進歩性 同じ装置を動作させる環境が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められる。

進歩性 同じ装置を動作させる環境が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められる。

 

判例No. 53平成25年(行ケ)第10163号 審決取消請求事件

 

1.本件発明について

 本件発明は、特許第4877410号における次の訂正後の請求項1に係る発明である。

 

請求項1:

「大気中で水を静電霧化して,粒子径が3~50nmの帯電微粒子水を生成し,花粉抗原,黴,菌,ウイルスのいずれかと反応させ,当該花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかを不活性化することを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法であって,前記帯電微粒子水は,室内に放出されることを特徴とし,さらに,前記帯電微粒子水は,ヒドロキシラジカル,スーパーオキサイド,一酸化窒素ラジカル,酸素ラジカルのうちのいずれか1つ以上のラジカルを含んでいることを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法。」

 

2.引用刊行物について

 引用刊行物(甲1)には、帯電微粒子水を生成し,22㎥チャンバー内の空間臭,付着臭を消臭するものであり、そのメカニズムについて,「静電霧化で発生したナノオーダーの水微粒子がアンモニア等のガス成分と接触しやすく,ガス成分が水微粒子に溶解し空間中から除去されると推察される。静電霧化の水微粒子に溶解後のガス成分の挙動については現在検討中である」と記載されている。

 

3.審決の独自解釈

 甲1の内容と本件発明の内容(明細書と図面)と比べると、甲1において帯電微粒子水を生成する装置は、本件発明の図面に記載されたものと同様である。

 したがって、甲1でも、帯電微粒子水はラジカルを含んでいると言えるので、他の引用文献の内容「ラジカルにより、ガス成分を分解し又は殺菌効果を得る」を考慮して、甲1において、本願発明1のように、帯電微粒子水のラジカルにより、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかを不活性化させることは容易に想到できるものである。

 

4.判決の概要

 本件出願の優先日時点においては本件特許明細書は未だ公知の刊行物とはなっておらず,当業者においてこれに接することができない以上,甲1発明1の内容を解釈するに当たり,本件特許明細書の記載事項を参酌することができない。

 甲1以外の文献には、ラジカルによりガス成分を分解し又は殺菌効果を得ることは記載されているが、ラジカルが帯電微粒子水中に存在させることが示されていない。

 したがって、本願発明1は、甲1等から容易に想到できたとはいえない。

 

5.考察

 本件発明の構成は、甲1に記載の装置の構成と同様である可能性がある。

 この場合、甲1においても、帯電微粒子水中にラジカルが存在していることになる。

 しかし、甲1において、帯電微粒子水が放出されるチャンバー内(本件発明の室内に対応)に、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れが存在することが記載されていない。

 その結果、ラジカルを含む帯電微粒子水を室内に放出することにより、室内の花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れを不活性化させるという技術的思想は、容易に想到できないことになる。これは、本件発明が方法の発明であるから言えることと思う。

 すなわち、仮に本件発明が装置の発明である場合には、審決が述べているように、その構成は甲1の構成と同様であるので、その新規性や進歩性が認められないと思う。

 

よって、同じ装置を動作させる環境(上記判例の場合には、本館発明では、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れが存在する環境であり、甲1では、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかが存在していない環境)が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められると思う。

 

弁理士 野村俊博