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進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

 判例No.14 平成18年(行ケ)第10138号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 引用例1(特開平2-308106号公報)に開示された「ひとまとまりの構成」のうち一部を除外して、引用例1に記載の発明を把握することはできない。

 

2.判決の具体的内容

 引用例1に記載された発明(引用例1発明)は、下記の構成Aにより下記の作用効果Bを達成して下記の目的Cを達成するものである。

 

(構成A)

 液晶表示素子において、光源の背後にミラーを設け、光源の前方に反射型直線偏光素子を設け、ミラーと反射型直線偏光素子との間に位相板を設けている。

 

(作用効果B)

 光源からの光のうち第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。一方、光源からの光のうち第2偏光成分は、反射型直線偏光素子で反射される。しかし、この第2偏光成分は、位相板を通過してミラーで反射され再び位相板を通過する過程で位相板により第1偏光成分の光に変わって、反射型直線偏光素子へ入射する。したがって、この第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。よって、光源の光を、非常に高効率に1種類の第1偏光に変換して射出できるという効果が得られる。

 

(目的C)

 「従来の直線偏光光源がランダムな偏光のうち半分の偏光しか利用できず残りの半分を捨ててしまっており効果が悪いという問題点を解決して,従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的とする」

 

 したがって、引用例1発明では、その目的Cを達成するために、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は必須であるので、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は「ひとまとまりの構成」である。

 引用例1において、当該「ひとまとまりの構成」から、ミラーと位相板を除外して、反射型直線偏光素子を含む液晶表示素子のみを把握することはできない。

 よって、引用例1において、ミラーと位相板に代えて、引用例2の導波路を用いることは容易という論理は、引用例1発明の把握を誤ったことを前提にしているので、不適切である。

 

3.実務上の指針

 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(1)により否定されそうな場合、下記の(2)に該当する場合には、下記の(3)の主張ができる余地があると考える。

 

(1)主引用例において、一部の構成を副引用例に記載された構成に置き換えることにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(2)主引用例において、前記一部の構成は、主引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(3)主引用例(上述では引用例1)において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部を他の構成に置き換えることは、容易とはいえない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部を除外して主引用例に記載の発明を把握できないからである。

 

 また、 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(4)により否定されそうな場合、下記の(5)に該当する場合には、下記の(6)の主張ができる余地があるように思える。

 

(4)副引用例において、一部の構成を主引用例に記載された構成に適用することにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(5)副引用例において、前記一部の構成は、副引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(6)副引用例において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部のみを抽出することは容易でない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部のみを抽出した構成を、副引用例において把握できないからである。

 

弁理士 野村俊博

権利範囲の解釈に発明の課題及び作用効果が考慮される

権利範囲の解釈に、発明の課題及び作用効果が考慮される

 

判例No.13 平成28年(ネ)第10047号 特許権侵害差止等請求控訴事件

 ※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

1.本件発明の要点

概要:レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタの後側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げようとすると、両者が互いに当接することによりレセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せない。一方、レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタの前側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げると、両者が互いに当接せず、レセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せる。

 

本件発明は、具体的には次のように特許第5362931号の請求項3に記載された発明である。

 

『【請求項3】

 ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において,

 ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっていることを特徴とする電気コネクタ組立体。』

 

本件発明の作用効果:

 ケーブルコネクタがその側壁面にロック突部,レセプタクルコネクタがその側壁面の対応位置にロック溝部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記ロック溝部の突出部に当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出しているケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブルコネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない。

 

2.争点

 本件発明の構成要件「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタ上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」は、「ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわちケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成」に限定されて解釈されるかどうか。

 

3.判示事項

 次の(1)~(3)により、本件発明の構成要件には、上記の限定があるとはいえない。

 

(1)特許請求の範囲には,上記の限定が記載されていない。

(2)本件発明の課題および作用効果は、ケーブルコネクタのケーブルに、上向き方向成分を持つ力が不用意に作用しても、ケーブルコネクタがレセプタクルコネクタから外れないようにすることにある。この作用効果(課題の解決)は、上記の限定の有無にかかわらず得られるものである。

(3)無効審判において、進歩性の否定を回避するために、「本ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」と述べられているが、本件発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。

 

4.実務上の指針

 特許発明の権利範囲は、請求の範囲の記載だけでなく発明の課題と作用効果も考慮して判断される。特許発明の権利範囲に、ある限定がなされているかどうかについて、この限定が請求項に記載されておらず、この限定の有無にかかわらず作用効果(課題の解決)が得られれば、権利範囲にはその限定がないといえる。

