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進歩性 無理な用語解釈を前提として進歩性が否定されていないかを確認する。

進歩性 無理な用語解釈を前提として進歩性が否定されていないかを確認する。

 

判例No.17-2 平成28年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、『』内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 本件発明の進歩性を否定した審決の取り消し理由として、サービスという用語の解釈に無理があることを挙げている。

 

2.審決での用語解釈

 本件発明と引用発明との一致点が、本件発明と引用発明とは、所定の場合に、所定のサービスの実行を許可している点で一致しているとしている。

 これに関して、サービスを次のように解釈している。

 「サービス」とは,「サービス要求と,それに対し,何らかの利便を提供する行為の総称」である。

 

3.判示事項

『被告は,前記の「サービス」とは,「サービス要求と,それに対し,何らかの利便を提供する行為の総称」であると主張する。前記の定義は,その文言上,①第1の主体が,第2の主体に対し,何らかのサービスを要求する行為,②第2の主体が,第1 の主体からの何らかのサービスの要求に対し,第1の主体又は第3の主体に対し,何らかの利便を提供する行為という,2 種類の行為を含んでいる。

 「サービス」は,「①奉仕,②給仕。接待。③商売で値引きしたり,客の便宜を図ったりすること。④物質的生産過程以外で機能する労働。用益。用務。⑤(競技用語)サーブに同じ。」(広辞苑第6版)と解されているのであって,前記の行為のうち,「第2の主体が,」「第1の主体又は第3の主体に対し,何らかの利便を提供する行為」は,「サービス」と表現され得るが,「第1の主体が,第2の主体に対し,何らかのサービスを要求する行為」は,「サービス」と表現され得るとは考えられず,「サービス」を,前記の2種類の行為を一個の概念に包括する総称と定義することには,無理がある。』

 

 このような無理な用語解釈を理由の1つとして、審決が取り消されている。

 

4.実務上の指針

 権利化しようとする対象発明の進歩性が、次の(1)のように否定されている場合、次の(2)の反論をする。

 

(1)対象発明の進歩性を否定する論理が、無理な用語解釈を前提としている。

 

(2)用語解釈に無理があることを、辞書(広辞苑)の定義に基づいて反論する。

 

 弁理士 野村俊博

進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

判例No.17平成28年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.判決の概要

 審決では、引用文献の記載事項を上位概念化した内容と、本件発明の事項を上位概念化した内容とが一致する点を、引用文献に記載の発明と本件発明との一致点としているが、引用発明の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

2.本件発明の要点

 第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータが第2通信装置によってアクセスされるべきかを決定する方法において、第1通信装置と第2通信装置との間の距離測定を実行し,測定された距離が事前に規定された距離間隔の範囲にある場合に、第2通信装置によるマルチメディアデータへのアクセスを許可する(特願2010-103072号の請求項1の概要)。

 

3.審決の概要

 本件発明では、第1通信装置と第2通信装置との距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータへの,第2通信装置によるアクセスを許可している。このように、上記距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置は、第2通信装置にマルチメディアデータへアクセスさせるというサービスの実行を許可している。

 

 引用発明(甲1:特開平9-170364号公報)では、車両側無線装置と携帯型無線装置との距離が規定範囲にある場合に、車両側無線装置が,携帯型無線装置からの応答信号に基づいて,ドアの解錠指令を送出している。このように、車両側無線装置は、ドアの解錠指令の送出というサービスの実行を許可している。

 

 したがって、本件発明と引用発明とは、上記距離が規定範囲にある場合に、所定のサービスの実行を許可している点で一致している。

 

4.判示事項

 引用発明において、車両側無線装置が搭載された車のドアの解錠指令の送出を決定することを、所定のサービスの実行を許可することとして抽象化し、このように上位概念化(抽象化)された動作を、引用発明の記載事項(構成要素)であると評価することは許されない。その理由として、次の(A)(B)を挙げています。

 

