進歩性:主引用例と副引用例とである事項が共通することを理由に副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易であるとされたとき、上記理由が、両者の技術分野が共通することである場合には、この理由だけでは、当該適用が容易であるとは言えない。

判例No.62 令和2年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件

 

進歩性:主引用例と副引用例とである事項が共通することを理由に副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易であるとされたとき、上記理由が、両者の技術分野が共通することである場合には、この理由だけでは、当該適用が容易であるとは言えない。

 

 以下は、上記判例の内容の一部に関する独自の見解です。

 

 言い換えると、副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易といえるためには、主引用例と副引用例の技術分野が共通することだけでは不十分である。

 例えば、次の(1)に基づいて、上記適用が容易であると言う場合には、更に次の(2)のようなことも言えなければならない。

 

(1)主引用例と副引用例とが、共通の技術分野に属している。

(2)副引用性の技術を主引用例に適用する動機付けや示唆がある。

 

1.審決の判断

 審決では、次の「」内のように判断している。次の「」内は、上記判決からの抜粋です。また、次の「」内の下線は、ここで付しました。

 

 「引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通するから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。」

 

2.判決内容

 判決では、審決における上記下線部が、主引用例(引用発明)と副引用例(甲3技術)の技術分野が共通することであるとして、(広い)技術分野が共通することから直ちに、上記適用が容易であるとは言えないとした。

 次の『』内は、これに関する上記判決からの抜粋です。また、次の『』内の下線は、ここで付しました。

 

 『甲3技術と引用発明とは,・・・この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。』

 

3.審査基準の確認

 上記判決内容に関連して、特許庁の審査基準には、以下のように記載されている。

 次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。また、次の「」内において、・・・は省略箇所であり、下線は、ここで付しました。

 

「主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無は、以下の(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点を総合考慮して判断される。審査官は、いずれか一つの観点に着目すれば、動機付けがあるといえるか否かを常に判断できるわけではないことに留意しなければならない。

(1) 技術分野の関連性

(2) 課題の共通性

(3) 作用、機能の共通性

(4) 引用発明の内容中の示唆

・・・

主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無を判断するに 当たり、(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点のうち「技術分野の関連性」 については、他の動機付けとなり得る観点も併せて考慮しなければならない。」

 

 このように審査基準では、技術分野の関連性(すなわち、主引用例と副引用例とが共通の技術分野に属すること)を考慮する場合において、上記適用が容易であると言うためには、技術分野の関連性だけでは不十分であり、他の動機付けとなり得る観点も考慮しなければならないとされている。

 

 これに関して、技術分野の関連性と、他の動機付けとの両方を考慮することについて、審査基準には次の例が挙げられている。次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。次の「」内において、下線は、ここで付しました。

 

「例1:

[請求項]

 アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替える電話装置。

[主引用発明]

 アドレス帳の宛先をユーザが設定した重要度に応じて並べ替える電話装置。

[副引用発明]

 アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替えるファクシミリ装置。

(説明)

 主引用発明の装置と、副引用発明の装置とは、アドレス帳を備えた通信装置という点で共通する。このことに着目すると、両者の技術分野は関連している

 さらに、ユーザが通信をしたい宛先への発信操作を簡単にする点でも共通していると判断された場合には、両者の技術分野の関連性が課題や作用、機能といった観点をも併せて考慮されたことになる。」

 

 技術分野の関連性を考慮する場合において、副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易といえるためには、この例のように、技術分野の関連性があることに加えて、課題や作用、機能といった観点を考慮する必要がある。

 

 弁理士 野村俊博