進歩性 機能で進歩性が認められる。

進歩性 機能で進歩性が認められる。

判例No.28  平成20年(行ケ)第10345号 審決取消請求事件

以下は独自の見解です。

 

1. 機能を考慮した進歩性の判断

 次の(a)(b)の場合に、次の(c)に該当すれば、対象の発明の進歩性が認められる可能性が高い。

 

(a)対象の発明において、特定の構成により、特定の機能が得られる。

(b)「当該構成に対応する構成が副引用例に記載されている。

(c)上記機能は、主引用例にも副引用例にも記載されていない。

 

 ただし、請求項の記載において、上記機能が得られることが明確になっている必要があると思う。例えば、請求項において、上記機能自体を明記し、または、上記機能を得るための、複数の構成要素同士の関係を明記する必要があると思う。上記判例での特許第3806396号の請求項1には、上記機能自体(後述の構成1)も、上記機能を得るための、複数の構成要素同士の関係(後述の関係2)も記載されている。

 

 特許第3806396号の請求項1は次の通りです。下線はここで付しました。最初の下線は、構成要素同士の関係の記載であり、二番目の下線は、機能自体の記載です。

「【請求項1】椅子本体の両肘掛部の上面適所に人体手部を各々載脱自在でこれらに空圧施療を付与し得るよう,椅子本体の両肘掛部に膨縮袋を各々配設し,且つ各膨縮袋に圧縮空気給排装置からの給排気を伝達するホースを各々連通状に介設してなる圧縮空気給排気手段を具備させた手揉機能付用施療機であって,該手揉機能付用施療機の各肘掛部は,肘幅方向外側に弧状形成された立上り壁を立設して,肘掛部の上面をこの弧状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状の肘掛部に各々形成されており,且つ,前記立上り壁の内側部には膨縮袋を配設すると共に,前記肘掛部の上面に二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群を配設して,前記肘掛部の上面に配設した膨縮袋群は,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がるように配設され,前記膨縮袋群の内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させ肘掛部上に人体手部を安定的に保持させて,立上り壁内側部に配設された膨縮袋と肘掛部の上面に配設された膨縮袋群とを対設させた膨縮袋間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした事を特徴とする手揉機能付施療機。」

 

2.上記判例についての独自解釈と判示事項

2.1 独自解釈

 本件発明(特許第3806396号の請求項1)では、手揉機能付施療機において、次の構成1と構成要素同士の関係2により、次の機能3が得られる。

 

構成1:肘掛部において「肘幅方向外側に弧状形成された立上り壁を立設し」

構成要素同士の関係2:「前記立上り壁の内側部には膨縮袋を配設すると共に・・・肘掛部の上面に配設した膨縮袋群は,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がる」→立上り壁の内側部の膨縮袋と、肘掛部の上面に配設した膨縮袋群とで人体手部を挟持して、次の機能3が得られると解される。

機能3:「肘掛部上に人体手部を安定的に保持させ」が得られる

 ここで、各「」内の記載は、本件特許第3806396号の請求項1からの抜粋です。

 

 主引用例(特開2001-204776号公報)には、上記構成1と構成要素同士の関係2と機能3のいずれも記載されていない。

 副引用例(特開昭50-136994号)には、上記構成1は記載されているが、構成要素同士の関係2と機能3は記載されていない。

 

2.2 判示事項

 これについて、上記判例では、次のように判断されていると解する。

 機能について格別の検討をすることなく,専ら,上記構成1の立上り壁などの形状に着目して,本件発明が容易に想到できるとした審決は誤りである。

 

 これに関する次の「」内は、上記判例からの抜粋です。

「審決は,その事実認定を前提として,引用発明1の外側壁を『湾曲状に形成された立上り壁』とするとともに,「外側壁に対向する対向面を『肘掛部の上面』とし,各肘掛部を『肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状に形成』することについて,容易に想到できたとの結論を導いたものであるから,その判断にも誤りがあるというべきである。

すなわち,審決は,相違点1に係る構成に関し,その機能について格別の検討をすることなく,専ら,立上り壁と肘掛部上面の形状に着目して,容易想到であると判断した。」

 

3.請求項の記載の検討

 請求項に係る発明において、特定の機能が必須のものである場合には、当該機能が得られることを請求項で明確にしておくことにより、発明の進歩性が認められる可能性が高まると思う。

 すなわち、どの引用例にも、その機能が記載されておらず、単に組み合わせるだけでは当該機能を有するような構成に至らない場合には、複数の引用例から請求項に係る発明に容易に想到できないと言える可能性が高い。例えば、主引用例に副引用例の部材を適用する場合に、当該部材の形状を変更しなければ上記機能が得られない場合には、これらの引用例から請求項に係る発明に容易に想到できないと言えると思う。

 このような場合に、請求項において、上記機能自体を明記し、または、上記機能を得るための、複数の構成要素同士の関係を明記することにより、当該機能を進歩性の根拠にできると思う。

 

弁理士 野村俊博