進歩性 発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない。

判例No. 48 平成23年(行ケ)第10273号 審決取消請求事件

 

進歩性 発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の概要

 2次元面発光レーザアレイにおいて、面発光レーザ素子が,行方向と列方向に2次元状に配列される場合に、行方向に隣接するレーザ素子同士の隙間(上記特許出願ではメサ間と呼ばれている)を通る配線数が多いほど、当該隣接するレーザ素子同士の隙間を大きくする構成を採用している。

 これにより、全体のサイズを抑えながらより多素子化している。

 

2.引用文献について

 特開2007-242686号公報(以下、単に引用文献という)には、V C S E L アレイ(面発光レーザアレイ)について。次の記載がある。

 

 記載:「VCSELアレイが8×8個の面発光レーザ素子からなる場合、特許文献3で指摘されているように、最外周に位置する面発光レーザ素子の間を通過する配線の本数は、複数本とならざるを得ない。その結果、その分、面発光レーザ素子の間隔を広くとらなければならなくなり、2次元VCSELアレイのサイズが大きくなってしまう」

 

 しかし、引用文献の全記載は、面発光レーザアレイにおいて、面発光レーザ素子が等間隔で配列されていることを前提としていると思う。

 また、原告は、「走査対象であるレーザアレイのスポット間隔は等間隔にしようと考えるのが,通常の当業者の考え方である」と主張している。

 

3.判示事項の概要

 本件発明の次の構成Aは、次の着想Bに基づいて採用されている。

 

 構成A:

「前記面発光レーザ素子の個別駆動用の電気配線を配するためのメサ間の間隔が,前記メサ間を通過させる前記電気配線数に応じ,前記m行方向における間隔が大きくなるように割り振られた構成とする」

 ここで「」内は本件特許出願(特願2007-250663)の請求項1からの抜粋です。

 

 着想B:

「電子写真装置に用いられる2次元面発光レーザアレイにおいて、その発光スポットは主走査方向に等間隔に並んでいる必要はない」

 ここで「」内は上記本件特許出願からの抜粋です。

 

 これに対し、引用文献には、上記着想Bは記載されていない。

 また、引用文献では、発光スポット(面発光レーザ素子)は、ほぼ等間隔で配列されており、引用文献には、上記構成Aも記載されていない。

 したがって、上記着想Bに基づいて上記構成Aを採用することは引用文献から容易であると言えない。

 

3.実務上の指針

 構成Aは、隣接するレーザ素子同士の隙間(メサ間)を通す配線数の増加に応じて、この隙間を大きくするものであるので、当たり前のようにも思える。

 しかし、2次元面発光レーザアレイの分野においては、多数のレーザ素子を等間隔に配列するのが通常であるので、この等間隔を不要とする上記着想Bが重要視されたと思う。

 その結果、着想Bに基づく構成Aは、容易でないとされている。

 

 したがって、次のことが言えると思う。

「発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない」

 

 なお、簡単に思いつきそうな構成が、新規な着想に基づくものである場合には、上記特許出願のように、この構成を採用した発明の特許出願の明細書には、その着想も記載しておくのが良いと思う。明細書に着想の記載があれば、このような着想が進歩性の根拠になり、当該根拠の主張がし易くなると思うからである。

 

弁理士 野村俊博

権利範囲 「~部」が「~部材」に設けられているという請求項の記載は、「~部」が「~部材」の一部であると解釈され、「~部」を独立した部材とした製品は文言侵害を構成しない可能性がある。

判例No. 47 平成29年(ワ)第18184号 特許権侵害行為差止請求事件

 

権利範囲 「~部」が「~部材」に設けられているという請求項の記載は、「~部」が「~部材」の一部であると解釈され、「~部」を独立した部材とした製品は文言侵害を構成しない可能性がある。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の内容

 上記判例の対象である発明は、特許第4736091号の次の請求項1により特定される。

 

「【請求項1】

 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって,

 先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,

 これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,

 前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,

 前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。」

 この請求項1の記載は、特許第4736091号から抜粋であるが、下線はここで付した。

 

 すなわち、本件発明では、2対の揺動部材のうち、一方の対の揺動部材に係合部を設けている。この係合部は、一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材と組み合わされたときに、他方の対の揺動部材に係合する。その結果、この係合方向に、一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材から外れないようになる。

 

2.判示事項の概要

(文言侵害の否定)

