副引用例に、複数の構成①~③が記載され、当該構成毎に、その効果が記載されている場合でも、副引用例の明細書に、発明の効果として、構成①~③により、これらの効果を統合したものが得られると記載されている場合は、構成①~③は不可分のものである。したがって、副引用例から構成①のみを抽出して主引用例に適用することは容易でない。

副引用例に、複数の構成①~③が記載され、当該構成毎に、その効果が記載されている場合でも、副引用例の明細書に、発明の効果として、構成①~③により、これらの効果を統合したものが得られると記載されている場合は、構成①~③は不可分のものである。したがって、副引用例から構成①のみを抽出して主引用例に適用することは容易でない。

 

判例No. 39平成29年(行ケ)第10120号  審決取消請求事件

 

以下は、独自の見解です。

 

1.審決の概要

 当業者は、副引用例(特開昭62-152906号公報)に記載された構成①を主引用例(特開2011-207283号公報)に適用することにより、本件発明に容易に想到できる。

 

2.副引用例の記載

 副引用例には、乗用車のタイヤに関して、次の構成①~③が記載されている。

 

構成①:「溝面積比率を25%とし、しかも、踏面幅Tの50%以内の領域Wの全溝面積比率を残りの領域の全溝面積比率の3倍とする」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

構成②:「ストレート溝aと副溝bとにより区画されたブロック1の表面に独立カーフをタイヤ幅方向FF’に形成した」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

構成③:「ブロック1の各辺とカーフcの各辺(実質的にカーフcの両側)のタイヤ幅方向FF’全投影長さLGとタイヤ周方向EE’の全投影長さCGとの比LG/CG=2.5とした」

 ここで、「」内は副引用例からの抜粋です。

 

 また、副引用例には、構成①~③毎に、その効果が次のような内容で記載されている。

 構成①により、耐摩耗性能を向上させ、乗心地性能及び湿潤路走行性能の低下を抑えることができる

 構成②により、良好な乗心地性能を享受でき、乾路走行性能を向上させることができる。

 構成③により、湿潤路走行性能を向上させることができる。

 

 更に、副引用例には、その目的と効果が次のような内容で記載されている。

 副引用例の発明は、耐摩耗性能、乗心地性能、湿潤路走行性能、および乾路走行性能を向上させることを目的としている。

 副引用例の発明は、構成①~③により、耐摩耗性能、乗心地性能、湿潤路走行性能、および乾路走行性能を向上させることができる。

 

3.上記判決の概要

 「副引用例の記載を鑑みると、構成①~③は不可分のものであり、構成①のみを抜き出して、副引用例に構成①が開示されていると認めることはできない」と、判示されていると解釈する。

 なお、上記判決によると、構成①~③は不可分であること以外に、副引用例はブロックパターンのタイヤであることも前提(不可分)であるとして、構成①のみを抜き出して、副引用例に構成①が開示されていると認めることはできないとされている。

 しかし、上記判決において、構成①~③は不可分であると述べられているので、ブロックパターンの前提を考慮しなくても、副引用例から構成①のみを抜き出すことは容易ではないと思う。

 

 上記に関する上記判決文からの抜粋は、次の「」内の通りです。当該「」内において甲4は副引用例のことであり、①ないし③は上記の構成①~③のことです。

 

「①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。」

 

なお、関連する過去のブログには、次のものがあります。

進歩性 一体不可分の複数の構成から一部の構成だけを分離するのは、容易でない。 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 引用例において、ひとまとまりの構成の一部のみを把握することはできない。 - hanreimatome_t’s blog

 

弁理士 野村俊博