進歩性 除くクレーム 引用例と顕著に相違する技術的思想

進歩性 除くクレーム 引用例と顕著に相違する技術的思想

 

判例No. 50 平成29年(行ケ)第10032号 審決取消請求事件

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の内容

 本件発明は、特許5212364号の請求項9に記載された訂正後の発明である。

 

訂正後の請求項9:

「導電性材料の製造方法であって,

前記方法が,

銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm~15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃~320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。」

※下線は訂正により付加された事項

 

2.引用例との相違点

本件発明では、第2導電性材料用組成物の焼成により,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着するが、銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除くものであると特定されている。

これに対し、引用例1(特表2005-509293号公報)では、金属フレークをその端部でのみ焼結して、隣接する金属フレークの端部を融合すると特定されている点。

 

3.判決の独自解釈

 除くクレームによる訂正事項と他の事項とを合わせた事項が、技術的思想として、引用例1と顕著に異なる事項になったと思う。その結果、本件発明の進歩性が認められたと思う。

 すなわち、上記の請求項9において、除くクレームによる訂正事項と他の事項とを合わせた事項が、技術的思想として、引用例1と顕著に異なる事項「銀の粒子の平均粒径や焼成の際の雰囲気及び温度の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分となる導電性材料が得られる」になったと思う。

 

 次の『』内は、これに関する審査基準からの抜粋です。

 審査基準

『なお、「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、

引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。引用発明と技術的思想としては顕著に異なる発明ではない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられる。』

 

 また、次の「」内は、上記に関する判示事項の抜粋です。

「引用例1は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示するにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではないから,引用発明1に基づいて,相違点9-Aに係る構成を想到することはできない。」

 

4.実務上の指針

 除くクレームによる補正をしなければ、引用例との相違を明確にできない場合には、除くクレームによる補正が有効になると思う。

 除くクレームによる補正を行う場合、除くクレームによる補正事項と他の事項とを合わせた事項が、技術的思想として、引用例と顕著に異なる事項になれば、その発明の進歩性が認められると思う。

 

弁理士 野村俊博