進歩性 複数の周知例を抽象化した技術を周知技術として認定することはできない

進歩性 複数の周知例を抽象化した技術を周知技術として認定することはできない。

 

判例No.34平成28年(行ケ)第10044号 審決取消請求事件

 

※以下は独自の解釈です。

 

1.実務上の指針

 主引用例に周知技術を適用することにより、対象の発明に容易に想到できるとされた場合、次の(1)(2)に該当すれば、次の(3)の主張をする余地がある。

 

(1)複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項から、抽象化(一般化)された周知技術が認定されている。

(2)複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項は、それぞれ互いに異なる目的で使用されている。

(3)認定された周知技術は、複数の周知例を抽象化したものである。しかも、複数の引例にそれぞれ記載された複数の技術事項の目的が互いに異なることを考慮すると、周知技術が複数の技術事項の組み合わせに相当するとしても、このような組み合わせは容易ではない。したがって、当業者は、このように抽象化したものを周知技術として把握できない。

 

2.判決の概要

2.1.本件発明の要点

 第1~第3の化合物半導体層を、それぞれn型、p型、p型として、この順に積層した赤外線センサ。この赤外線センサでは、第3の化合物半導体層のp型ド-ピング濃度が第2の化合物半導体層のp型ド-ピング濃度よりも高い。これにより、第2の化合物半導体層への赤外線入射で発生した電子と正孔のペアのうち電子が、第3の化合物半導体層へ拡散することを防止できる。

 

2.2 相違点

 主引用例(引用発明C)のπ-InSb層は、本件発明の第2の化合物半導体層に対応するが、「Undopted」とされているから、本件発明においてp型ド-ピングされた第2の化合物半導体層と実質的に相違する。

 

2.3 審決における相違点の判断

 赤外線検出器において、雑音を低減する手段として,赤外線検出器の光吸収層をp型ドーピングして所望のp型キャリア濃度にすることは,本件特許の出願日当時,周知である。

 

2.4 判示事項

 複数の引用例には、それぞれの目的に応じた技術事項が記載されている。

 審決が認定した周知技術は、これらの技術事項を抽象化したものであるで、このように抽象化した技術事項を周知技術として認めることができない。

 

 次の『』の記載は、これに関する上記判例からの抜粋です。

『このように,引用例3,引用例4,甲5,甲6には,光吸収層のドーピングの調整によって,量子効率の最大化,ライフタイムの最大化,ノイズの最小化,熱によるキャリア生成に対する光によるキャリア生成の比率の最大化,熱生成-再結合が起こる領域の最小化,オージェ再結合の抑制が図られる旨記載されているものである。また,甲7には,オージェ制限のある光検出器の検出能力の最大化は,p型ドーピングによって実現できる旨記載されている。

そうすると,赤外線検出器の検出能力を向上させるためには,その目的に応じて,光吸収層のドーピングを調整することが必要であるというべきである。引用例3,引用例4,甲5ないし7から,おおよそ赤外線検出器の検出能力を向上させるための技術事項として,「光吸収層のドーピングが,他の層のドーピング等とともに適切に設計されること」(前記①)や,光吸収層のドーピングが「ノンドープ,p型及びn型のいずれも可能であること」(前記②)といった抽象的な技術事項は認めることはできない。

 ・・・したがって,前記①及び②の周知技術は認めることができない。』

 

弁理士 野村俊博