 本件発明の係合部は、揺動部材の一部であると解される。したがって、被告製品において係合部に対応する部材は、揺動部材の一部ではなく、独立した部材である。そのため、被告製品は、「係合部が揺動部材の一部である」という要件を充足しないので、文言侵害を構成しない。

 次の『』内は、これに関する上記判例からの判示事項の抜粋です。

 

『請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載は,その一般的な意味に照らすと,「係合部」が揺動部材の一方の一部を構成していると解するのが自然であり,原告の主張するように,揺動部材とは別の部材が係合部を構成する場合まで含むと解するのは困難である。』

 

(均等侵害の肯定)

 本件発明の本質は、一方の対の揺動部材を他方の対の揺動部材と組み合わせるとともに、この時に一方の対の揺動部材を他方の対の揺動部材に係合させることにある。

 したがって、係合部が揺動部材の一部であるかどうかは、本質的部分ではない。したがって、均等侵害が成立するための第1要件が充足される。他の要件も充足されるので、被告製品は均等侵害を構成する。

 

3.実務上の指針

 「~部(上記判例では係合部)」がある部材に設けられていると請求項に記載すると、この「~部」を独立した部材とした製品は、文言侵害を構成しなくなる可能性が高い。

 そこで、「~部」がある部材(上記判例では揺動部材)の一部であっても独立した部材であってもよい場合に、この点を請求項と明細書に反映しておく。

 上記判例について、請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」に代えて、例えば、「一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材に組み合わされたときに、両者を係合させる係合部を備える」と記載するのがよいと思う。合わせて、従属請求項又は明細書に「係合部は、揺動部材の一部であり、又は、揺動部材とは独立した部材である」と記載しておくのがよいと思う。

 

 一方、請求項に記載した「~部」が、ある部材の一部として記載されていることが理由で、この「~部」を独立した部材とした製品が、文言侵害を構成していなくても、次の場合には、均等侵害を主張できる可能性が十分にあると思う。

・「~部」が、ある部材の一部であるか独立した部材であるかが発明の本質でない場合。

 例えば、上記判例のように「~部」の機能(上記判例では、「2対の揺動部材同士を係合させるという機能」)が発明の本質である場合には、均等侵害となる可能性が十分にあると思う。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 発明の課題の設定や着眼がユニークである場合には、当該課題を解決するための構成が容易であったとしても、当該発明が容易想到であるということはできない。

判例No. 46 平成22年(行ケ)第10075号審決取消請求事件

 

進歩性 発明の課題の設定や着眼がユニークである場合には、当該課題を解決するための構成が容易であったとしても、当該発明が容易想到であるということはできない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 発明の構成が容易であるとしてその進歩性が否定されても、当該発明の解決課題が、一般的には着眼しないユニークなものである場合、当該課題がユニークであることに基づいて発明の進歩性を主張できる。

 

 上記判例に倣うと、より詳しくは次の通り。

 対象発明が、構成A,Bを有し、構成Aが主引用例に記載され、構成Bが周知であり、主引用例の構成Aに周知の構成Bを適用することは容易であるとして、対象発明の進歩性が否定された場合を想定する。

 この場合、対象発明において、構成Bにより解決される課題が、主引用例に何ら示唆されておらず、一般的には着眼しないユニークなものである場合、対象発明が容易とは言えないので、その旨を反論できる。

 

3.本件発明の内容

 上記判決で対象となった本件発明は、次の通りです。

 

「【請求項1】

金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該

金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇

フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,

皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されているこ

とを特徴とする換気扇フィルター。」

 ここで、「」内は、特許3561899号公報からの抜粋です。

 

 すなわち、本件発明は、次の構成A,Bを有する。

 構成A:「金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,接着剤を用いて接着されている」

 

 構成B:「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いている」

 

 構成Bの水性エマルジョン系接着剤は、水が付与されると、接着力が低下する性質を持つので、使用後の換気扇フィルターを水に浸漬することにより,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分離できる。これにより、次の課題が解決される。

 

課題:「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」

 

3.本件発明に対する主引用例と周知技術

 主引用例には、上記構成Aが記載されているが、上記構成Bは記載されていない。

 周知技術を示す副引用例には、上記構成Bが記載されている。

 

2.上記判例の概要

 上記判決では、次のことが前提として述べられている(ここで、『』内は、上記判決からの抜粋です。『』内の下線はここで付しました)。

 

前提

『当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。

 

