主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

主引用例の構成要素Aと副引用例の構成要素Bとで、用途や構造が共通していても、構成要素Bを主引用例の構成要素Aに直ちに適用可能とは言えず、主引用例の構成要素Aに構成要素Bの機能を持たせることの合理的理由がなければ、この適用は容易でない。

 

判例No. 38平成27年(行ケ)第10009号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.本件発明(特許第5337221号の請求項1)の内容

 特許第5337221号の請求項1は、次の「」内の通りです。ただし、下線はここで付しました。

「シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて,

前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,

前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され

且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と,この弁体が当接可能な弁座と,前記

流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する

流体圧導入室と,前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路と

を備え,

前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移

動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧の圧力変

化を介して前記出力部材が前記所定の位置に達し,前記所定の位置にあることを

検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。」

 

2.主引用例(米国特許第3,540,348)の内容

 シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて、ピストンの動きを反転させる。これにより、ピストンは自動的に反転動作する。

 以下で、上記の内容の一部を次のように構成要素Aという。

 構成要素A:「シリンダ内で往復動するピストンがシリンダ室の一端に達すると当該ピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動することによりシリンダ室への流体圧供給を切り換えて」

 

3. 主引用例との相違点

出力部材(ピストン)が所定の位置(工程端)に達したときの動作について,本件発明では「前記所定の位置にあることを検知可能」にしたのに対し,主引用例では、二方パイロット弁によりピストン21の反転動作を可能にしたもので,「検知」については不明である点。

 

4.副引用例(米国特許第4,632,018)の記載内容

 次の構成要素A’,Bが互いに置換可能であることが記載されている。

構成要素A’:ピストンが工程端に達すると、プランジャ型スイッチピストンと機械的に連動することにより作動する。

構成要素B:ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される。

 

5.適用について(進歩性の判断)

 上記判例の判示内容の独自解釈は次の通りです。

 

 副引用例の構成要素A’(主引用例の構成要素Aに相当)を構成要素Bに置換できることを、主引用例に適用することにより、上記相違点は埋められる。すなわち、主引用例において、構成要素A「シリンダ室の一端に達すると、このピストンの動作に二方パイロット弁が機械的に連動すること」を、構成要素B「ピストンが工程端に達すると、これによる圧力変化がピストンセンサにより検知される」に置き換えると、上記相違点は埋められる。

 しかし、主引用例だけを考慮すると、主引用例では、機械的な連動で、ピストンが自動的に反転動作するようにしているので、主引用例において、ピストンの工程端への移動による圧力変化を検知する動機づけはない。

 すなわち、構成要素Aと構成要素Bとで用途や構成が共通していても、機械的な連動によりピストンを自動的に反転動作させている主引用例においては、構成要素Bの検知機能を持たせる合理的理由がないので、主引用例において、構成要素Aを敢えて構成要素Bに置き換える動機づけは無い。

 よって、上記相違点に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博