(A)「甲1発明は,車両のドアに限定されないものの,ドアの施解錠に限定されたものであるといえる。」ここで、「」内は上記判決文からの引用です。

 

(B)サービスという用語の解釈に無理がある。詳しくは、本ブログの判例No.17-2http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2017/01/24/123746を参照。

 

5.実務上の指針

 まず、別の判例(平成14年(行ケ)第546号 審決取消請求事件)では、「進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提作業として行われるものである。相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,」と判断されています(ここで「」内は当該別の判例からの引用です)。

 

 しかし、今回の判例のように、次の(1)に該当する場合には、その旨を反論できる。

(1)引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用発明の記載事項が上位概念化して認定されている。

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

 

判例No.16平成28年(行ケ)第10011号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.本件特許発明の要点

 本件特許(特許第4553629号)の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という)は、以下の特徴A,Bを有し、特徴Bにより以下の効果Cを奏する。

 

 特徴A:

 掘削により削り出される掘削土が、ケーシング内で吹き上げられて、ケーシングの排土口から外部へ排出される場合において、掘削土飛散防止装置は、前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている衝突部と、ケーシングを囲む筒状部とを含み、衝突部に衝突した掘削土がケーシングと筒状部との間を落下するようになっている。

 

 特徴B:

 掘削土飛散防止装置は、さらに、蛇腹状の側壁を有する筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有している。巻き取り装置がワイヤーを巻き取りまたは繰り出して、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さが調整される。

 

 特徴Bによる効果C:

「ワイヤーの巻き取り・繰り出し操作を通じて蛇腹部分(筒状部)の伸縮を繰り返すことによって、落下して来る途中で筒状部の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になる。また、ダウンザホールハンマの掘進に伴って筒状部の長さを調整することができるので、蛇腹部分(筒状部)の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になる。」

 

2.相違点について

 特徴Bは、引用発明(特開2001-32274号公報)との相違点であるが、引用例6(特開平11-107661号公報)に記載されている。

 

3.争点 引用発明に引用例6の構成を組み合わせることが容易か

(目的の相違)

 引用例6のジャバラ筒を設ける目的は、次の効果(1)(2)を達成することにある。

(1)オーガスクリュー外周を覆うことにより、砂はジャバラ筒を伝って落下しオーガスクリュー3の上部からの土砂の飛散は防止される。

(2)ワイヤーの一端をジャバラ筒の下端近傍に連結し,他端をウインチに連結させている。この構成で、ウインチの捲上げ捲戻しでジャバラ筒の下端を上下動させることにより、ジャバラ筒下端と地表との間を所定の高さに保持できる。したがって、ジャバラ筒下端と地表との間を通して、オーガスクリューの羽根上の土砂の取除き作業を行える。

 

 引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は,次の効果(3)を達成することにある。

(3)伸縮カバー(34)は,中空コンクリート杭(1)を覆うことにより、押し上げられた土砂(17)を,中空コンクリート杭(1)との間を通って落下させ土砂の飛散を防止する。

 

 以上により、引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は、引用例6においてジャバラ筒を設けることにより上記効果(2)を達成するという目的と異なる。

 

(使用態様の相違)

 引用例6のジャバラ筒4は,削孔作業中,その下端と地表との間に所定の高さを有するのに対し,引用発明の伸縮カバー(34)は,掘削時,その下端が接地している。

 よって、両者の使用態様は互いに異なる。

 

4.判示事項

 筒状部(ジャバラ筒)の下端を所定の高さに維持することを前提とした引用例6の構成(伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を,筒状部の下端を接地させる引用発明に適用することは、直ちに想到できるものではない。

 上記の目的の相違と使用態様の相違を考慮すると、引用例6の構成を引用発明の伸縮カバー(34)に組み合わせようとする動機付けは存在しない。

 したがって,引用発明において本件特許発明の特徴Bを備えるようにすることを,引用例6に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

5.実務上の指針

 以下の前提(1)の場合に、以下の理由(2)により、対象発明の進歩性が否定されたら、以下の反論(3)ができる場合には、その反論をする。

 