 上記の前提の後、次のように判断している。

 本件発明の上記課題は、主引用例にも副引用例にも示唆されていない。

 更に、他の公知文献には、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを一体物としてゴミ出しをしても問題が生じることがないようにして,作業を性を高めるものようにする手段が記載されている。この公知文献は、解決課題の設定及び解決手段が,本件発明と全く逆である。

 以上のように、本件発明の解決課題を設けることが、どの文献にも示されていない以上,当業者において,主引用例に、副引用例の構成Bを適用することによって,本件発明に想到することが容易であったとすることはできない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 本願発明と比較される引用発明が引用文献に記載されているといえるためには、引用文献の記載及び技術常識に基づいて、その物を作れることが必要である。

判例No. 45 平成29年(行ケ)第10117号 特許取消決定取消請求事件

 

進歩性 本願発明と比較される引用発明が引用文献に記載されているといえるためには、引用文献の記載及び技術常識に基づいて、その物を作れることが必要である。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 引用文献に記載の引用発明に基づいて、本願発明の新規性又は進歩性が否定されている場合、次の(i)に該当すれば、その旨を反論できる余地がある。

 

(i)引用文献に記載の引用発明は具体的ではなく抽象的であり、引用文献の記載と技術常識から直ちに引用発明を作ることができず、引用発明を作るには試行錯誤が必要である。

 

2.上記判例の概要(独自解釈)

 まず、前提として、次のことが述べられている。

「刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。」

 この「」内は、上記判例からの抜粋です。

 

 次に本件の場合を次のように判断されている。

 前審の取消決定では,引用例1に記載の引用発明1を、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定している。

 しかし、このようなラテラルフローデバイスでは、異なる二つのモノクローナル抗体の適切な組み合わせで抗原を挟み込むサンドイッチ複合体を形成することが必要である。これについて、引用例1には、このようなサンドイッチ複合体を形成可能な具体的なモノクローナル抗体の組み合せが記載されていない。

 したがって、上記サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体の組合せを、試行錯誤によって,見つけ出す必要があるので、引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,引用発明1のラテラルフローデバイスを直ちに作ることができない。

 よって,引用例1にラテラルフローデバイスが記載されているとはいえない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性:対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念で共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、この置換は、容易に想到できる事項ではない。

判例No. 44 平成29年(行ケ)第10212号 審決取消請求事件

 

進歩性:対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念で共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、この置換は、容易に想到できる事項ではない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明

 特許第5569848号における訂正後の請求項1は、次の通り。

【請求項1】

 黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の全部を,ナタネ

油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。

 

 以下で、この請求項1に係る発明を本件発明という。

 

本件発明の効果:

 油脂を含むコート剤で、上述の黒ショウガ成分含有コアの表面の全部を被覆することにより、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まる。

 

2.主引用例

 主引用例のポリフェノール類製剤は、ポリフェノール類微細粒子(本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」に対応)の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層(例えばパーム油脂)を形成したものである。

 

 ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)を油脂被覆剤層で覆うことにより、次の効果が得られる。

 効果:ポリフェノール類に特有の渋味・苦味が消される。

 

3.公知の事実

 黒ショウガにポリフェノールが含まれることは公知である。

 

4.進歩性の判断の独自解釈

 上記判決において進歩性有りとされた一番の決め手は、本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」と主引用例の「ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)」とが、ポリフェノール類を含む粒子という上位概念では共通するが、性質の程度の点で相違していることにあったと思う。

 すなわち、ポリフェノールの含有量は、本件発明の黒ショウガでは1%にも満たないのに対し、主引用例では1%以上(茶では10~18%程度、ブドウ種子では5%程度)である点で、両者は相違する。

 この相違により、本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」には、ポリフェノール類に特有の渋味・苦味があるとは言えず、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の渋味・苦味を消すために、当該粒子を、油脂を含むコート剤で被覆する動機づけは主引用例には無いとされた。すなわち、主引用例において、ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)を「黒ショウガ成分を含有する粒子」に置換する動機づけは無いとされた。

 その結果、上記判決では、本件発明の効果を考慮しなくても、本件発明は、主引用例及び公知技術から容易に想到できたものではないとされた。

 (なお、前審である無効審判では、本件発明の効果が、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるということが考慮されたことで、本件発明の進歩性が肯定された)。

 

 したがって、次のことがいえると思う。

 対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念(上記判決では、ポリフェノール類を含む粒子という上位概念)では共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度(上記判決では、ポリフェノール類の含有量)の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、上記置換は、容易に想到できる事項ではない。

