進歩性 設計事項

進歩性 設計事項

 

判例No.25平成25年(行ケ)第10229号 審決取消請求事件

※以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 本件発明は、主引用例に記載されていない特徴Xを有するとする。特徴Xは、周知技術と同様であるとする。

 このような場合、主引用例において特徴Xを採用することは設計事項であるとされ得る。

 しかし、次の条件を満たせば、特徴Xが設計事項であるとは言えない。

 

 条件:本件発明と周知技術とは、特徴Xを採用する部位(箇所)が異なることにより、両者の技術思想が異なる。

 

2.上記判例の独自解釈

2.1 前提事項

 上記の判例では、本件発明は、特許第4590247号の請求項1に係る発明(靴下の編成方法)である。

本件発明は、靴下の踵部の外側部分において、特徴X「靴下の編地面積を大きくすること」を採用している。すなわち、本件発明では、踵部の外側方向にウェール数を多めに編成している。

 主引用例(特開2003-82501号公報)は、上記の特徴Xを有していない。

 周知技術(甲11:特開2004-218131号公報)では、特徴Xを靴下の爪先部の親指側部分に採用している。

 

2.2 争点

 主引用例において、靴下の踵部の外側部分において、特徴Xを採用することは設計事項であるか。

 

2.3 判示事項(独自解釈)

 本件発明では、特徴Xを踵部の外側部分に採用することにより、人の踵の形状によりよくフィットする靴下が得られる。

 これに対し、周知技術では、特徴Xを爪先の親指側部分に採用することにより、ゴアラインが足の爪先の周縁に位置してはき心地が低下するのを解消できる。すなわち、周知技術は、「ゴアラインを構成する編糸が着用者の指先或いは指周縁に当たり不快感を生じ」ることを解消するものであり(当該「」内は特開2004-218131号公報からの抜粋です)、本件発明の技術的思想「人の踵の形状によりよくフィットする靴下」と異なる。

 したがって、主引用例において特徴Xを踵部の外側部分に採用することは、設計事項ではない。

 

 なお、次の「」内は、上記判例からの抜粋です。

 「甲11に記載されているのは,靴下の爪先部のゴアラインが足の爪先の周縁に位置してはき心地が低下するのを解消する目的で,爪先部の点に着目して親指側の編地面積を大きくするというものであって(段落【0008】),その際,爪先部と踵部の編成中心を90度変位させる発明であるとしても(【図1】),爪先部の編成にあくまでも発明の重点があるのであって,人の踵の形状によりよくフィットする靴下に関し,踵部の編成において踵部の外側を内側よりも大きくするという本件発明や,踵部の形状を非対称形とするという甲1発明とは技術思想が全く異なる。そうすると,被告が主張するように,甲11を根拠に,踵部の形状に着目して同部位の両側の編成を適宜変位させることが当業者の選択し得る設計事項ということはできないというべきである」

 

3.審査基準の参照

 本件発明においてある特徴Xを採用する部位が、周知技術や公知技術において特徴Xを採用する部位と異なることにより、新たな課題を解決したり新たな作用効果が得られる場合には、特徴Xは設計事項とはいえないと思う。

 この場合には、下記の審査基準の抜粋の(i)から(iv)のいずれにも該当しないと思えるからです。

 

 次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。

「(1) 設計変更等請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、以下の(i)から(iv)までのいずれか(以下この章において「設計変更等」という。)により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。

(i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択(例1)

(ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化(例2)

(iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換(例3)

(iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用(例4及び例5)

これらは、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないからである。」

 

弁理士 野村俊博