進歩性 設計事項

進歩性 設計事項

 

判例No.25平成25年(行ケ)第10229号 審決取消請求事件

※以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 本件発明は、主引用例に記載されていない特徴Xを有するとする。特徴Xは、周知技術と同様であるとする。

 このような場合、主引用例において特徴Xを採用することは設計事項であるとされ得る。

 しかし、次の条件を満たせば、特徴Xが設計事項であるとは言えない。

 

 条件:本件発明と周知技術とは、特徴Xを採用する部位(箇所)が異なることにより、両者の技術思想が異なる。

 

2.上記判例の独自解釈

2.1 前提事項

 上記の判例では、本件発明は、特許第4590247号の請求項1に係る発明(靴下の編成方法)である。

本件発明は、靴下の踵部の外側部分において、特徴X「靴下の編地面積を大きくすること」を採用している。すなわち、本件発明では、踵部の外側方向にウェール数を多めに編成している。

 主引用例(特開2003-82501号公報)は、上記の特徴Xを有していない。

 周知技術(甲11:特開2004-218131号公報)では、特徴Xを靴下の爪先部の親指側部分に採用している。

 

2.2 争点

 主引用例において、靴下の踵部の外側部分において、特徴Xを採用することは設計事項であるか。

 

2.3 判示事項(独自解釈)

 本件発明では、特徴Xを踵部の外側部分に採用することにより、人の踵の形状によりよくフィットする靴下が得られる。

 これに対し、周知技術では、特徴Xを爪先の親指側部分に採用することにより、ゴアラインが足の爪先の周縁に位置してはき心地が低下するのを解消できる。すなわち、周知技術は、「ゴアラインを構成する編糸が着用者の指先或いは指周縁に当たり不快感を生じ」ることを解消するものであり(当該「」内は特開2004-218131号公報からの抜粋です)、本件発明の技術的思想「人の踵の形状によりよくフィットする靴下」と異なる。

 したがって、主引用例において特徴Xを踵部の外側部分に採用することは、設計事項ではない。

 

 なお、次の「」内は、上記判例からの抜粋です。

 「甲11に記載されているのは,靴下の爪先部のゴアラインが足の爪先の周縁に位置してはき心地が低下するのを解消する目的で,爪先部の点に着目して親指側の編地面積を大きくするというものであって(段落【0008】),その際,爪先部と踵部の編成中心を90度変位させる発明であるとしても(【図1】),爪先部の編成にあくまでも発明の重点があるのであって,人の踵の形状によりよくフィットする靴下に関し,踵部の編成において踵部の外側を内側よりも大きくするという本件発明や,踵部の形状を非対称形とするという甲1発明とは技術思想が全く異なる。そうすると,被告が主張するように,甲11を根拠に,踵部の形状に着目して同部位の両側の編成を適宜変位させることが当業者の選択し得る設計事項ということはできないというべきである」

 

3.審査基準の参照

 本件発明においてある特徴Xを採用する部位が、周知技術や公知技術において特徴Xを採用する部位と異なることにより、新たな課題を解決したり新たな作用効果が得られる場合には、特徴Xは設計事項とはいえないと思う。

 この場合には、下記の審査基準の抜粋の(i)から(iv)のいずれにも該当しないと思えるからです。

 

 次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。

「(1) 設計変更等請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、以下の(i)から(iv)までのいずれか(以下この章において「設計変更等」という。)により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。

(i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択(例1)

(ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化(例2)

(iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換(例3)

(iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用(例4及び例5)

これらは、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないからである。」

 

弁理士 野村俊博

進歩性 方式の置換容易性

判例No.24 平成25年(行ケ)第10277号 審決取消請求事件

 

進歩性 方式の置換容易性

以下は独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 主引用例における発明で使用する方式(上記判例では、真空法)を、関連する技術分野における他の公知の方式(上記判例では、雰囲気法)に置き換えることは、次の(1)の審査基準の内容により容易であるように見えるが、次の(2)に該当する場合には容易でない。

 

(1)特許庁の審査基準からの抜粋:「主引用発明の課題解決のために、主引用発明に対し、主引用発明に関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。」

