ある変更が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。
判例No. 40平成29年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件
ある変更(本判例では、処理の順序の入れ替え)が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。
以下は、独自の見解です。
1.本件発明の内容
特願2014-509742号の請求項1は、次の「」内のように記載されている。
この請求項1に係る発明を以下で本件発明という。
「レーダー送信機及びレーダー受信機を備えるレーダーセンサを用いてホスト自動車の外部の環境で1又は複数のターゲット物体をモニタリングするための装置であって,
前記装置は,前記ホスト自動車と前記1又は複数のターゲット物体との間の所定の相対移動の検知に応答して少なくとも1のアクションを始動するように構成され,
前記装置は,前記ホスト自動車の延伸軸からの前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の距離である横方向オフセット値を判断し,前記横方向オフセット値に基づいて前記少なくとも1のアクションの始動が行われないように,前記少なくとも1のアクションの始動を無効にし,
前記装置は,前記レーダーセンサの出力に応じて前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の前記横方向オフセット値を判断するように構成された装置。」
すなわち、本件発明では、自動車の制御において、処理1「ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動させる」を行い、その後に,処理2「ターゲット物体の横方向オフセット値に基づいて(自車線上にターゲット物体が存在物しない場合に)アクションの始動を無効にする」を行っている。
2.主引用例(特開2005-28992号公報)の内容
自動車の制御において、処理A「認識された存在物が自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され」,その後に、処理B「自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されない」を行っている。
3.本件発明と主引用例との相違点
本件発明では,処理1の後に処理2を行っているのに対し、主引用例では、処理A(処理2に対応)の後に処理B(処理1に対応)を行っている。
4.審決の判断
次の『』内は本判決の前審である審決からの抜粋です。
『「作動」を「開始」する(「アクションの始動が行われ」るようにする)か否かの判断の対象とすべき特定存在物(ターゲット)の「絞込み」を、事前に(つまり、ACC制御、PCS制御等の衝突対応制御が行われることを事前に停止させるために)行うか、事後に(つまり、ACC制御、PCS制御等の衝突対応制御が行なわれ、作動装置を作動させるための信号が生成されるが、信号の出力は阻止される)行うかは、通常行いうる設計変更と認められる』
すなわち、審決では、処理の順序の入れ替えは、単なる設計変更であると判断されている。
5.判決の概要(独自解釈)
主引用例を本件発明に至らせるには、主引用例において処理A,Bの順序を入れ替える必要がある。
処理の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても、主引用例において処理A,Bの順序を入れ替えることは単なる設計変更ではない。
主引用例において処理A,Bを入れ替えると、処理負荷が増大し、主引用例の技術的意義「処理A,Bの順序により処理負担を軽減できる」が変動(喪失)してしまうからである。
なお、より詳しくは、主引用例において、処理A,Bを入れ替えると、認識された多数の存在物について処理Bを行う必要があるので、処理負荷が増大してしまう。
6.考察
主引用例の技術的意義が失われる変更は、主引用例から動機づけられないと思う。
したがって、「処理の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても、その入れ替えを特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動する場合には、主引用例において処理の順序を入れ替えることは単なる設計変更ではない」を、次のように一般化できるように思う。
ある変更が一般的には単なる設計変更であっても、その変更を特定の主引用例で行うと、主引用例の技術的意義が変動(喪失)する場合には、その変更は単なる設計事項ではない。
弁理士 野村俊博