権利範囲 「~部」が「~部材」に設けられているという請求項の記載は、「~部」が「~部材」の一部であると解釈され、「~部」を独立した部材とした製品は文言侵害を構成しない可能性がある。

判例No. 47 平成29年(ワ)第18184号 特許権侵害行為差止請求事件

 

権利範囲 「~部」が「~部材」に設けられているという請求項の記載は、「~部」が「~部材」の一部であると解釈され、「~部」を独立した部材とした製品は文言侵害を構成しない可能性がある。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の内容

 上記判例の対象である発明は、特許第4736091号の次の請求項1により特定される。

 

「【請求項1】

 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって,

 先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,

 これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,

 前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,

 前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。」

 この請求項1の記載は、特許第4736091号から抜粋であるが、下線はここで付した。

 

 すなわち、本件発明では、2対の揺動部材のうち、一方の対の揺動部材に係合部を設けている。この係合部は、一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材と組み合わされたときに、他方の対の揺動部材に係合する。その結果、この係合方向に、一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材から外れないようになる。

 

2.判示事項の概要

(文言侵害の否定)

 本件発明の係合部は、揺動部材の一部であると解される。したがって、被告製品において係合部に対応する部材は、揺動部材の一部ではなく、独立した部材である。そのため、被告製品は、「係合部が揺動部材の一部である」という要件を充足しないので、文言侵害を構成しない。

 次の『』内は、これに関する上記判例からの判示事項の抜粋です。

 

『請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載は,その一般的な意味に照らすと,「係合部」が揺動部材の一方の一部を構成していると解するのが自然であり,原告の主張するように,揺動部材とは別の部材が係合部を構成する場合まで含むと解するのは困難である。』

 

(均等侵害の肯定)

 本件発明の本質は、一方の対の揺動部材を他方の対の揺動部材と組み合わせるとともに、この時に一方の対の揺動部材を他方の対の揺動部材に係合させることにある。

 したがって、係合部が揺動部材の一部であるかどうかは、本質的部分ではない。したがって、均等侵害が成立するための第1要件が充足される。他の要件も充足されるので、被告製品は均等侵害を構成する。

 

3.実務上の指針

 「~部(上記判例では係合部)」がある部材に設けられていると請求項に記載すると、この「~部」を独立した部材とした製品は、文言侵害を構成しなくなる可能性が高い。

 そこで、「~部」がある部材(上記判例では揺動部材)の一部であっても独立した部材であってもよい場合に、この点を請求項と明細書に反映しておく。

 上記判例について、請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」に代えて、例えば、「一方の対の揺動部材が他方の対の揺動部材に組み合わされたときに、両者を係合させる係合部を備える」と記載するのがよいと思う。合わせて、従属請求項又は明細書に「係合部は、揺動部材の一部であり、又は、揺動部材とは独立した部材である」と記載しておくのがよいと思う。

 

 一方、請求項に記載した「~部」が、ある部材の一部として記載されていることが理由で、この「~部」を独立した部材とした製品が、文言侵害を構成していなくても、次の場合には、均等侵害を主張できる可能性が十分にあると思う。

・「~部」が、ある部材の一部であるか独立した部材であるかが発明の本質でない場合。

 例えば、上記判例のように「~部」の機能(上記判例では、「2対の揺動部材同士を係合させるという機能」)が発明の本質である場合には、均等侵害となる可能性が十分にあると思う。

 

弁理士 野村俊博