 この点を考慮して、特許出願の明細書には、発明の課題と作用効果を必要最小限に記載し(ただし、実施例においては追加の作用効果を記載してもよいと考える)、請求項には、この作用効果(課題の解決)を得るために必要最小限の構成を記載する。

 

 また、本件発明では、形状や寸法などによらずに、動作と動作による位置の変化により発明の構成を特定している。すなわち、請求項において、「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタ上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」のように、ケーブルコネクタの動作(姿勢変化)と、この動作におけるロック突部の位置の変化により、発明の構成を特定している。

 このように、形状や寸法などによらずに、動作と動作による位置の変化により発明の構成を特定することも、1つの請求項の書き方になる。これにより、本件発明では、限定を抑えた権利範囲が得られているように思える。上記判決では、本件発明の技術的範囲に被告製品が属するとされたからである。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 課題を把握することが重要

進歩性 課題を把握することが重要

判例No.12 平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.本件発明の要点
(特徴)
請求項1の記載は次の通り。
「【請求項1】
下記(1)~(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物100体積に対して,0.1~10体積%である導電性粒子よりなる,形状がフィルム状である回路用接続部材。
(1) ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤」

(効果)
 回路用接続部材は、相溶性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、汎用溶剤で溶かすことができる。
 回路用接続部材は、接着性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、微細回路接続後の信頼性が高い。

 

2.相違点
 本件発明は、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を成分としているのに対し、引用発明は、特定アクリル樹脂を成分としている点。

 

3.判決における進歩性の判断
 出願に係る発明の特徴点は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、その課題を的確に把握することが重要である。
 そして、その課題を解決するための当該特徴点に容易に想到できたといえるためには、当該特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である(具体的な判示事項は下記の注1の通り)。

 これに沿って進歩性を検討する。
 本件発明の特徴点は、相溶性及び接着性の更なる向上という課題を解決するために、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材の成分にしたことにある。
 これに対し、いずれの文献にも、相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材に用いることの示唆がない。
 したがって、フェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材用いることが,当業者には容易であったとはいえない。

 

4.実務上の指針
 出願に係る発明の進歩性を主張する時に、当該発明の課題を把握することが重要である。
 この課題が、いずれの引用文献にも記載されていない場合には、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない場合が多い。したがって、このような場合には、次のように主張する。

 主張:
「本願請求項に係る発明の課題は、いずれの引用文献にも記載されていない。
 また、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。」

 

弁理士 野村俊博

 

注1:
「出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠で
ある。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」

進歩性 後知恵 本件発明を知った状態で引用発明を認定すると認定を誤る場合がある

進歩性 後知恵 本件発明を知った状態で引用発明を認定すると認定を誤る場合がある

 

判例No.11 平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 審決では、引用例の内容を誤って認定しているので、本件発明の容易想到性の判断は誤っている。したがって、審決を取り消す。

 

2.本件発明のポイント

 本件発明に係る請求項1の記載は次の通り。

「【請求項1】鼻の鬱血,再発性副鼻洞感染,又はバクテリアに伴う鼻の感染又は炎症を治療又は防止するために,それを必要としている人に対して鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であって,

キシリトールを水溶液の状態で含有しており,キシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されている調合物。」

 

 効果:鼻咽頭への感染及びそれらの感染に伴う症状を低減できる。

 

3. 引用例の認定の誤りによる審決の取り消し

 容易想到性の判断においては,「事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために」、引用例の内容の認定に当たって、その中に無意識的に本件発明の解決手段の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。

 

 これについて、審決における引用例2の発明の認定は誤っている。

 引用例2の記載「抗感染剤は,エアロゾル粒子の形態で鼻の中に投与されることができる」は、引用例2の他の記載を考慮すると、エアロゾル粒子を、感染部位である「気道下部」に、感染部位ではない鼻を通して投与することを意味する。そうすると、引用例2の発明では、感染部が鼻であることを想定しておらず、感染部位としての鼻に抗感染剤を投与しているとはいえない。

したがって,「引用例2には,・・・感染剤を・・・感染部位である鼻に投与できることが記載されている(摘記事項(G))。」とした審決の認定は誤りである。

 

 このような誤りのある認定に基づく容易想到性の審決の判断は誤りであるので、審決を取り消す。

 

