進歩性 主引用例に副引用例を適用する際に副引用例の構成を変更すると対象発明の構成に至る場合に、当該変更によって副引用例の効果が失われる場合には、当該変更は容易ではない。

進歩性 主引用例に副引用例を適用する際に副引用例の構成を変更すると対象発明の構成に至る場合に、当該変更によって副引用例の効果が失われる場合には、当該変更は容易ではない。

 

判例No.33平成28年(行ケ)第10265号 審決取消請求事件

以下は独自の解釈です。

 

1.実務上の指針

 主引用例に副引用例を適用する際に、副引用例の構成を周知技術に基づいて変更すれば、対象発明の構成に至る場合に、次の(1)に該当すれば、当該適用の際に副引用例の構成を変更することは容易ではない。

 

(1)副引用例の構成を周知技術に基づいて変更すると、変更前の副引用例の効果が失われてしまう。

 

2.上記判例における本件発明と主引用例と副引用例

・本件発明

 本件発明では、盗難防止対象物に取り付ける盗難防止タグが、暗号コードを一部に含む解除指示信号を受信し、解除指示信号に含まれる暗号コードが、記憶されている暗号コードと一致するかを判断し、一致する場合には、その警報出力状態を解除する。

 

・主引用例

 主引用例では、盗難防止タグが、コード信号を受信し,前記コード信号を受信したと判定したら、その警報動作を解除する。

 

・副引用例

 副引用例では、盗難防止用の付け札は、受信したコード信号が、記憶されているコード信号と一致しているかを判断し、一致している場合には、その警報動作を解除する。

 

3.主引用例に副引用例を適用した構成と本件発明との共通点および相違点

 共通点:主引用例に副引用例を適用して得られる構成では、盗難防止タグが、コード信号を受信し、コード信号が、記憶されているコード信号と一致するかを判断し、一致する場合には、その警報出力状態を解除する点で、本件発明と共通する。

 相違点:主引用例への副引用例の適用では、本件発明の事項A「解除指示信号の一部に暗号コードが含まれている」には至らない。

 

3.判示事項

 周知技術「信号がコードを一部に含み,この信号に含まれるコードについて一致判断をする」に基づいて、主引用例に副引用例を適用して得られる構成を変更して上記事項Aに至るようにすることは、通常、容易ではなく,副引用例の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるとされた。

 これについて、次の「」内は、上記判決からの抜粋です。

 

上記判決からの抜粋:

「引用発明Aに引用例3事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないところ,さらに周知技術を考慮して引用例3事項を変更することには格別の努力が必要であるし,後記(ウ)のとおり,引用例3事項を適用するに当たり,これを変更する動機付けも認められない。主引用発明に副引用発明を適用するに当たり,当該副引用発明の構成を変更することは,通常容易なものではなく,仮にそのように容易想到性を判断する際には,副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるから,本件審決の上記判断は,直ちに採用できるものではない。」

 

 より詳しくは、次のように判断された。

 周知技術に基づく上記変更で、さらに,何らかの効果が得られるかは不明であり、当該変更により、副引用例が目的としている効果が失われてしまう。すなわち、副引用例では、コード信号である終了メッセージの時間スロット数が固定されていることにより、他の信号との識別が可能となっているのに、終了メッセージの時間スロット数を増やして、終了メッセージの一部にコード信号が含まれるようにすると、他の信号とコード信号との識別ができなくなってしまう。

 

弁理士 野村俊博