進歩性 除くクレーム

 

進歩性 除くクレーム

 

判例No.20平成20年(行ケ)第10065号審決取消請求事件

※以下は独自の見解です。

 

1.本件特許の記載

 特許第3835698号の請求項1の記載は、次の「」内と通り。ただし、下線部の箇所は、除くクレームとする補正箇所に変更した。

 

「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され、直径が0.01~1mmであり、ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000m2/g以上であり、そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが、但し、式(1):

    R=(I15-I35)/(I24-I35)      (1)

〔式中、I15は、X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり、I35は、X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり、I24は、X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕

で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く、

ことを特徴とする、経口投与用吸着剤。」

 

2.判示事項

「球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明(甲6発明)は同一であるということができる。そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない」

 ここで、「」内は上記判決からの引用です。

 

 また、上記判決は、審査基準と同じ趣旨の見地からなされています。

 

3.特許庁の審査基準

 特許庁の審査基準には、以下の各『』内の記載がある。

 

『以下の(i)及び(ii)の「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。

(i) 請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正』

 

上記(i)における「除くクレーム」は、第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る引用発明である、刊行物等又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む。)のみを除外することを明示した請求項である。

上記(i)の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。したがって、このような補正は、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。

なお、「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。』

 

4.考察

 請求項に記載した発明の範囲の一部が、引用文献に記載の発明と重複する場合に、次の(1)を満たす場合には、当該一部を請求項から除く補正をすることによって、当該引用文献を、対象発明の新規性と進歩性を否定する検討材料から除外できると考える。

 

(1)請求項に記載した発明の技術的思想が、引用文献と顕著に異なる。

 

(考察1:新規性)

 請求項1の発明と引用文献1の発明は、次のように事項Aを有し、請求項1の発明の事項Bの概念が、引用文献1の発明の事項B’を含むとする。

 

請求項1の発明=A+B

引用文献1の発明=A+B’

 

 この場合、上記(1)を満たす場合、請求項1を次のように補正すれば、引用文献1の発明を、対象発明の新規性を否定する判断材料から除外できる。

 

「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

(考察2:進歩性)

 上記考察1において、請求項1に従属する請求項2が、事項Cを含み、この事項Cが引用文献2に記載されている。

 引用文献1に引用文献2の事項Cを組み合わせて、請求項2に容易に想到できるとして請求項2の進歩性が否定されている。

 

請求項1の発明=A+B

請求項2の発明=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

 請求項1を「AとBを含み、但し、BがB’であることを除く装置」のように補正すれば、「さらにCを含む、請求項1に記載の装置」と記載された請求項2の進歩性は、引用文献1、2によっては否定されなくなると考える。

 請求項1の補正「BがB’であることを除く」により、引用文献1は、進歩性の判断材料から除外されるからである。

 

(考察3:進歩性)

 そうすると、下記の独立請求項Xも下記の補正(除くクレームとする補正)により、進歩性が認められると考える。

 ここで、事項A,B,B’,Cは上記の通りである。

 

独立請求項X=A+B+C

引用文献1の発明=A+B’

引用文献2:Cが記載されている。

 

請求項Xの補正:「AとBとCを含み、但し、BがB’であることを除く装置」

 

 なお、知財高裁平成26 年9 月25 日判決平成25 年(行ケ)10266号には、次の「」内のように、進歩性欠如を解消するために除くクレームとする補正が可能なことが示唆されていると思う。
「原告は,本件訂正(『除くクレーム』による訂正)は進歩性欠如の無効事由を回避するために行われたものであるから訂正の手法を逸脱しており,これによって第三者が不測の不利益を被る可能性があるなどと主張する(前記第3の1(4))。しかるに,訂正は,特許法134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とし,これによって新たな技術的事項を導入するものではなく,訂正後の発明がいわゆる独立特許要件(特許法134条の2第9項の準用する同法126条7項)を具備するなどの所定の要件を満たす場合に許容されるものであり,進歩性欠如の無効事由を回避するために行われたか否かはそれ自体として訂正の適否を左右するものではない」

弁理士 野村俊博