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進歩性 後知恵 本件発明を知った状態で引用発明を認定すると認定を誤る場合がある

進歩性 後知恵 本件発明を知った状態で引用発明を認定すると認定を誤る場合がある

 

判例No.11 平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 審決では、引用例の内容を誤って認定しているので、本件発明の容易想到性の判断は誤っている。したがって、審決を取り消す。

 

2.本件発明のポイント

 本件発明に係る請求項1の記載は次の通り。

「【請求項1】鼻の鬱血,再発性副鼻洞感染,又はバクテリアに伴う鼻の感染又は炎症を治療又は防止するために,それを必要としている人に対して鼻内へ投与するための鼻洗浄調合物であって,

キシリトールを水溶液の状態で含有しており,キシリトールが水溶液100cc当たり1から20グラムの割合で含有されている調合物。」

 

 効果:鼻咽頭への感染及びそれらの感染に伴う症状を低減できる。

 

3. 引用例の認定の誤りによる審決の取り消し

 容易想到性の判断においては,「事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために」、引用例の内容の認定に当たって、その中に無意識的に本件発明の解決手段の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。

 

 これについて、審決における引用例2の発明の認定は誤っている。

 引用例2の記載「抗感染剤は,エアロゾル粒子の形態で鼻の中に投与されることができる」は、引用例2の他の記載を考慮すると、エアロゾル粒子を、感染部位である「気道下部」に、感染部位ではない鼻を通して投与することを意味する。そうすると、引用例2の発明では、感染部が鼻であることを想定しておらず、感染部位としての鼻に抗感染剤を投与しているとはいえない。

したがって,「引用例2には,・・・感染剤を・・・感染部位である鼻に投与できることが記載されている(摘記事項(G))。」とした審決の認定は誤りである。

 

 このような誤りのある認定に基づく容易想到性の審決の判断は誤りであるので、審決を取り消す。

 

4.実務上の指針

 特許出願の拒絶理由通知書では、発明の進歩性判断にあたって、引用文献の内容が認定されているが、認定は、本件発明を知った状態で出願の発明を拒絶するために行われている。そのため、認定に出願の発明の要素が入り込んでいる場合がありえる。

 上記の判例については、引用例2は、鼻を通して感染部位である気道下部に感染剤を投与することを記載しているが、審決では、鼻が感染部位であり鼻に感染剤を投与できることが引用例2に記載されていると、誤って認定している。

 

 拒絶理由通知書における引用文献の内容の認定を、そのまま受け入れずに、本当に正しいかを確認する。

 確認の一つの方法では、最初に引用文献を読んでその内容を自分で確認した後に、拒絶理由通知書に記載された引用発明の認定内容を読むことにより、引用文献の内容の認定が正しいかを判断する。

 

弁理士 野村俊博