ケーシングの排土口から外部へ排出される場合において、掘削土飛散防止装置は、前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている衝突部と、ケーシングを囲む筒状部とを含み、衝突部に衝突した掘削土がケーシングと筒状部との間を落下するようになっている。

 

 特徴B:

 掘削土飛散防止装置は、さらに、蛇腹状の側壁を有する筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有している。巻き取り装置がワイヤーを巻き取りまたは繰り出して、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さが調整される。

 

 特徴Bによる効果C:

「ワイヤーの巻き取り・繰り出し操作を通じて蛇腹部分(筒状部)の伸縮を繰り返すことによって、落下して来る途中で筒状部の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になる。また、ダウンザホールハンマの掘進に伴って筒状部の長さを調整することができるので、蛇腹部分(筒状部)の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になる。」

 

2.相違点について

 特徴Bは、引用発明(特開2001-32274号公報)との相違点であるが、引用例6(特開平11-107661号公報)に記載されている。

 

3.争点 引用発明に引用例6の構成を組み合わせることが容易か

(目的の相違)

 引用例6のジャバラ筒を設ける目的は、次の効果(1)(2)を達成することにある。

(1)オーガスクリュー外周を覆うことにより、砂はジャバラ筒を伝って落下しオーガスクリュー3の上部からの土砂の飛散は防止される。

(2)ワイヤーの一端をジャバラ筒の下端近傍に連結し,他端をウインチに連結させている。この構成で、ウインチの捲上げ捲戻しでジャバラ筒の下端を上下動させることにより、ジャバラ筒下端と地表との間を所定の高さに保持できる。したがって、ジャバラ筒下端と地表との間を通して、オーガスクリューの羽根上の土砂の取除き作業を行える。

 

 引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は,次の効果(3)を達成することにある。

(3)伸縮カバー(34)は,中空コンクリート杭(1)を覆うことにより、押し上げられた土砂(17)を,中空コンクリート杭(1)との間を通って落下させ土砂の飛散を防止する。

 

 以上により、引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は、引用例6においてジャバラ筒を設けることにより上記効果(2)を達成するという目的と異なる。

 

(使用態様の相違)

 引用例6のジャバラ筒4は,削孔作業中,その下端と地表との間に所定の高さを有するのに対し,引用発明の伸縮カバー(34)は,掘削時,その下端が接地している。

 よって、両者の使用態様は互いに異なる。

 

4.判示事項

 筒状部(ジャバラ筒)の下端を所定の高さに維持することを前提とした引用例6の構成(伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を,筒状部の下端を接地させる引用発明に適用することは、直ちに想到できるものではない。

 上記の目的の相違と使用態様の相違を考慮すると、引用例6の構成を引用発明の伸縮カバー(34)に組み合わせようとする動機付けは存在しない。

 したがって,引用発明において本件特許発明の特徴Bを備えるようにすることを,引用例6に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

5.実務上の指針

 以下の前提(1)の場合に、以下の理由(2)により、対象発明の進歩性が否定されたら、以下の反論(3)ができる場合には、その反論をする。

 

(1)対象発明と主引用例との相違点は、対象発明が特徴Xを有していることにあるが、特徴Xは副引用例に記載されている。

 

(2)主引用例(本判例では引用発明)において、その一部の構成要素(本判例では伸縮カバー)に副引用例(本判例では引用例6)の特徴X(本判例では伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を組み合わせることにより、対象発明に容易に想到できる。

 

(3)主引用例の上記構成要素と、副引用例の上記構成とは、それを設ける目的が互いに異なるだけでなく、その使用態様(使用状態)も互いに異なるので、主引用例の上記構成要素に副引用例の上記構成を組み合わせることの動機付けはない。したがって、主引用例において特徴Xを備えるようにすることを,副引用例に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博

請求項の記載 発明の構成要素の名称を単に「部材」ではなく「~材」とすると、技術的な観点から何らかの限定が「~」にあると解釈され得る。

請求項の記載 発明の構成要素の名称を単に「部材」ではなく「~材」とすると、技術的な観点から何らかの限定が「~」にあると解釈され得る

 

判例No.15平成21年(ネ)第10006号補償金等請求控訴事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、『』内は、上記の判決文または特許第3725481号からの引用です。

 

1.争点 構成要件の充足性

 本件特許(特許第3725481号)の「縫合材」を、被告製品の構成〈d〉(帯片)は文言上充足するか。

 

 本件特許の「縫合材」は、請求項1において『前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した』と記載されている。

 

 被告製品の構成〈d〉は、『透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる』と認められる。

 

2.「縫合材」の意味

『単に「部材」などの語を用いることなく,「縫合材」との語を選択した以上,その内容は,単なる「部材」とは異なり,何らかの限定をして解釈されるべきところ,その限定の内容を技術的な観点をも含めて解釈するならば,「縫合材」とは,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であると解するのが相当である。』

 

なお、「縫合材」は、請求項1において通常の意味とは異なる意味で用いられており、請求項1の記載からは、「縫合材」の技術的意義を一義的に確定することができないので、明細書の記載も考慮して上記のように解釈されている。

 

 

3.結論

 被告製品の「帯片」は,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではないので、「縫合材」であることの要件「少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する」を文言上充足しない。

 

4.実務上の指針

 請求項1において構成要素の名称を単に「部材」とせずに、「~材」や「~部材」とする場合には、当該修飾語「~」により限定がなされていると解釈され得る。

 そのため、構成要素の名称を「~材」や「~部材」とする場合には、当該「~」として、発明に必須の事項(例えば機能)を表わす修飾語を用いるようにする。

 

弁理士 野村俊博