(1)対象発明と主引用例との相違点は、対象発明が特徴Xを有していることにあるが、特徴Xは副引用例に記載されている。

 

(2)主引用例(本判例では引用発明)において、その一部の構成要素(本判例では伸縮カバー)に副引用例(本判例では引用例6)の特徴X(本判例では伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を組み合わせることにより、対象発明に容易に想到できる。

 

(3)主引用例の上記構成要素と、副引用例の上記構成とは、それを設ける目的が互いに異なるだけでなく、その使用態様(使用状態)も互いに異なるので、主引用例の上記構成要素に副引用例の上記構成を組み合わせることの動機付けはない。したがって、主引用例において特徴Xを備えるようにすることを,副引用例に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博

請求項の記載 発明の構成要素の名称を単に「部材」ではなく「~材」とすると、技術的な観点から何らかの限定が「~」にあると解釈され得る。

請求項の記載 発明の構成要素の名称を単に「部材」ではなく「~材」とすると、技術的な観点から何らかの限定が「~」にあると解釈され得る

 

判例No.15平成21年(ネ)第10006号補償金等請求控訴事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、『』内は、上記の判決文または特許第3725481号からの引用です。

 

1.争点 構成要件の充足性

 本件特許(特許第3725481号)の「縫合材」を、被告製品の構成〈d〉(帯片)は文言上充足するか。

 

 本件特許の「縫合材」は、請求項1において『前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した』と記載されている。

 

 被告製品の構成〈d〉は、『透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる』と認められる。

 

2.「縫合材」の意味

『単に「部材」などの語を用いることなく,「縫合材」との語を選択した以上,その内容は,単なる「部材」とは異なり,何らかの限定をして解釈されるべきところ,その限定の内容を技術的な観点をも含めて解釈するならば,「縫合材」とは,「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」であると解するのが相当である。』

 

なお、「縫合材」は、請求項1において通常の意味とは異なる意味で用いられており、請求項1の記載からは、「縫合材」の技術的意義を一義的に確定することができないので、明細書の記載も考慮して上記のように解釈されている。

 

 

3.結論

 被告製品の「帯片」は,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)するものではないので、「縫合材」であることの要件「少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する」を文言上充足しない。

 

4.実務上の指針

 請求項1において構成要素の名称を単に「部材」とせずに、「~材」や「~部材」とする場合には、当該修飾語「~」により限定がなされていると解釈され得る。

 そのため、構成要素の名称を「~材」や「~部材」とする場合には、当該「~」として、発明に必須の事項(例えば機能)を表わす修飾語を用いるようにする。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

 判例No.14 平成18年(行ケ)第10138号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 引用例1(特開平2-308106号公報)に開示された「ひとまとまりの構成」のうち一部を除外して、引用例1に記載の発明を把握することはできない。

 

2.判決の具体的内容

 引用例1に記載された発明(引用例1発明)は、下記の構成Aにより下記の作用効果Bを達成して下記の目的Cを達成するものである。

 

(構成A)

 液晶表示素子において、光源の背後にミラーを設け、光源の前方に反射型直線偏光素子を設け、ミラーと反射型直線偏光素子との間に位相板を設けている。

 

(作用効果B)

 光源からの光のうち第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。一方、光源からの光のうち第2偏光成分は、反射型直線偏光素子で反射される。しかし、この第2偏光成分は、位相板を通過してミラーで反射され再び位相板を通過する過程で位相板により第1偏光成分の光に変わって、反射型直線偏光素子へ入射する。したがって、この第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。よって、光源の光を、非常に高効率に1種類の第1偏光に変換して射出できるという効果が得られる。

 

(目的C)

 「従来の直線偏光光源がランダムな偏光のうち半分の偏光しか利用できず残りの半分を捨ててしまっており効果が悪いという問題点を解決して,従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的とする」

 

 したがって、引用例1発明では、その目的Cを達成するために、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は必須であるので、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は「ひとまとまりの構成」である。

