進歩性 本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

判例No. 43 平成29年(行ケ)第10201号 審決取消請求事件

 進歩性:本願発明において、構成Aと構成Bが互いに関係している場合に、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されていることに基づいて,主引用例において構成Bを採用することに容易に想到し得たものということはできない。

 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

1.本件発明の内容

 本件発明は、特許第5356625号の訂正後の請求項1に係る発明である。

 すなわち、本件発明は、肌をマッサージする一対のボールをハンドルの先端部で軸線まわりに回転可能に支持し、ボールの各軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ,各ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されている。

 訂正後の請求項1は、詳しくは、次のように記載されている。

 

【請求項1】

「ハンドルの先端部に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,

 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し,

 一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし,

 前記ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており,

 ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした

 ことを特徴とする美容器。」

 

 本件発明では、次の構成Aと構成Bとが互いに関係している。

 

構成A:

「ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させ、一対のボール支持軸の開き角度を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし」

 

構成B:

「ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており」

 

 構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。

 この問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

2.主引用例との対比

 主引用例には、構成Aに似た構成が記載されているが、構成Bは記載されていない。

 

3.副引用例との対比

 副引用例には、構成Aは全く記載されていないが、構成Bは記載されている。

 

4.判示事項

 本件発明では、構成Aのため、肌面に対するハンドルの傾き角度によってはボール支持軸が肌に当たってしまい、ボールはスムーズに回転できなくなり、円滑なマッサージが妨げられてしまう。すなわち、構成Aは、ボール支持軸が肌に接触してしまう構成である。

 このような構成Aの問題に対して、本件発明では、構成Bを採用している。構成Bにより、ボール支持軸はボールの内部に配置されているので、ハンドルの傾き角度に係わらず、ボール支持軸は肌に当たらないようになる。

 

 したがって、本件発明において、構成Bと構成Aは、「それぞれ別個独立に捉えられるべきものではなく,相互に関連性を有するものとして理解・把握するのが相当である」。

 ここで、「」内は上記判決からの抜粋です。

 

 よって、副引用例において構成Aと関係なく単に構成Bが記載されていることに基づいて,構成Bを主引用例において採用することに当業者が容易に想到し得たということはできない。

 

5.実務上の指針

 したがって、本願発明において構成Aと構成Bが互いに関係しており、構成Aと関係なく単に構成Bが副引用例に記載されている場合に、次のような拒絶理由通知が来た場合には、上記判例に基づいて反論できる可能性がある。

 

拒絶理由通知:

「主引用例に副引用例の構成Bを採用することで、本願発明に容易に想到できる。」

 

弁理士 野村俊博