 

(2)方式毎に特定の内容(上記判例では、材料)を採用することが本願出願時の技術常識となっており、技術常識から、主引用例における発明の内容(上記判例では、使用される材料)が、方式の違いを超えて相互に利用可能であるとはいえない。

 

2.本件発明と主引用例との比較

一致点:本件発明(特願2006-540530号公報の請求項1)と主引用例(特開2000-303132号公報)のいずれにおいても、アルミニウムのフラックスレスろう付け方法において、芯材に同じ材料(イットリウムを含む材料)を使用していること。

 

 相違点:フラックスレスろう付け方法は、本件発明では雰囲気法(管理された窒素の雰囲気で行われる方法)であるのに対し、主引用例では真空法(真空雰囲気下で行われる方法)であること。

 

 なお、次の「」内は、本件発明(特願2006-540530号公報)の請求項1の抜粋です。

【請求項1】

「管理された窒素の雰囲気下で無フラックスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための,重量パーセントで,少なくとも80%のアルミニウム,ならびに,Si<1.0% Fe<1.0% Cu<1.0% Mn<2.0% Mg<3.0% Zn<6.0% Ti<0.3% Zr<0.3% Cr<0.3% Hf<0.6% V<0.3% Ni<2.0% Co<2.0% In<0.3% Sn<0.3%,合計0.15%であるその他の元素それぞれ<0.05%,を含む芯材用のアルミニウム合金製の帯材または板材における,0.01~0.5%のイットリウムの使用。」

 

3.争点

主引用例において、真空法を雰囲気法に置き換えることは容易かどうか。

 

4.判示事項

 主引用例において、真空法を雰囲気法に置き換えることは容易ではない。

 その理由:アルミニウムのろう付け方法には、フラックス法とフラックスレス法があり、フラックスレス法には真空法と雰囲気法がある。「本願出願時には,ろう付け法ごとに,それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており,ろう付け法の違いを超えて相互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない。」

 ここで、「」内は、上記判例からの抜粋です。

 

 弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例への副引用例の適用の容易想到性

進歩性 主引用例への副引用例の適用の容易想到性

判例No. 23平成23年(行ケ)第10396号 審決取消請求事件

以下は独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 下記(1)の場合、下記(2)(3)に該当すれば、下記(1)の適用は容易でない。

(1)本件発明の構成Xが主引用例との相違点であり、副引用例に記載された同じ構成Xを主引用例に適用すれば、本件発明に想到する。

 

(2)本件発明において構成Xで得られる技術的意義Aは、副引用例において構成Xで得られる技術的意義Bと大きく異なる。

(3)主引用例において技術的意義A、Bのいずれを得るべきかが、主引用例から不明である。

 

2.上記判例の独自見解

2.1 上記判例における前提事項

 本件発明は、特許第5220259号の請求項1に係る発明である。

 本件発明は、構成X(特許第5220259号における請求項1の下記抜粋の下線部)を備える。

 主引用例(引用文献1)には、構成Xが記載されていない。

 構成Xは、副引用例(引用文献2、3)に記載されている。

 

 特許第5220259号の請求項1は次の通りです。この請求項1の下線部は、ここでの説明のために付したものです。

 

「【請求項1】

複数の周方向に間隔を置いて配置されたバケット(18)を支持する、それに沿って軸方向に間隔を置いた位置にホイール(16)を有し、かつ軸線の周りで回転可能なロータ(14)と、

周方向に間隔を置いて配置された翼形部(26)と該翼形部の対向する端部に配置された内側及び外側バンド(28、29)とを有する、軸方向に間隔を置いて配置された周方向のノズル(24)列と、を含み、

前記軸方向に間隔を置いて配置されたバケットと前記ノズル列とが、少なくとも1対の軸方向に間隔を置いて配置されたタービン段を形成し、

前記バケットが、該バケットを前記ロータホイールに固定するためのダブテール(20)と該バケットの半径方向内端部に沿ったプラットフォーム(40)とを有し、前記プラットフォームと前記翼形部と前記内側及び外側バンドと前記バケットとが、タービンを通る流体流れ用の流路(10)の一部を形成し、