 引用例1において、当該「ひとまとまりの構成」から、ミラーと位相板を除外して、反射型直線偏光素子を含む液晶表示素子のみを把握することはできない。

 よって、引用例1において、ミラーと位相板に代えて、引用例2の導波路を用いることは容易という論理は、引用例1発明の把握を誤ったことを前提にしているので、不適切である。

 

3.実務上の指針

 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(1)により否定されそうな場合、下記の(2)に該当する場合には、下記の(3)の主張ができる余地があると考える。

 

(1)主引用例において、一部の構成を副引用例に記載された構成に置き換えることにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(2)主引用例において、前記一部の構成は、主引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(3)主引用例(上述では引用例1)において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部を他の構成に置き換えることは、容易とはいえない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部を除外して主引用例に記載の発明を把握できないからである。

 

 また、 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(4)により否定されそうな場合、下記の(5)に該当する場合には、下記の(6)の主張ができる余地があるように思える。

 

(4)副引用例において、一部の構成を主引用例に記載された構成に適用することにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(5)副引用例において、前記一部の構成は、副引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(6)副引用例において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部のみを抽出することは容易でない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部のみを抽出した構成を、副引用例において把握できないからである。

 

弁理士 野村俊博

権利範囲の解釈に発明の課題及び作用効果が考慮される

権利範囲の解釈に、発明の課題及び作用効果が考慮される

 

判例No.13 平成28年(ネ)第10047号 特許権侵害差止等請求控訴事件

 ※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

1.本件発明の要点

概要:レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタの後側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げようとすると、両者が互いに当接することによりレセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せない。一方、レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタの前側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げると、両者が互いに当接せず、レセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せる。

 

本件発明は、具体的には次のように特許第5362931号の請求項3に記載された発明である。

 

『【請求項3】

 ハウジングの周面に形成された嵌合面で互いに嵌合接続されるケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを有し,嵌合面が側壁面とこれに直角をなし前方に位置する端壁面とで形成されており,ケーブルコネクタが後方に位置する端壁面をケーブルの延出側としている電気コネクタ組立体において,

 ケーブルコネクタは,突部前縁と突部後縁が形成されたロック突部を側壁面に有し,レセプタクルコネクタは,前後方向で該ロック突部に対応する位置で溝部前縁と溝部後縁が形成されたロック溝部を側壁面に有し,該ロック溝部には溝部後縁から溝内方へ突出する突出部が設けられており,ケーブルコネクタは,前方の端壁面に寄った位置で側壁に係止部が設けられ,レセプタクルコネクタは,前後方向で上記係止部と対応する位置でコネクタ嵌合状態にて該係止部と係止可能な被係止部が側壁に設けられており,コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタが上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し,上記ロック突部が上記ロック溝部内に進入して所定位置に達した後に上記上向き傾斜姿勢が解除されて上記ケーブルコネクタが上記コネクタ嵌合終了姿勢となったとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が上記突出部の最前方位置よりも後方に位置し,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して,上記ケーブルコネクタの抜出が阻止されるようになっていることを特徴とする電気コネクタ組立体。』

 

本件発明の作用効果:

 ケーブルコネクタがその側壁面にロック突部,レセプタクルコネクタがその側壁面の対応位置にロック溝部を有し,上記ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入してケーブルコネクタが嵌合終了の姿勢となった後は,該ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記ロック溝部の突出部に当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止するようにしたので,ケーブルコネクタの後端から延出しているケーブルを不用意に引いても,そしてその引く力がたとえ上向き成分を伴っていても,ロック突部がロック溝部の突出部に当接して,ケーブルコネクタはレセプタクルコネクタから外れることはない。

 

2.争点

 本件発明の構成要件「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタ上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」は、「ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわちケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変位なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成」に限定されて解釈されるかどうか。

 

3.判示事項

 次の(1)~(3)により、本件発明の構成要件には、上記の限定があるとはいえない。

 

