進歩性 阻害要因、効果の相違、着眼の相違

進歩性 阻害要因、効果の相違、着眼の相違

 

判例No. 49 平成23年(行ケ)第10425号 審決取消請求事件

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.本件発明の内容

 複数の図形の一部の図形のみをスクリーンに表示する場合に、複数の図形は仮想的な環内に配置され、仮想的な環を、前記スクリーンを含む平面内で回転させ、前記仮想的な環の回転軸は前記スクリーン外にある。

 

 詳しくは、本件発明は、特願平11-75264における次の請求項1に係る発明である。

 

「【請求項1】

複数の図形のうち一部の図形のみを同時に、知覚可能なように表示することができ、前記複数の図形を入れ替えて表示しなければならないスクリーンと;

前記複数の図形を前記スクリーン上で移動させるための移動手段とを具え、

前記移動手段は、前記複数の図形を前記スクリーン上に表示すべく回転移動させる手段によって構成され、

前記複数の図形は仮想的な環内に配置され、前記移動手段は、前記仮想的な環を、前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され、前記仮想的な環の回転軸は前記スクリーン外にあり、前記仮想的な環の一部は前記スクリーン内に含まれ、これにより、前記スクリーンは、前記複数の図形のうち前記一部の図形のみを同時に、知覚可能なように表示することを特徴とする電子装置。」

 

2.主引用例(特開平9-97154)

 主引用例では、複数の図形の一部の図形のみをスクリーンに表示する場合に、複数の図形は仮想的な円筒の内周面上に配置され、円筒の中心側から見た円筒の内周面の一部をスクリーンに3次元的に表示させ、スクリーン外にある円筒の軸回りに円筒を回転させる。

 

3.相違点

 本件発明では、複数の図形が配置された仮想的な環は、スクリーンを含む平面内にあるので、二次元のものである。

 これに対し、主引用例では、複数の図形が配置された円筒の内周面は、三次元のものである。

 

4.進歩性の判断

 上記判例では、次のように、阻害要因を理由に、本件発明の進歩性を否定した審決に誤りがあるとしている。

 主引用例における記載X「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」は,二次元の仮想的な環を主引用例に適用することの阻害要因になる。

 よって、本件発明が主引用例から容易に想到できるとした審決には誤りがある(その結果、上記の請求項1の記載で特許第5199521号が成立している)。

 

5.実務上の指針

 主引用例において阻害要因があるかどうかを検討することは重要である。

 一見、上記判例のように本願発明が主引用例から容易に想到できそうに見えても、阻害要因となる記載が主引用例に存在していることがある。この場合には、阻害要因を主張して進歩性を主張できる。

 

 本願発明と主引用例との効果の相違を考慮すると、両者の着眼の相違が明確になり、その結果、阻害要因となる記載を探しやすくなったり、阻害要因が明確になったりすると思う。

 例えば、上記判例では、本件発明の明細書に記載されていない効果が考慮されている。すなわち、上記判例では、『「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ることにより,スクリーンに表示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさ(半径)の直感的な把握が可能となるとの効果(以下「効果2」という。)を奏するものであることが理解できる』と述べられている。その上で、上記判例では、主引用例には阻害要因となる記載があると述べられている。

 これについて、効果の相違により、本件発明と主引用例との着眼の相違が明確になり、その結果、主引用例の上記記載Xが阻害要因であることが一層明確になっているように思う。

 したがって、例えば、主引用例のある記載が阻害要因であることを明確にするために、主引用例と本願発明の効果の相違に基づいて、両者の着眼が異なることを主張することも考えられる。この場合、本願発明の効果は、特許庁の審査基準で述べられているように、明細書に記載されていなくても、明細書又は図面の記載から推論できればよい。

 

弁理士 野村俊博