進歩性 動機付けの有無:主引用例において、構成Aにより効果が既に得られており、かつ、同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無い。
判例No.57 令和元年(行ケ)第10124号 特許取消決定取消請求事件
以下は、上記判例に関する独自の見解です。
進歩性(動機付けの有無):主引用例において、構成Aにより効果が既に得られており、かつ、同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無い。
1.争点
主引用例においてテストヘッドが収容室に配置されている機構において、テストヘッドをスライドレールにより外部へ引き出す構成Bを採用することは容易であるか否か。
2.判示事項
以下の「」内は、上記判例からの抜粋である。抜粋内の下線部は、ここで付した。
上記判例では、抜粋のように判断されて、主引用例(引用発明:再表2011/016096)において上記構成B採用することは容易でないとされた。
抜粋:
「引用発明においては,テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開けて行うものとされ,背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているのであるから,検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え,テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。」
3.考察
上記抜粋における下線部は、次のことを示していると考える。
主引用例では、前提となる機構が、テストヘッドが収容室に配置された状態でメンテナンスされる機構になっている。
これに対し、テストヘッドをスライドレールにより外部へ引き出すという構成Bは、上記前提となる構成に反するものであると思う。
また、上記抜粋における下線部は、次のことも示していると考える。
主引用例では、背面扉がメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているという構成Aにより、テストヘッドのメンテナンスを容易に行えるという効果が既に得られている。
したがって、上記判例に倣うと、次の(1)と(2)の両方が満たされる場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無く、この採用は容易でないと言える可能性が十分にあると思う。
(1)主引用例において、構成Aにより効果が既に得られている。
(2)構成Aによる効果と同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する。
4.補足
なお、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けは、技術分野の関連性などを考慮して判断される。
特許庁の審査基準には、動機付けの判断に関して考慮される主引用例と副引用例との技術分野の関連性について次の記載がある。
審査基準からの抜粋(下線はここで付した):
「技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着
目したりすることにより把握される。」
これについて、上記判例では、上記(2)に関し、主引用例において前提となる機構が、上記構成Aが記載された副引用例の機構と異なる。この点で、主引用例と副引用例とでは、技術分野の関連性が低いと言えそうに思う。
弁理士 野村俊博