進歩性:主引用例に周知技術を適用することに関して、主引用例において当該適用の必要性が無いことは、当該適用に動機付けがないことの理由になる。

判例No.63 平成31年(行ケ)第10005号 審決取消請求事件

 

進歩性:主引用例に周知技術を適用することに関して、主引用例において当該適用の必要性が無いことは、当該適用に動機付けがないことの理由になる。

 

 なお、動機付けに関して、特許庁の審査基準には、例えば「主引用発明(A)に副引用発明(B)を適用したとすれば、請求項に係る発明(A+B)に到達する場合(注1)には、その適用を試みる動機付けがあることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。」と説明されている。

 

 本判決では、引用発明(主引用例)において周知技術を適用する必要がないことを理由に、当該適用に動機付けがないとされ、その結果、この適用に容易に想到できないとされている。

 

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

1.本件発明と引用発明との一致点と相違点

 本件発明と引用発明とには、次の一致点と相違点がある。

 

 一致点:

「携帯通信端末の所定の機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と,を有するアプリケーション生成支援システム」である点。

 

 相違点1:

 設定ファイルを設定するパラメータが,本件補正発明では,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」であるのに対して,引用発明では,携帯通信端末の機能を実行させるためのパラメータではあるものの,携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータであることが特定されていない点。

 

※携帯通信端末に固有のネイティブ機能は、カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有の機能を意味する。

 

2、相違点に関する判断

 上記の相違点1に関して、引用発明の文献を読んでみるとは、引用発明は、ブログ、有名人等のファンサイト、ゲームサイト、ショッピングサイト等のウェブアプリケーションの情報を表示するためのものであるので(段落0008、0024)、本判決のように、引用発明において、カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させる必要性は無いと言えそうに思う。

 別の観点からは、引用発明は、ウェブアプリケーションの情報を表示することに限定されているので、この限定の範囲外となる「カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有のネイティブ機能」を引用発明において実行させる必要性は無いとも言えそうに思う。

 

 上記の相違点1に関する本判決の判断は、主に次の通りである。次の各『』内は本判決からの抜粋です。

 

『引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索できるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表示できるネイティブアプリケーションを生成することができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表示するネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイティブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はなく,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。』

 

『以上のとおり,引用発明に被告主張周知技術を適用することの動機付けはないから,引用発明に被告主張周知技術を適用して,相違点1の構成について,本件補正発明の構成とすることは容易に想到することはできず,したがって,本件補正発明は,引用発明及び被告主張周知技術に基づいて容易に発明することができたということはできない。』

 

 弁理士 野村俊博