進歩性 容易そうに思える構成でも、当該構成と、これに関する他の構成とが互いに関連し合うことにより、主引用例や周知例に示唆されていない作用効果が得られている場合には、進歩性が認められる可能性が高い

進歩性 容易そうに思える構成でも、当該構成と、これに関する他の構成とが互いに関連し合うことにより、主引用例や周知例に示唆されていない作用効果が得られている場合には、進歩性が認められる可能性が高い

 

判例No. 51 平成27年(行ケ)第10127号 審決取消請求事件

 

以下は独自の見解です。

 

1.相違点

 本願発明では、流体排出経路を流体供給経路よりも狭くしているのに対し、主引用例では、この点が不明である。

 

 なお、本件発明は、特許第3138613号の訂正後の次の請求項1に係る発明です。

 

「【請求項1】レーザ発振器から出力されるレーザビームを集光光学部材を用いて集光させ,切断・溶接等の加工を行うレーザ加工装置において,前記レーザビームの伝送路に設けられ気体圧力により弾性変形するレーザビーム反射部材と,このレーザビーム反射部材の周囲部を支持し前記レーザビーム反射部材とともにレーザビーム反射面の反対側に空間を形成する反射部材支持部と,前記反射部材支持部に設けられ,この反射部材支持部の空間に気体を供給する流体供給手段と,気体供給圧力を連続的に切り換える電空弁と,前記反射部材支持部に設けられ,前記反射部材支持部の空間から気体を排出する流体排出手段とを備え,前記空間は流体供給経路及びこの流体供給経路と別体の流体排出経路を除き密閉構造とし,さらに前記空間は前記流体供給手段及び前記流体排出手段とともに出口を有する流体動作回路を構成して,前記流体排出経路を通過した気体は前記流体排出手段より外部に排出され,前記流体排出経路を前記流体供給経路よりも狭くすることにより,前記レーザビーム反射面の反対側に前記レーザビーム反射部材が弾性変形するに要する気体圧力をかけるように構成したことを特徴とするレーザ加工装置。」

 この「」内の記載は、上記判決文からの抜粋です。

2.争点

 流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることは、容易であるか否かが争われた。

 すなわち、圧力応答性の観点から,流体供給経路と流体排出経路の広狭は,周知例のノズル等に基づいて、当業者が必要に応じて適宜決定できるものであるかが争われた。

 

3.判示事項の概要

 周知例において,流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることは,開示も示唆もされていない。

 また、本願発明では、流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることにより、少ない流量の流体でレーザビーム反射面である鏡面の反対側に,レーザビーム反射部材に相当する金属円板が弾性変形するに要する圧力をかけることができる。この作用効果は、主引用例に記載も示唆もされていない。

 よって、主引用から,本件発明を容易に想到することはできない。

 

4.考察

 一見すると、流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることは、必要に応じて適宜に設計できる事項であるように思える。

 しかし、次のように、流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすることと、他の構成とが関連し合うことにより特有の作用効果が得られると思う。

 

他の構成との関連による特有の作用効果:

「レーザビーム反射面の裏面(すなわち反射部材支持部)を内面の一部とする密閉空間が形成されている。この密閉空間に、流体供給経路と流体排出経路が異なる位置で連通しており、流体供給経路からの加圧流体をレーザビーム反射面の裏面に当てることで、レーザビーム反射面を弾性変形させ、その結果、レーザビーム径を変化させる。

 このような構成において、流体供給経路とは別の位置で密閉空間に連通する流体排出経路を狭くすることにより(すなわち、流体供給経路よりも狭くすることにより)、密閉空間の圧力低下を抑えられる。これにより、流体供給経路からレーザビーム反射面の裏面に当てる加圧流体の流量・圧力を変化させた場合のレーザビーム反射面の弾性変形高速応答性が得られ、さらに使用流量を低減できる。」

 

 このように一見して容易そうに思える構成でも、当該構成(上記判決では、「流体排出経路を流体供給経路よりも狭くすること」)と、当該構成に関する他の構成(上記判決では、「レーザビーム反射面の裏面を内面とする密閉空間」と「密閉空間に、流体供給経路と流体排出経路が異なる位置で連通していること」)とが互いに関連し合うことにより、主引用例や周知例に示唆されていない作用効果が得られている場合には、進歩性が認められる可能性が高いと思う。

 

弁理士 野村俊博