進歩性 発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない。

判例No. 48 平成23年(行ケ)第10273号 審決取消請求事件

 

進歩性 発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の概要

 2次元面発光レーザアレイにおいて、面発光レーザ素子が,行方向と列方向に2次元状に配列される場合に、行方向に隣接するレーザ素子同士の隙間(上記特許出願ではメサ間と呼ばれている)を通る配線数が多いほど、当該隣接するレーザ素子同士の隙間を大きくする構成を採用している。

 これにより、全体のサイズを抑えながらより多素子化している。

 

2.引用文献について

 特開2007-242686号公報(以下、単に引用文献という)には、V C S E L アレイ(面発光レーザアレイ)について。次の記載がある。

 

 記載:「VCSELアレイが8×8個の面発光レーザ素子からなる場合、特許文献3で指摘されているように、最外周に位置する面発光レーザ素子の間を通過する配線の本数は、複数本とならざるを得ない。その結果、その分、面発光レーザ素子の間隔を広くとらなければならなくなり、2次元VCSELアレイのサイズが大きくなってしまう」

 

 しかし、引用文献の全記載は、面発光レーザアレイにおいて、面発光レーザ素子が等間隔で配列されていることを前提としていると思う。

 また、原告は、「走査対象であるレーザアレイのスポット間隔は等間隔にしようと考えるのが,通常の当業者の考え方である」と主張している。

 

3.判示事項の概要

 本件発明の次の構成Aは、次の着想Bに基づいて採用されている。

 

 構成A:

「前記面発光レーザ素子の個別駆動用の電気配線を配するためのメサ間の間隔が,前記メサ間を通過させる前記電気配線数に応じ,前記m行方向における間隔が大きくなるように割り振られた構成とする」

 ここで「」内は本件特許出願(特願2007-250663)の請求項1からの抜粋です。

 

 着想B:

「電子写真装置に用いられる2次元面発光レーザアレイにおいて、その発光スポットは主走査方向に等間隔に並んでいる必要はない」

 ここで「」内は上記本件特許出願からの抜粋です。

 

 これに対し、引用文献には、上記着想Bは記載されていない。

 また、引用文献では、発光スポット(面発光レーザ素子)は、ほぼ等間隔で配列されており、引用文献には、上記構成Aも記載されていない。

 したがって、上記着想Bに基づいて上記構成Aを採用することは引用文献から容易であると言えない。

 

3.実務上の指針

 構成Aは、隣接するレーザ素子同士の隙間(メサ間)を通す配線数の増加に応じて、この隙間を大きくするものであるので、当たり前のようにも思える。

 しかし、2次元面発光レーザアレイの分野においては、多数のレーザ素子を等間隔に配列するのが通常であるので、この等間隔を不要とする上記着想Bが重要視されたと思う。

 その結果、着想Bに基づく構成Aは、容易でないとされている。

 

 したがって、次のことが言えると思う。

「発明の構成Aが容易そうに見えても、この構成Aが、引用文献に記載されていない着想Bに基づくものある場合には、この構成Aは容易ではない」

 

 なお、簡単に思いつきそうな構成が、新規な着想に基づくものである場合には、上記特許出願のように、この構成を採用した発明の特許出願の明細書には、その着想も記載しておくのが良いと思う。明細書に着想の記載があれば、このような着想が進歩性の根拠になり、当該根拠の主張がし易くなると思うからである。

 

弁理士 野村俊博