特許請求の範囲 技術的意義 サポート要件

特許請求の範囲 技術的意義 サポート要件

判例No. 4 平成26年(ワ)第8905号 特許権侵害差止等請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の要点
 請求項に記載した発明がサポート要件を満たすためには、発明の技術的意義が把握できるように請求項が記載されていればよい。この把握は、明細書や技術常識を参酌してなされてよい。

2.争点
 請求項の記載A「第一のn型層よりも電子キャリア濃度が大きい第二のn型層」について、第二のn型層の電子キャリア濃度の範囲を請求項で特定しなくても、サポート要件を満たすか。

 なお、当該請求項の記載は、以下の通り。
「基板上にn型層,活性層,p型層が積層された構造を備え,該p型層上と,該n型層が一部露出された表面に,それぞれ正電極と負電極が設けられた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であって,

 前記n型層中に,第一のn型層と,第一のn型層に接して,第一のn型層よりも電子キャリア濃度が大きい第二のn型層と,を有すると共に,

 前記n型層中の基板と前記露出表面の間にあるn型層領域において,前記第一のn型層であって前記露出表面が形成された層と,該第一のn型層の基板側に設けられた前記第二のn型層と,を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

 

3.判示事項
 上記の記載Aの技術的意義が、明細書と技術常識から把握できる。
 技術的意義:電極から注入された電子が、電子キャリア濃度が相対的に大きい第二のn型層を通ることにより、半導体発光素子の順方向電圧Vfを低下させることができる。この効果は、第二のn型層の電子キャリア濃度が第一のn型層の濃度よりも少しだけ大きい場合でも、少しは得られる。
 このように、上記の記載Aの技術的意義が把握できるので、第二のn型層の電子キャリア濃度の範囲を請求項で特定しなくても、サポート要件を満たす。
 
4.実務上の指針
 物理的数量(本件では濃度)の具体的範囲を請求項に記載しなくても、ある部分の物理的数量が他の部分の物理的数量よりも大きいか又は小さいかを請求項に記載しておけばよい。
 このように請求項に記載した物理的数量の相対的比較の技術的意義を明細書に記載しておく。
 これにより、物理的数量の具体的範囲が請求項に記載されていないことを理由としてサポート要件が否定されることを回避できると思われる。

弁理士 野村俊博