4.実務上の指針

 特許出願の拒絶理由通知書では、発明の進歩性判断にあたって、引用文献の内容が認定されているが、認定は、本件発明を知った状態で出願の発明を拒絶するために行われている。そのため、認定に出願の発明の要素が入り込んでいる場合がありえる。

 上記の判例については、引用例2は、鼻を通して感染部位である気道下部に感染剤を投与することを記載しているが、審決では、鼻が感染部位であり鼻に感染剤を投与できることが引用例2に記載されていると、誤って認定している。

 

 拒絶理由通知書における引用文献の内容の認定を、そのまま受け入れずに、本当に正しいかを確認する。

 確認の一つの方法では、最初に引用文献を読んでその内容を自分で確認した後に、拒絶理由通知書に記載された引用発明の認定内容を読むことにより、引用文献の内容の認定が正しいかを判断する。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 用途限定 用途発明 他の物との関係で特定した物の構成は相違点になる

進歩性 用途限定 用途発明 他の物との関係で特定した物の構成は相違点になる

 

判例No.10 平成27年(行ケ)第10260号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 本件発明は、鍵の発明であり、鍵とは別体の物(鍵が挿入されるロータリーディスクタンブラー錠)との関係で特定された構成を有する。

 この構成により、本件発明は引用発明から容易であるとはいえない。

 

2.本件発明の要点

 特徴:ロータリーディスクタンブラー錠用の鍵において、鍵のブレードの平面部に複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みが形成され、ロータリーディスクタンブラー錠の鍵孔に鍵を挿入した時に、これらの窪みが、それぞれ、複数のロータリーディスクタンブラーの係合突起と係合して、これらタンブラー群の揺動角度を変化させてロックが解除される。

 

効果:「従来のレバータンブラー錠における合鍵と異なり,ブレードの端縁部に形成されたV字形の鍵溝ではなく,窪みの深さによって鍵違いを得るようにしたので,一の窪み25と隣接する他の窪み25の間隔を従来の鍵溝間のそれより短くすることができ,したがって,タンブラーの数を増大させ,その分鍵違いを多くすることができる」

 

3.相違点

 本件発明は、請求項の記載から次の構成を有しているといえる。

 

 本件発明の構成:

 鍵の窪みは,その深さとブレードの幅方向の位置が,ロータリーディスクタンブラーの揺動による円弧に沿ったものである。

 

 このように鍵とは別体のロータリーディスクタンブラーとの関係で特定される上記構成を、引用発明が有しているかは不明である。

 したがって、上記構成は、引用発明との相違点になる。

 

4.判決における進歩性の判断

 「本件発明及び引用発明は,いずれも鍵の発明ではあるものの,それぞれの錠に対応する合鍵としての発明であるから,錠の構造を捨象して,鍵の形状のみによって容易想到性を判断することはできない。」

 したがって、上記の相違点(上記構成)は、引用発明や他の文献によっても埋められないので、本件発明は、引用発明から容易とはいえない。

 

5.実務上の指針

 上記の判決では、本件発明が鍵の発明であっても、鍵とは別体の物(鍵が挿入されるロータリーディスクタンブラー錠)との関係で特定された構成により、引用発明との相違点が認定されている。

 本件発明を記載した請求項において、鍵の構成が、ロータリーディスクタンブラー錠との関係で記載され、かつ、「ロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。」のように用途が限定されている。

 したがって、ある物の発明を請求項に記載する場合に、当該物の構成を、請求項において他の物との関係により特定できる。

 この点は、特許庁の審査基準にも、次のように記載されている。以下の『』内は、用途限定に関する特許庁の審査基準の記載である。

 

『用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味する場合は、審査官は、その物を、用途限定が意味する形状、構造、組成等(以下この項(3.)において「構造等」という。)を有する物であると認定する(例1及び例2)。その用途に特に適した物を意味する場合とは、用途限定が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して、その用途に特に適した構造等を意味すると解釈される場合をいう。』

 

弁理士 野村俊博

進歩性 構成が同じに見えても技術的意義が異なれば特許になる

進歩性 構成が同じに見えても技術的意義が異なれば特許になる

 

判例No.9平成27年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 本件発明について請求項1と明細書の両方から把握される技術的意義が、引用発明に記載されておらず、二重瞼の形成原理が両発明の間で全く異なる。

 したがって、本件発明は、引用発明から容易に想到できるものではない。

 

2.本件発明のポイント

 本件発明の請求項1は、次の通りに記載されている。

 

