進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

進歩性 引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用文献の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

判例No.17平成28年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.判決の概要

 審決では、引用文献の記載事項を上位概念化した内容と、本件発明の事項を上位概念化した内容とが一致する点を、引用文献に記載の発明と本件発明との一致点としているが、引用発明の記載事項を上位概念化して認定することは許されない。

 

2.本件発明の要点

 第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータが第2通信装置によってアクセスされるべきかを決定する方法において、第1通信装置と第2通信装置との間の距離測定を実行し,測定された距離が事前に規定された距離間隔の範囲にある場合に、第2通信装置によるマルチメディアデータへのアクセスを許可する(特願2010-103072号の請求項1の概要)。

 

3.審決の概要

 本件発明では、第1通信装置と第2通信装置との距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置に記憶されたマルチメディアデータへの,第2通信装置によるアクセスを許可している。このように、上記距離が規定範囲にある場合に、第1通信装置は、第2通信装置にマルチメディアデータへアクセスさせるというサービスの実行を許可している。

 

 引用発明(甲1:特開平9-170364号公報)では、車両側無線装置と携帯型無線装置との距離が規定範囲にある場合に、車両側無線装置が,携帯型無線装置からの応答信号に基づいて,ドアの解錠指令を送出している。このように、車両側無線装置は、ドアの解錠指令の送出というサービスの実行を許可している。

 

 したがって、本件発明と引用発明とは、上記距離が規定範囲にある場合に、所定のサービスの実行を許可している点で一致している。

 

4.判示事項

 引用発明において、車両側無線装置が搭載された車のドアの解錠指令の送出を決定することを、所定のサービスの実行を許可することとして抽象化し、このように上位概念化(抽象化)された動作を、引用発明の記載事項(構成要素)であると評価することは許されない。その理由として、次の(A)(B)を挙げています。

 

(A)「甲1発明は,車両のドアに限定されないものの,ドアの施解錠に限定されたものであるといえる。」ここで、「」内は上記判決文からの引用です。

 

(B)サービスという用語の解釈に無理がある。詳しくは、本ブログの判例No.17-2http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2017/01/24/123746を参照。

 

5.実務上の指針

 まず、別の判例(平成14年(行ケ)第546号 審決取消請求事件)では、「進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提作業として行われるものである。相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,」と判断されています(ここで「」内は当該別の判例からの引用です)。

 

 しかし、今回の判例のように、次の(1)に該当する場合には、その旨を反論できる。

(1)引用文献が特定の技術に限定されているのに、この限定を超えて引用発明の記載事項が上位概念化して認定されている。

弁理士 野村俊博