進歩性 動機付けの有無:技術分野の共通性のみでは、動機付けの根拠としては不十分である。  

判例No.58 令和2年(行ケ)第10075号 特許取消決定取消請求事件

 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

進歩性(動機付けの有無):技術分野の共通性のみでは、動機付けの根拠としては不十分である。

 

1.前審の判断(特許取消決定)

 甲1(特開2001-10663号公報)には、弁当包装体に用いる熱収縮性フィルムとしてポリエステルが挙げている。

 甲3(特開2009-143605号公報)には、弁当包装体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性に関する具体的な数値範囲が記載されている。

 したがって、甲1の発明において,熱収縮性フィルムとして、具体的な数値範囲の特性を持つ甲3の熱収縮性ポリエステル系フィルムを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

 

2.判示事項

 甲1と甲3は、技術分野は共通するが、課題においてもその解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用することが動機付けられているとは認められない。

 また、被告の主張は、実質的に技術分野の共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく、動機付けの根拠としては不十分である。

 

3.補足

 甲1と甲3との間における技術分野が共通性、課題の相違、解決手段の相違は以下の通りです。以下の「」内は、上記判決からの抜粋です。

 

<技術分野が共通性>

 「甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す

るものであると認められる」

 

<課題の相違>

 「甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な

加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ,また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じることを防ぐことを課題とするものである」

 

「甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものとするとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【0007】,【0008】)である。」

 

<課題の解決手段の相違>

 「上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21)

と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(22)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したものである。」

 

弁理士 野村俊博