発明の構成が引用文献と同じであるとして新規性又は進歩性が否定された場合に、請求項に余分な構成を限定することなく特許出願を権利化する方法

発明の構成が引用文献と同じであるとして新規性又は進歩性が否定された場合に、請求項に余分な構成を限定することなく特許出願を権利化する方法

 

以下は、判例についての独自の見解です。

 

特許出願の請求項に係る物の発明(以下で単に発明という)の構成が、特許庁の審査において、引用文献に記載された構成と同じであるとして新規性が否定されたときに、本出願の明細書や図面においても、発明と引用文献との間で構成上の相違が存在しない場合、あるいは、明細書や図面には引用発明と相違する構成が記載されているが、請求項を当該構成に限定したくない場合がある。このような場合に、発明の技術的思想又は作用効果が引用文献と相違していれば、請求項に作用等を記載する補正、又は、除くクレームの補正を行うことにより、特許出願を権利化できる可能性がある。

 

目 次

1.はじめに

2.請求項に作用等を記載する場合

2.1 物理的性質の程度を記載する場合

2.2 作用又は機能を記載する場合

3.除くクレームの補正をする場合

4.おわりに

 

1.はじめに

発明の構成が同じであるとして新規性が否定された場合に、作用等を請求項に記載する補正、又は、除くクレームの補正は、有効な対応となり得る。これについて、判例を参照して以下に検討した。

 

2.請求項に作用等を記載する場合

2.1 物理的性質の程度を記載する場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、後述の事例1のように、発明の構成要素の物理的性質(後述の事例1では、テープの収縮力)の程度が、引用発明の構成要素とは異なることにより、発明の技術的意義が引用発明と異なる場合がある。

この場合には、請求項において、構成要素の物理的性質の程度を明確にして、意見書で、物理的性質の程度の相違により、技術的意義が異なる旨を主張する。これにより、以下の事例1のように発明の新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例1:平成27年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件

事例1では、特許第3277180号の請求項1に係る発明は、その記載「延伸可能で」および「二重瞼形成用テープ」などから、延伸させたテープ状部材の収縮力の程度が、引用発明のテープ細帯と異なると解釈されたことにより、引用発明には無い技術的意義「テープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成できること」が得られるとして、進歩性が認められた(詳しくは下記URL1のブログを参照)。

特許第3277180号の請求項1:

「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」

URL1:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2016/09/30/142003?_ga=2.113076292.19447527677.1569284210-1010299014.1469438372

 

2.2 作用又は機能を記載する場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、発明の構成要素の作用又は機能が、引用発明の構成要素とは異なる場合には、後述の事例2のように、その作用又は機能(後述の事例2では、刃先に打点衝撃を与えるという作用・機能)を請求項に記載する補正を行う。これにより、構成要素の相違(後述の事例2では、構成要素の寸法)が認められ、その結果、新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例2:平成22年(行ケ)第10258号 審決取消請求事件

事例2では、特許第3074143号の請求項1に係る発明は、その作用的な記載「刃先に打点衝撃を与える」以外は、構成が引用発明と同じであったが、この作用的な記載により、刃先に打点衝撃を与える突起の寸法が引用発明の突起の寸法と異なるとされて、進歩性が認められた(詳しくは下記URL2 のブログを参照)。

特許第3074143号の請求項1:

「【請求項1】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール。」

URL2:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2016/07/27/220351

 

3. 除くクレームの補正をする場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、発明の技術的思想が、引用発明と異なる場合には、後述の事例3のように、除くクレームによる補正で引用文献の範囲を請求項から除外することにより、新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例3:平成29年(行ケ)第10032号 審決取消請求事件

事例3では、特許第5212364号の請求項9に係る発明は、その技術的思想「銀の粒子の平均粒径や焼成の際の雰囲気及び温度の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分となる導電性材料が得られる」が引用発明と異なっていたが、その構成が引用文献と相違していなかった。そこで、除くクレームによる訂正事項により、引用文献との重複部分を除いた結果、進歩性が認められた(詳しくは下記URL3のブログを参照)。

特許第3277180号の訂正後の請求項1:

「【請求項1】導電性材料の製造方法であって,前記方法が,銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm~15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃~320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。」

URL3:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2019/07/03/123706

 

4.おわりに

以上のように、発明の構成が同じであるとして新規性が否定された場合に、作用等を請求項に記載する補正、又は、除くクレームの補正により、余分な構成を請求項で限定することなく、特許出願を権利化できる可能性があると考える。

 

弁理士 野村俊博