進歩性 引用発明の目的から離れる限定は容易でない
進歩性 引用発明の目的から離れる限定は容易でない
判例No.8平成27年(行ケ)第10165号 審決取消請求事件
※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。
1.判決の概要
引用発明に具体的に開示された形状を本件発明と同じ形状に限定とすることは,引用発明の目的から離れていくので、本件発明は容易とはいえない。
2.本件発明の要点
本件発明としての請求項1の記載は、次の特徴の通りである。
特徴:「発泡プラスチック等弾力性のある材料で作られた5角柱体状の首筋周りストレッチ枕」
効果:「5角柱体状であるから,頭を枕にこすり付けても滑りを起こさずに強い抗力,強い摩擦力を引き出してくれるので,人間が仰臥又は横臥の姿勢で枕に頭をこすり付けたり,引っ掛けたりするストレッチ運動を,他の角柱体状又は円筒体状の枕よりも容易にかつ安定して行うことができる」
3.相違点
本願発明では、枕の形状が5角柱体状であるのに対し,引用発明では、枕の形状は、多角柱形状ではあるが、5角柱体状に限定されていない。
4.進歩性の判断
(1)引用発明の転がり枕は,請求項1の記載「円形状若しくは多角形状の外周をもつ転がり容易な円柱形状の弾性体枕」などを考慮すると、「引用発明の転がり枕の外周面は,円に近い形状の多角形が想定されているものと認められる」。
したがって、引用例(引用発明)に具体的に開示された8角形よりも角の数の少ない多角形状の外周面を持つ形状とすることは,引用発明の目的(「容易に転がして体の任意の部分にあてがうことができ,また,その部位をわずかに上げて転がすことであてがい直しができる」など)から離れていくので,「これを試みること自体に相応の創意を要する」。
(2)本件発明では、「枕を5角柱体とすることに格別の技術的意義」、例えば上記項目2の効果を見出したのに対し、「枕の断面形状を5角形とすることが周知技術とはいえない」。
よって、本件発明は引用発明から容易とはいえない。
5.実務上の指針
引用発明の形状(上記判例では枕の外周の形状)をさらに限定(上記判例では5角形に限定)すると本件発明と同じになる場合であって、この限定が引用発明の目的から離れる場合には、その旨を主張する。
弁理士 野村俊博