前記ホイールの1つの上にある前記バケットダブテールが、前記プラットフォームから半径方向内側の位置に沿った前記ノズル列の1つに向かってほぼ軸方向に延びる突出部(42、44)を支持し、また前記1つのノズル列のノズルが、ラビリンス歯(46、50)を支持し、前記ラビリンス歯が、前記突出部と共に前記1つのホイールと前記1つのノズル列との間にあるホイールスペース内に流入する、前記流路からの漏洩流を減少させるためのシールを形成しており、前記プラットフォーム(40)の前縁(70)は、上流方向において半径方向内向きにフレア状にされて、上流側のノズル(24)の内側バンド(28)の後縁の半径方向内側に位置する

ことを特徴とするタービン。」

 

2.2 争点

 主引用例に副引用例の構成Xを適用することは容易か。

 

2.3 判示事項の独自見解

 主引用例に副引用例Xを適用することは容易ではない。

 理由は次の通りです。

 構成Xは、技術的意義A(タービン主流の漏れを抑制)と技術的意義B(タービン主流への漏れを抑制)のいずれかを得るためのものである。

 技術的意義Aは、技術的意義Bと大きく異なる。

 本件発明の構成Xは、技術的意義Aを得るためのものであるのに対し、副引用例の構成Xは、技術的意義Bを得るためのものである。

 また、主引用例では、どちらの技術的意義を発揮させるべきか不明である。

 したがって、主引用例に副引用例の構成Xを適用して技術的意義Aを有する本件発明に想到することは、容易でない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 性質又は機能が異なる引例の適用又は組み合わせの段階を2回経ることは、格別な努力を要するので、容易でない。

進歩性 性質又は機能が異なる引例の適用又は組み合わせの段階を2回経ることは、格別な努力を要するので、容易でない。

 

判例No. 22-2平成28年(行ケ)第10186号 審決取消請求事件

 

※以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 性質又は機能が異なる引例の適用又は組み合わせの段階を2回経ることは、格別な努力を要するので、容易でない。

 

2.上記判例の判示事項

 下記の第1段階の適用をした上で、この適用がされた構成を基準に、下記の第2段階の適用をすることは、格別な努力を要するので、容易でない。

 

・第1段階

 引用例1(主引用例)では、筆記具は普通の筆記対象(例えば紙)に筆記できるのに対し、引用例2(副引用例)では、筆記具は、当該筆記具とセットにされる特別な筆記対象(熱変色層が形成された支持体)にだけ筆記できる点で、両者は、筆跡の形成に関する機能又は性質が異なる。

 このような筆跡の形成に関する機能又は性質の相違を考慮すると、当該機能又は性質に関連する引用例2の一部の内容「筆跡を消色させる摩擦体」を引用例1に適用することに当業者は容易に想到できない。

 

・第2段階

 引用例2の摩擦体は、温度によって発色状態または消消状態が保持されるインキ組成物によって形成された有色の筆跡を,摩擦熱により加熱して消色させるものであり,単に筆跡を消去する消しゴム等とは性質が異なる。

 したがって、引用例2の摩擦体に、筆記具の後部に消しゴムを装着するという他の引例の内容を適用することに、当業者が動機付けられることは考え難い。

 

 第1段階と第2段階の2回の適用について、上記判例では、次の『』内の通りに記載されている。

 

『引用発明1に引用発明2を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で,これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し,相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易であったということはできない。』

 

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能の点で異なる場合、その機能に関連する副引用例の一部の内容を主引用例に適用することは容易でない。

進歩性 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能の点で異なる場合、その機能に関連する副引用例の一部の内容を、主引用例に適用することは容易でない。

 

判例No.22平成28年(行ケ)第10186号 審決取消請求事件

※以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能又は性質(上記判例では筆跡の形成に関する機能)の点で異なる場合、その機能又は性質に関連する副引用例の一部の内容(上記判例では、筆跡を消す摩擦体)を、主引用例に適用することは容易でない。

 

