進歩性(設計事項に対する反論):出願に係る発明において引用発明と相違する構成が、技術的思想の相違に基づくものであれば、設計事項とは言えない。 

判例No.56 令和元年(行ケ)第10161号 審決取消請求事件 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 進歩性(設計事項に対する反論):出願に係る発明において引用発明と相違する構成が、技術的思想の相違に基づくものであれば、設計事項とは言えない。 

 

1.本件発明の概要

 本件発明(特願2017-157285号の発明)は、建物に組み込まれ、地震の振動エネルギーを吸収するダンパーである。

 本件発明の技術的思想は、振動エネルギーの入力方向を想定し、その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギーを吸収するというものである。

 

2.上記判決における進歩性の判断

 引用発明(特開2000-73603号の発明)の技術的思想は、水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収するというものである。

 したがって、引用発明の技術的思想は、本件発明の上記技術的思想と相違する。

 

 本件発明において、引用発明と相違する構成は、上述した技術的思想の相違に基づく。

 したがって、当該構成は、引用発明との実質的な相違点であり,設計事項にすぎないということはできない。

 (その結果、拒絶査定不服審判において本件発明の進歩性を否定した審決が、本判決にて取り消されています。)

 

3.補足1(本件発明の構成)

 なお、本件発明において、引用発明と相違する構成は、二つの(平板状の)剪断部が断面「く」の字状に配置されたものである。これに対し、引用発明では、四つの(平板状の)剪断部が、断面「矩形状」又は「十字状」に配置されている。

 

4.補足2(本件発明の請求項1)

 次の「」内は、上記判決文からの抜粋であり、判決の対象となった本件発明の請求項1の記載である。

 

「建物及び/又は建造物に適用可能で,想定される入力方向に対して機能する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって,  

互いの向きが異なる二つの剪断部が,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ,  

上記ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連であって,  

上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され,

上記剪断部は,外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に面外方向を含む方向に変形してエネルギー吸収することを特徴とする弾塑性履歴型ダンパ。」

 

 この請求項1において、特に記載「想定される入力方向に対して機能する向きに設置される」は、引用発明との相違を示すことに役立ったと思う。この記載がなければ、本件発明の「二つの剪断部」は、引用発明の断面「十字状」に配置された四つの剪断部に含まれることになり、その結果、引用発明の構成の一部に該当し、引用発明と相違しないとみなされると思うからである。

 

弁理士 野村俊博