進歩性 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能の点で異なる場合、その機能に関連する副引用例の一部の内容を主引用例に適用することは容易でない。

進歩性 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能の点で異なる場合、その機能に関連する副引用例の一部の内容を、主引用例に適用することは容易でない。

 

判例No.22平成28年(行ケ)第10186号 審決取消請求事件

※以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 主引用例の発明と副引用例の発明とが、その機能又は性質(上記判例では筆跡の形成に関する機能)の点で異なる場合、その機能又は性質に関連する副引用例の一部の内容(上記判例では、筆跡を消す摩擦体)を、主引用例に適用することは容易でない。

 

2.上記判例の判示事項

 引用例1(主引用例)では、筆記具は普通の筆記対象(例えば紙)に筆記できるのに対し、引用例2(副引用例)では、筆記具は、当該筆記具とセットにされる特別な筆記対象(熱変色層が形成された支持体)にだけ筆記できる点で、両者は、筆跡の形成に関する機能又は性質が異なる。

 このような筆跡の形成に関する機能又は性質の相違を考慮すると、当該機能又は性質に関連する引用例2の一部の内容「筆跡を消色させる摩擦体」を引用例1に適用することに当業者は容易に想到できない。

 

 上記判例では、以下の「」内の通りに判示されている。

「引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが,①引用発明1は,可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり,それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成できるのに対し,②引用発明2は,筆記具と熱変色層が形成された支持体等から成る筆記材セットであり,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので,インキや顔料を含んでおらず,通常の筆記具とは異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず,セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものであるから,筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層に限られ,両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なるものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難い。」

 ※ここで、引用発明1に引用発明2を組み合わせるとは、引用発明2における筆跡を消色させる摩擦体を、引用発明1に適用することを意味すると理解する。

 

弁理士 野村俊博