進歩性 主引用例に副引用例を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる場合には、阻害要因があるといえ、この適用は容易でない。

進歩性 主引用例に副引用例を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる場合には、阻害要因があるといえ、この適用は容易でない。

 

判例No. 54 令和元年(行ケ)第10097号 審決取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自見解です。

 

 主引用例(実開平4-81919号)に副引用例(実開昭61-88518号)を適用すると、主引用例の目的「子供用簡易蝶ネクタイを容易に装着できるようにすること」を達成できなくなるので、この適用には阻害要因があるといえ、この適用は容易に想到できたものではない。

 

1.本件発明

 特願2017-47926号の請求項1は、次の通り。

「【請求項1】

結び目を有する子供用簡易蝶ネクタイであって前記結び目の裏側にはシャツの第一ボタンがはまり込むボタン穴が形成された部材が,前記結び目とつながって,前記結び目の表側に貫通しないように形成され,前記ボタン穴は全ての側縁が閉じた縦状の穴であり,前記結び目近辺にシワを有し,前記結び目の裏側のボタン穴が形成された部材とウイングとの間には前記結び目を介して横方向に空洞部分を有し,前記ボタン穴が形成された部材を持ち,閉めてある状態の第一ボタンの上からはめ込むことで装着することを特徴とする子供用簡易蝶ネクタイ。」

 

2.主引用例

 簡易蝶ネクタイの基板部2には、その下縁から上方へ凹状に切欠いたボタン係合部19が形成されている。ボタン係合部19をシャツの第1ボタン25に上方から係合させて、簡易蝶ネクタイをシャツに取り付ける。

 

3.本件発明と主引用例との相違点

 シャツのボタンがはまり込む切欠き状の部分について,本件発明では,全ての側縁が閉じた縦状の穴であるボタン穴であるのに対し,主引用例では,下縁から上方へ凹状に切欠いたボタン係合部19である点。

 

4.容易想到性についての判示事項の独自見解

主引用例の簡易蝶ネクタイにおいて、「ボタン係合部19」の下部を,ラッパ状に下方へ拡大し開口させているのは、簡易蝶ネクタイの裏側の見えない状態のボタン係合部19を,上方から探りながらシャツの第1ボタンに容易に装着できるようにするための工夫といえる。したがって、主引用例において、「ボタン係合部19」の下方への開口形状は,主引用例の課題を解決するために,重要な技術的意義を有するものであると理解できる。

 主引用例においてボタン係合部19の代わりに,副引用例において「釦挿通孔⑵」を採用した場合には,釦挿通孔⑵では全ての側縁が閉じているので、裏側の見えない状態のボタン釦挿通孔⑵を,第1ボタンに装着することが、困難となることは明らかである。したがって、引用発明1において、下方が開口した「ボタン係合部19」の代わりに,副引用例における全ての側縁が閉じた「釦挿通孔⑵」を採用すると、引用発明1の目的「簡易ネクタイを簡単な操作でシャツの第1ボタンに装着できる」を達成できなくなる。

 よって、引用発明1の「ボタン係合部19」に副引用例の「釦挿通孔⑵」を適用することには、阻害要因があるといえ、この適用は、当業者が容易に想到できたものであるとは認めがたい。

 

弁理士 野村俊博