進歩性 本願発明と比較される引用発明が引用文献に記載されているといえるためには、引用文献の記載及び技術常識に基づいて、その物を作れることが必要である。

判例No. 45 平成29年(行ケ)第10117号 特許取消決定取消請求事件

 

進歩性 本願発明と比較される引用発明が引用文献に記載されているといえるためには、引用文献の記載及び技術常識に基づいて、その物を作れることが必要である。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 引用文献に記載の引用発明に基づいて、本願発明の新規性又は進歩性が否定されている場合、次の(i)に該当すれば、その旨を反論できる余地がある。

 

(i)引用文献に記載の引用発明は具体的ではなく抽象的であり、引用文献の記載と技術常識から直ちに引用発明を作ることができず、引用発明を作るには試行錯誤が必要である。

 

2.上記判例の概要(独自解釈)

 まず、前提として、次のことが述べられている。

「刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。」

 この「」内は、上記判例からの抜粋です。

 

 次に本件の場合を次のように判断されている。

 前審の取消決定では,引用例1に記載の引用発明1を、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定している。

 しかし、このようなラテラルフローデバイスでは、異なる二つのモノクローナル抗体の適切な組み合わせで抗原を挟み込むサンドイッチ複合体を形成することが必要である。これについて、引用例1には、このようなサンドイッチ複合体を形成可能な具体的なモノクローナル抗体の組み合せが記載されていない。

 したがって、上記サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体の組合せを、試行錯誤によって,見つけ出す必要があるので、引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,引用発明1のラテラルフローデバイスを直ちに作ることができない。

 よって,引用例1にラテラルフローデバイスが記載されているとはいえない。

 

弁理士 野村俊博