進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。

 判例No.14 平成18年(行ケ)第10138号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 引用例1(特開平2-308106号公報)に開示された「ひとまとまりの構成」のうち一部を除外して、引用例1に記載の発明を把握することはできない。

 

2.判決の具体的内容

 引用例1に記載された発明(引用例1発明)は、下記の構成Aにより下記の作用効果Bを達成して下記の目的Cを達成するものである。

 

(構成A)

 液晶表示素子において、光源の背後にミラーを設け、光源の前方に反射型直線偏光素子を設け、ミラーと反射型直線偏光素子との間に位相板を設けている。

 

(作用効果B)

 光源からの光のうち第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。一方、光源からの光のうち第2偏光成分は、反射型直線偏光素子で反射される。しかし、この第2偏光成分は、位相板を通過してミラーで反射され再び位相板を通過する過程で位相板により第1偏光成分の光に変わって、反射型直線偏光素子へ入射する。したがって、この第1偏光成分は、反射型直線偏光素子を通過して前方へ射出される。よって、光源の光を、非常に高効率に1種類の第1偏光に変換して射出できるという効果が得られる。

 

(目的C)

 「従来の直線偏光光源がランダムな偏光のうち半分の偏光しか利用できず残りの半分を捨ててしまっており効果が悪いという問題点を解決して,従来の直線偏光光源の効率の飛躍的な向上を目的とする」

 

 したがって、引用例1発明では、その目的Cを達成するために、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は必須であるので、反射型直線偏光素子とミラーと位相板は「ひとまとまりの構成」である。

 引用例1において、当該「ひとまとまりの構成」から、ミラーと位相板を除外して、反射型直線偏光素子を含む液晶表示素子のみを把握することはできない。

 よって、引用例1において、ミラーと位相板に代えて、引用例2の導波路を用いることは容易という論理は、引用例1発明の把握を誤ったことを前提にしているので、不適切である。

 

3.実務上の指針

 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(1)により否定されそうな場合、下記の(2)に該当する場合には、下記の(3)の主張ができる余地があると考える。

 

(1)主引用例において、一部の構成を副引用例に記載された構成に置き換えることにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(2)主引用例において、前記一部の構成は、主引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(3)主引用例(上述では引用例1)において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部を他の構成に置き換えることは、容易とはいえない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部を除外して主引用例に記載の発明を把握できないからである。

 

 また、 特許出願に係る発明の進歩性が、下記の(4)により否定されそうな場合、下記の(5)に該当する場合には、下記の(6)の主張ができる余地があるように思える。

 

(4)副引用例において、一部の構成を主引用例に記載された構成に適用することにより、特許出願に係る発明に容易に想到できる。

(5)副引用例において、前記一部の構成は、副引用例に記載の発明の目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」に含まれている。

(6)副引用例において、その目的を達成するために必須である「ひとまとまりの構成」の一部のみを抽出することは容易でない。当該「ひとまとまりの構成」は、目的達成のために一体不可分のものであるため、当該「ひとまとまりの構成」から一部のみを抽出した構成を、副引用例において把握できないからである。

 

弁理士 野村俊博