進歩性 本件発明と主引用例とで、課題の相違により構成要素の大きさや強度などが相違するといえる場合、当該課題を解決する本件発明の発明特定事項は、容易に想到できたものではない。

進歩性 本件発明と主引用例とで、課題の相違により構成要素の大きさや強度などが相違するといえる場合、当該課題を解決する本件発明の発明特定事項は、容易に想到できたものではない。

 

判例No30 平成21年(ネ)第10028号特許権侵害差止等請求控訴事件

 

 以下は、独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 対象発明が次の(1)と(2)の場合には、(2)を理由として、次の(3)を主張することにより、対象発明の進歩性が認められる可能性が高い。

 

(1)対象発明の請求項に記載により特定される事項Aは、主引用例との相違点となる。

(2)上記事項Aから対象発明の課題を解釈でき、この課題が主引用例の発明の課題と異なることにより、上記事項Aに含まれる構成要素の大きさや強度などの構造にも、主引用例との違いが生ずる。

(3)上記事項Aは、当業者にとって適宜考慮し得る単なる設計事項ということはできず、事項Aを埋めるような副引用例の適用も容易でない。

 

2.上記判例の本件発明について

 本件発明は、特許第第3499754号の発明であり、その請求項1は、次の「」内の通りです。

 

「【請求項1】基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され、かつ、複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置であって、上部および下部を有するフレームと、該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボルトと、前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ前記ボルトに螺合され、前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能であるナットとを含み、前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可能である、鉄骨柱の建入れ直し装置。」

 

3.本件発明との相違点

本件発明と主引用例(乙1発明:特開昭60-112597号公報)とは,『本件発明は「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置」(構成要件A及びF)であるのに対し,乙1発明は「地面からの車両ホイスト」である点』で相違する。

ここで、『』内は、上記判例からの抜粋です。

 

4.判例の独自解釈

 以下は、上記判例を独自に解釈した内容です。

 本件発明では、請求項1の記載から、ベースプレートの重量は、主にテツダンゴにより支持され、ナットは、ベースプレートの傾きを調節するために、ベースプレートの縁部を上下位置調節可能に支持すると解釈できる。

 これに対し、主引用例では、チャリオット(本件発明のナットに対応)により、車両の全重量を支持して、車両を持ち上げる。

 したがって、主引用例には、車両(本件発明のベースプレートに対応)の傾きを調節するという課題が記載されていない。そうすると、主引用例におけるチャリオットに関する大きさや強度などの構造は、本件発明において、ベースプレートの重量の一部のみを支持するナットに関する大きさや強度などの構造と異なる。

 よって、上記相違点に係る本件発明の事項は、当業者にとって適宜考慮し得る単なる設計事項でなはなく、当該事項を埋めるような副引用例の適用も容易でない。

 

弁理士 野村俊博