(1)特許請求の範囲には,上記の限定が記載されていない。

(2)本件発明の課題および作用効果は、ケーブルコネクタのケーブルに、上向き方向成分を持つ力が不用意に作用しても、ケーブルコネクタがレセプタクルコネクタから外れないようにすることにある。この作用効果(課題の解決)は、上記の限定の有無にかかわらず得られるものである。

(3)無効審判において、進歩性の否定を回避するために、「本ケーブルコネクタの回転のみによって,すなわち,ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタ間のスライドなどによる相対位置の変化なしに,ロック突部の最後方位置が突出部に対して位置変化を起こす構成に限定されていると解される。」と述べられているが、本件発明の技術的範囲を解釈するについて,相手方の無効主張に対する反論として述べた当事者の主張は,必ずしも裁判所の判断を拘束するものではない。

 

4.実務上の指針

 特許発明の権利範囲は、請求の範囲の記載だけでなく発明の課題と作用効果も考慮して判断される。特許発明の権利範囲に、ある限定がなされているかどうかについて、この限定が請求項に記載されておらず、この限定の有無にかかわらず作用効果(課題の解決)が得られれば、権利範囲にはその限定がないといえる。

 この点を考慮して、特許出願の明細書には、発明の課題と作用効果を必要最小限に記載し(ただし、実施例においては追加の作用効果を記載してもよいと考える)、請求項には、この作用効果(課題の解決)を得るために必要最小限の構成を記載する。

 

 また、本件発明では、形状や寸法などによらずに、動作と動作による位置の変化により発明の構成を特定している。すなわち、請求項において、「コネクタ嵌合過程にて上記ケーブルコネクタの前端がもち上がって該ケーブルコネクタ上向き傾斜姿勢にあるとき,上記ロック突部の突部後縁の最後方位置が,上記ケーブルコネクタコネクタ嵌合終了姿勢にあるときと比較して前方に位置し」のように、ケーブルコネクタの動作(姿勢変化)と、この動作におけるロック突部の位置の変化により、発明の構成を特定している。

 このように、形状や寸法などによらずに、動作と動作による位置の変化により発明の構成を特定することも、1つの請求項の書き方になる。これにより、本件発明では、限定を抑えた権利範囲が得られているように思える。上記判決では、本件発明の技術的範囲に被告製品が属するとされたからである。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 課題を把握することが重要

進歩性 課題を把握することが重要

判例No.12 平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.本件発明の要点
(特徴)
請求項1の記載は次の通り。
「【請求項1】
下記(1)~(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物100体積に対して,0.1~10体積%である導電性粒子よりなる,形状がフィルム状である回路用接続部材。
(1) ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤」

(効果)
 回路用接続部材は、相溶性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、汎用溶剤で溶かすことができる。
 回路用接続部材は、接着性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、微細回路接続後の信頼性が高い。

 

2.相違点
 本件発明は、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を成分としているのに対し、引用発明は、特定アクリル樹脂を成分としている点。

 

3.判決における進歩性の判断
 出願に係る発明の特徴点は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、その課題を的確に把握することが重要である。
 そして、その課題を解決するための当該特徴点に容易に想到できたといえるためには、当該特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である(具体的な判示事項は下記の注1の通り)。

 これに沿って進歩性を検討する。
 本件発明の特徴点は、相溶性及び接着性の更なる向上という課題を解決するために、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材の成分にしたことにある。
 これに対し、いずれの文献にも、相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材に用いることの示唆がない。
 したがって、フェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材用いることが,当業者には容易であったとはいえない。

 

4.実務上の指針
 出願に係る発明の進歩性を主張する時に、当該発明の課題を把握することが重要である。
 この課題が、いずれの引用文献にも記載されていない場合には、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない場合が多い。したがって、このような場合には、次のように主張する。

 主張:
「本願請求項に係る発明の課題は、いずれの引用文献にも記載されていない。
 また、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。」

 

弁理士 野村俊博

 

注1:
「出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠で
ある。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」