進歩性:対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念で共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、この置換は、容易に想到できる事項ではない。

判例No. 44 平成29年(行ケ)第10212号 審決取消請求事件

 

進歩性:対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念で共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、この置換は、容易に想到できる事項ではない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明

 特許第5569848号における訂正後の請求項1は、次の通り。

【請求項1】

 黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の全部を,ナタネ

油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。

 

 以下で、この請求項1に係る発明を本件発明という。

 

本件発明の効果:

 油脂を含むコート剤で、上述の黒ショウガ成分含有コアの表面の全部を被覆することにより、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まる。

 

2.主引用例

 主引用例のポリフェノール類製剤は、ポリフェノール類微細粒子(本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」に対応)の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層(例えばパーム油脂)を形成したものである。

 

 ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)を油脂被覆剤層で覆うことにより、次の効果が得られる。

 効果:ポリフェノール類に特有の渋味・苦味が消される。

 

3.公知の事実

 黒ショウガにポリフェノールが含まれることは公知である。

 

4.進歩性の判断の独自解釈

 上記判決において進歩性有りとされた一番の決め手は、本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」と主引用例の「ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)」とが、ポリフェノール類を含む粒子という上位概念では共通するが、性質の程度の点で相違していることにあったと思う。

 すなわち、ポリフェノールの含有量は、本件発明の黒ショウガでは1%にも満たないのに対し、主引用例では1%以上(茶では10~18%程度、ブドウ種子では5%程度)である点で、両者は相違する。

 この相違により、本件発明の「黒ショウガ成分を含有する粒子」には、ポリフェノール類に特有の渋味・苦味があるとは言えず、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の渋味・苦味を消すために、当該粒子を、油脂を含むコート剤で被覆する動機づけは主引用例には無いとされた。すなわち、主引用例において、ポリフェノール類微細粒子(一例では、茶ポリフェノール粒子)を「黒ショウガ成分を含有する粒子」に置換する動機づけは無いとされた。

 その結果、上記判決では、本件発明の効果を考慮しなくても、本件発明は、主引用例及び公知技術から容易に想到できたものではないとされた。

 (なお、前審である無効審判では、本件発明の効果が、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるということが考慮されたことで、本件発明の進歩性が肯定された)。

 

 したがって、次のことがいえると思う。

 対象発明の構成要素Aと主引用例の構成要素A’とが、上位概念(上記判決では、ポリフェノール類を含む粒子という上位概念)では共通していても、構成要素Aと構成要素A’とが性質の程度(上記判決では、ポリフェノール類の含有量)の点で相違することにより、主引用例において、構成要素A’を構成要素Aに置換した場合に主引用例の効果が得られない場合には、上記置換は、容易に想到できる事項ではない。

 

 なお、上記と関連して、対象発明と主引用例とで性質の程度が違うことにより技術的意義が相違するという理由で、対象発明の進歩性が肯定された判決を、次のブログに記載しています。

進歩性 構成が同じに見えても技術的意義が異なれば特許になる - hanreimatome_t’s blog

 

弁理士 野村俊博