 

 なお、上記と関連して、対象発明と主引用例とで性質の程度が違うことにより技術的意義が相違するという理由で、対象発明の進歩性が肯定された判決を、次のブログに記載しています。

進歩性 構成が同じに見えても技術的意義が異なれば特許になる - hanreimatome_t’s blog

 

弁理士 野村俊博

進歩性 本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

判例No. 43 平成29年(行ケ)第10201号 審決取消請求事件

 進歩性:本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

1.本件発明の内容

 本件発明は、特許第5356625号の訂正後の請求項1に係る発明である。

 すなわち、本件発明は、肌をマッサージする一対のボールをハンドルの先端部で軸線まわりに回転可能に支持し、ボールの各軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ,各ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されている。

 訂正後の請求項1は、詳しくは、次のように記載されている。

 

【請求項1】

「ハンドルの先端部に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,

 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し,

 一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし,

 前記ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており,

 ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした

 ことを特徴とする美容器。」

 

 本件発明では、次の構成Aと構成Bとが互いに関係している。

 

構成A:

「ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ、一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし」

 

構成B:

「ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており」

 

 構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。

 この問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

2.主引用例との対比

 主引用例には、構成Aに似た構成が記載されているが、構成Bは記載されていない。

 

3.副引用例との対比

 副引用例には、構成Aは全く記載されていないが、構成Bは記載されている。

 

4.判示事項

 本件発明では、構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。すなわち、構成Aは、ボール支持軸が肌に接触してしまう構成である。

 このような構成Aの問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

 したがって、本件発明において、構成Bと構成Aは、「それぞれ別個独立に捉えられるべきものではなく,相互に関連性を有するものとして理解・把握するのが相当である」。

 ここで、「」内は上記判決からの抜粋です。

 

 よって、副引用例において構成Aと関係なく単に構成Bが記載されていることに基づいて,構成Bを主引用例において採用することに当業者が容易に想到し得たということはできない。

 

5.実務上の指針

 したがって、本願発明において構成Aと構成Bが互いに関係しており、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されている場合に、次のような拒絶理由通知が来た場合には、上記判例に基づいて反論できる可能性がある。

 

拒絶理由通知:

「主引用例に副引用例の構成Bを採用することで、本願発明に容易に想到できる。」

 

弁理士 野村俊博

進歩性 一般的要請に基づいて周知技術を引用発明に適用する場合に、当該周知技術が引用発明の前提になじまない場合には、当該適用は容易ではない。

判例No. 42平成18年(行ケ)第10488号審決取消請求事件

進歩性 一般的要請に基づいて周知技術を引用発明に適用する場合に、当該周知技術が引用発明の前提になじまない場合には、当該適用は容易ではない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 引用発明に周知技術を適用することにより、本願発明に容易に想到できる旨の拒絶理由通知を受けた場合に、次の(1)を検討する。

 

(1)引用発明の前提が、周知技術になじまないものであるかを確認する。すなわち、引用発明の前提となる制御又は構成が、周知技術の制御又は構成に反するものであるかを確認する。

 

(2)引用発明の前提が周知技術になじまなない場合には、周知技術を引用発明に適用する阻害要因があるので、当該適用は容易ではない。

 

2.前審である審決で認定された相違点

 本願発明では、発光素子がPWM調光駆動されるに対し、引用発明(国際公開第01/45470号に記載の発明)では、発光素子のPWM調光駆動については記載されていない。

 

3.上記判決で認定された引用発明の内容

 引用発明では、商用交流電流から、その電圧が一定値以上となる一部期間でのみ電力をLEDランプに供給することにより高効率な電力供給を実現する構成において、LEDランプに流れる電流を一定にすること、すなわち、LEDランプの連続的な点灯を前提としている。

 

4.争点

 当業者にとって、周知技術のPWM調光技術を引用発明に適用することが容易であるか否か。

 

5.判示事項

 引用発明では、LEDランプに流れる電流が一定となるように制御されることを前提としているのに対し、PWM調光駆動では、LEDに流れる電流をオン・オフさせる制御を行うのであるから,制御の方法において両者はなじまない。

 したがって、発光強度を調節するという一般的要請があり、その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても、引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情(阻害要因)がある。

 よって、一般的要請に基づいて周知技術のPWM調光技術を引用発明に適用することは容易でない。

 

弁理士 野村俊博