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進歩性 特徴の表現が困難な場合には、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載すれば、請求項の限定を少なくできる。

進歩性 特徴の表現が困難な場合には、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載すれば、請求項の限定を少なくできる。

判例No.19 平成21年(行ケ)第10403号審決取消請求事件

※以下は独自の見解です。

1.本件発明のポイント
 特許第3290336号の請求項1は、次の「」内の通りに記載されている。

 「金属板を円筒状に曲成しその両端部を接合することにより形成した胴部と,この胴部の下縁部に結合した底板,及び胴部の上縁部に装着したバランスリングとを具備するものにおいて,フィルタ部材を具え,このフィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余すことを特徴とする洗濯機の脱水槽。」

隙間の技術的意義:「フィルタ部材で直接胴部の接合部を見えなくでき」(すなわち外観が良くなり)、かつ、「フィルタ部材が熱収縮しても、これとバランスリングとの間、又は底板との間にはもともと隙間があり、それらが広くなるだけで、そこには洗濯物が挟まれるようなことはない」

ここで、「」内は、上記特許の明細書からの引用です。

2.判示事項

 『確かに,「隙間」ということば自体の一般的な意味は,辞書に記載されているとおり明確であるといえる。しかし,本件発明1を記載した請求項1においては,「フィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余す」として,「隙間」について,フィルタ部材との関係で相対的に大きさを示し,バランスリング,底板及びフィルタ部材との関係で位置を示しているから,本件発明1における「隙間」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載のみでは一義的に理解することはできず,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その技術的意義を明確に理解することはできない。
 そして,明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題・課題の解決手段・作用効果との関係で「隙間」の技術的意義を考慮するならば,「隙間」は,「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認められる』ここで、『』は上記判決からの引用です。
 その結果、本件発明(請求項1)の明確性と進歩性が認められている。

 なお、本件特許による損害賠償が別の判決(平成 23年 (ワ) 8085号 各損害賠償等請求事件)で認められている。

3.実務上の指針
 明確に表現することが困難な特徴(上記の判例では、洗濯物が挟まれないようにする隙間)の数値範囲を請求項で限定せずに、特許とするためには、その技術的意義を分かりやすく明細書に記載する。
 言い換えると、技術的意義を分かりやすく明細書に記載しておけば、当該特徴(隙間)を、余計な限定(数値限定)なしで引例との相違点にして、当該請求項を特許にできる。
 これは、少なくともプロパテント側の日本では言えそうに思える。

 それでも、争いを避けるために(又は外国での確実な特許取得のために)、可能であれば、当該特徴(隙間)の数値範囲などを従属請求項や当初明細書に定義しておくことが好ましい。
 例えば、上記特許では、隙間の数値範囲や、フィルタ部材の全長に対する隙間の割合などを、複数の段階で従属請求項や当初明細書に記載しておくことが好ましい。

 また、上記特許に関して「隙間」の目的を請求項に記載することも1つの選択肢になりえる。例えば、「フィルタ部材とバランスリングとの間に洗濯物が挟まれないようにするための隙間」のような表現を独立請求項1に記載することも1つの選択肢になりえる。技術的意義(作用効果)を認めてもらうためには、その作用効果を得るという目的を請求項で特定することで足りる場合もあるからである(本ブログのNo.1進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定 - hanreimatome_t’s blog

を参照)。

弁理士 野村俊博