2.上記判例の判示事項

 引用例1(主引用例)では、筆記具は普通の筆記対象(例えば紙)に筆記できるのに対し、引用例2(副引用例)では、筆記具は、当該筆記具とセットにされる特別な筆記対象(熱変色層が形成された支持体)にだけ筆記できる点で、両者は、筆跡の形成に関する機能又は性質が異なる。

 このような筆跡の形成に関する機能又は性質の相違を考慮すると、当該機能又は性質に関連する引用例2の一部の内容「筆跡を消色させる摩擦体」を引用例1に適用することに当業者は容易に想到できない。

 

 上記判例では、以下の「」内の通りに判示されている。

「引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが,①引用発明1は,可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり,それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成できるのに対し,②引用発明2は,筆記具と熱変色層が形成された支持体等から成る筆記材セットであり,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので,インキや顔料を含んでおらず,通常の筆記具とは異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず,セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものであるから,筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層に限られ,両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なるものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難い。」

 ※ここで、引用発明1に引用発明2を組み合わせるとは、引用発明2における筆跡を消色させる摩擦体を、引用発明1に適用することを意味すると理解する。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 阻害要因

進歩性 阻害要因

 

判例No.21 平成17年(ワ)第6346号損害賠償等請求事件

※以下は独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 主引用例に副引用例の内容を適用することにより対象発明に想到する場合に、次の(1)が言える場合だけでなく、次の(2)が言える場合にも、上記適用に阻害要因があるとして、対象発明は、主引用例と副引用例に対し進歩性があると言えると考える。

 

(1)主引用例に副引用例の内容を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる。

(2)主引用例に副引用例の内容を適用すると、主引用例の目的の達成度が低下する。

 

2.本件発明の内容

 上記判例の特許(特許番号第1970113号)の請求項1は、次のように記載されている。なお、請求項1の特許発明による損害賠償請求が認められている。

 

「【請求項1】体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、

前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、

前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、

前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、

さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。」

 

3.阻害要因

 上記判例では、引用文献5(特開昭61-207606号公報)に記載の発明(引用発明5)に引用文献1(特開昭61-100246号公報)に記載の発明(引用発明1)を適用ことには阻害要因があるとされた。

 

 引用発明5では、使い捨て衣類(例えばおむつ)において、弾性要素を、互いに離間した複数の接合点で、衣類の層に結合している。これにより、「弾性要素が縮んだ状態にあるとき各接合点間で外層にミクロなたわみを生じるような伸縮構造を提供する」ことにより、引用発明5の目的「裁縫仕立ての外観を与える」を達成している(ここで「」内は、引用文献5からの引用です)。

 また、引用文献5には、『「ホットメルト薄層」が「吸収芯」上と「弾性要素」上とに跨ってその両者に固着されている構成が記載されている。』(ここで『』内は、上記判決文からの引用です)

 

 このような引用発明5のホットメルト薄層に、引用発明1におけるホットメルト不透水性被膜を適用すると、このホットメルト不透水性被膜は面状に塗布されるものであるので、互いに離間した複数の接合点を形成できなくなり、その結果、上記のたわみを形成できなくなる。したがって、引用発明5に引用発明1を適用すると、引用発明5の上記目的を達成できなくなるので、この適用には阻害要因がある。

 

 これについて自分で検討してみると、引用発明5において、弾性要素の全ての範囲ではなく、ホットメルト薄層の存在範囲においてだけ、上記目的が達成されなくなるように思う。すなわち、上記適用により上記目的の達成度が低下すると思う。よって、主引用例に副引用例の内容を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる場合だけでなく、主引用例の目的の達成度が低下する場合にも、この適用には阻害要因があるといえると思う。

 

 阻害要因について上記判例の記載は、次の『』内の通りです。

 『引用発明5において,弾性要素の接合点は,弾性要素の伸縮状態に応じて衣類の外側層にミクロなうね又はたわみを生じさせるために設けられている。したがって,仮に,引用発明5の「ホットメルト薄層」に,引用発明1の「上記透水性表面シートの吸収体側表面上の,上記吸収性物品の少なくとも幅方向中央領域に,上記表面シートとバックシートとの一体的接合部分から吸収体上に臨む位置に亘って延在するホットメルト不透水性被膜」を適用すれば,引用発明5の弾性要素と身体側ライナー72及び吸収性の芯22とが,不透水性被膜といえる程度に接着されることになるので,上記うね又はたわみを形成することができなくなる。したがって,引用発明5に引用発明1を組み合わせることには阻害要因がある。』