特徴:「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」

 

効果:二重瞼形成用テープを、延伸させた状態で瞼に押し当てて、粘着剤によりそこに貼り付け、そのまま両端の把持部を離すと、テープ状部材の弾性的な収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成できる。

 

3.相違点

 本件発明の「延伸可能」と「二重瞼形成用テープ」とが互いにどのような関係にあるのかは、請求項1の記載から把握できないので、明細書を参酌することは許される(リパーゼ事件判決:注1)。

 この参酌により、「延伸可能」と「二重瞼形成用テープ」とは、「延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成する」という関係があるといえる。

 本件発明は、この関係を有するものと認定できる。

 引用発明のテープ細帯は、この関係を有するものではないので、本件発明と相違する。

 

 注1:発明の要旨認定においては、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される。

 

4.進歩性の判断

 上記相違点に関し、引用発明は、二重瞼を形成する原理が本件発明と全く異なる。

 また、引用発明のテープ細帯においても、延伸後に弾性的な収縮力が発生しているとしても、このテープ細帯の収縮力の程度では,本件発明のように,テープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成できるとは思われない。

 したがって、本件発明は、引用発明から容易に想到できるものではない。

 

5.実務上の指針

 権利化しようとする発明(権利化対象発明)と引用発明との構成が同じであっても、権利化対象発明の構成要素の物理的性質の程度(上記判例では、延伸後の弾性的な収縮力の程度)の違いにより、権利化対象発明の技術的意義が引用発明には無いと言える場合には、次の対応(1)をとる。

 

(1)権利化対象発明と引用発明との間で、構成要素の物理的性質の程度(上記判例では収縮力の程度)が異なるので、引用発明では、権利化対象発明の技術的意義(上記判例ではテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成できること)が無いと主張する。

 

 また、スムーズな権利化や争いを無くすために、次の(2)の対応をすることも、請求の範囲の書き方の1つになりえる。

 

(2)上記の技術的意義が請求の範囲から読み取れない場合には、上記の技術的意義を請求項に反映する。上記判例では、『テープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成するための』というような目的の特定を請求項1に反映させる(本ブログのNo.1を参照:進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定 - hanreimatome_t’s blog)。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 引用発明の目的から離れる限定は容易でない

進歩性 引用発明の目的から離れる限定は容易でない

 

判例No.8平成27年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 引用発明に具体的に開示された形状を本件発明と同じ形状に限定とすることは,引用発明の目的から離れていくので、本件発明は容易とはいえない。

 

2.本件発明の要点

 本件発明としての請求項1の記載は、次の特徴の通りである。

特徴:「発泡プラスチック等弾力性のある材料で作られた5角柱体状の首筋周りストレッチ枕」

 

効果:「5角柱体状であるから,頭を枕にこすり付けても滑りを起こさずに強い抗力,強い摩擦力を引き出してくれるので,人間が仰臥又は横臥の姿勢で枕に頭をこすり付けたり,引っ掛けたりするストレッチ運動を,他の角柱体状又は円筒体状の枕よりも容易にかつ安定して行うことができる」

 

3.相違点

 本願発明では、枕の形状が5角柱体状であるのに対し,引用発明では、枕の形状は、多角柱形状ではあるが、5角柱体状に限定されていない。

 

4.進歩性の判断

(1)引用発明の転がり枕は,請求項1の記載「円形状若しくは多角形状の外周をもつ転がり容易な円柱形状の弾性体枕」などを考慮すると、「引用発明の転がり枕の外周面は,円に近い形状の多角形が想定されているものと認められる」。

 したがって、引用例(引用発明)に具体的に開示された8角形よりも角の数の少ない多角形状の外周面を持つ形状とすることは,引用発明の目的(「容易に転がして体の任意の部分にあてがうことができ,また,その部位をわずかに上げて転がすことであてがい直しができる」など)から離れていくので,「これを試みること自体に相応の創意を要する」。

 

(2)本件発明では、「枕を5角柱体とすることに格別の技術的意義」、例えば上記項目2の効果を見出したのに対し、「枕の断面形状を5角形とすることが周知技術とはいえない」。

 

 よって、本件発明は引用発明から容易とはいえない。

 

5.実務上の指針

 引用発明の形状(上記判例では枕の外周の形状)をさらに限定(上記判例では5角形に限定)すると本件発明と同じになる場合であって、この限定が引用発明の目的から離れる場合には、その旨を主張する。

 

弁理士 野村俊博