 

4.審査基準

 阻害要因について、特許庁の審査基準には、次の「」内の記載がある。

 

「阻害要因の例としては、副引用発明が以下のようなものであることが挙げられる。

(i) 主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような副引用発明(例1)

(ii) 主引用発明に適用されると、主引用発明が機能しなくなる副引用発明(例2)

(iii) 主引用発明がその適用を排斥しており、採用されることがあり得ないと考えられる副引用発明(例3)

(iv) 副引用発明を示す刊行物等に副引用発明と他の実施例とが記載又は掲載され、主引用発明が達成しようとする課題に関して、作用効果が他の実施例より劣る例として副引用発明が記載又は掲載されており、当業者が通常は適用を考えない副引用発明(例4)」

 

上記の判例は、上記審査基準の(i)または(iv)に該当すると思う。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 除くクレーム

 

進歩性 除くクレーム

 

判例No.20平成20年(行ケ)第10065号審決取消請求事件

※以下は独自の見解です。

 

1.本件特許の記載

 特許第3835698号の請求項1の記載は、次の「」内と通り。ただし、下線部の箇所は、除くクレームとする補正箇所に変更した。

 

「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0.01~1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m2/g以上であり、そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが、但し、式(1):

    R=(I15-I35)/(I24-I35)      (1)

〔式中、I15は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I35は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I24は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕

で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、

ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。」

 

2.判示事項

「球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明(甲6発明)は同一であるということができる。そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない」

 ここで、「」内は上記判決からの引用です。

 

 また、上記判決は、審査基準と同じ趣旨の見地からなされています。

 

3.特許庁の審査基準

 特許庁の審査基準には、以下の各『』内の記載がある。

 

『以下の(i)及び(ii)の「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。

(i) 請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正』

 

『上記(i)における「除くクレーム」は、第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る引用発明である、刊行物等又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む。)のみを除外することを明示した請求項である。

上記(i)の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。したがって、このような補正は、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。

なお、「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。』

 

4.考察

 請求項に記載した発明の範囲の一部が、引用文献に記載の発明と重複する場合に、次の(1)を満たす場合には、当該一部を請求項から除く補正をすることによって、当該引用文献を、対象発明の新規性と進歩性を否定する検討材料から除外できると考える。

 

(1)請求項に記載した発明の技術的思想が、引用文献と顕著に異なる。

 

(考察1:新規性)

 請求項1の発明と引用文献1の発明は、次のように事項Aを有し、請求項1の発明の事項Bの概念が、引用文献1の発明の事項B’を含むとする。

 

請求項1の発明=A+B

引用文献1の発明=A+B’

 

 この場合、上記(1)を満たす場合、請求項1を次のように補正すれば、引用文献1の発明を、対象発明の新規性を否定する判断材料から除外できる。

 

「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

(考察2:進歩性)

 上記考察1において、請求項1に従属する請求項2が、事項Cを含み、この事項Cが引用文献2に記載されている。

 引用文献1に引用文献2の事項Cを組み合わせて、請求項2に容易に想到できるとして請求項2の進歩性が否定されている。

 

請求項1の発明=A+B

請求項2の発明=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

 請求項1を「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」のように補正すれば、「さらにCを含む、請求項1に記載の装置」と記載された請求項2の進歩性は、引用文献1、2によっては否定されなくなると考える。

 請求項1の補正「BがB’であることを除く」により、引用文献1は、進歩性の判断材料から除外されるからである。

 

(考察3:進歩性)

 そうすると、下記の独立請求項Xも下記の補正(除くクレームとする補正)により、進歩性が認められると考える。

 ここで、事項A,B,B’,Cは上記の通りである。

 

独立請求項X=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

請求項Xの補正:「AとBとCを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

弁理士 野村俊博