権利範囲の解釈:請求項において形状を表わした語句の外延が、辞書的な意味から明確でない場合には、明らかにその範囲内となる形状から明細書に記載の課題を解決できない形状に近づく形状は、その範囲外になる可能性がある。

判例No.64 令和3年(ネ)第10049号,同年(ネ)第10069号 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成31年(ワ)第2675号)

 

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

権利範囲の解釈:請求項において形状を表わした語句(本件では「楕円形」)の外延が、辞書的な意味から明確でない場合には、明らかにその範囲内となる形状から明細書に記載の課題を解決できない形状に近づく形状は、その範囲外とされた。

 

1.判決の概要

 広辞苑とウェブサイト「コトバンク」における「楕円形」の意味を踏まえると、本件特許第4910074の請求項における「楕円形」とは,幾何学上の楕円の形状がそれに含まれ,同形状とは異なるがそれに近い形についても用いられる語であると解される。

 「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味からは明確とはいえない。

 「楕円形」は,楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう)付近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」など「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられている文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。

 明細書を考慮すると、本件発明の課題を解決する観点からは、「楕円形」は、「曲率に差のある形状」である必要はなく、むしろ、「曲率に差のある形状」の場合、課題の解決に支障が生じ得るともいえる。

 よって、「曲率に差のある形状」を有する、被告製品のピンは、「楕円形」の先端部を有していない。したがって、被告製品は、本件特許の文言侵害を構成しない。

 

2.考察

 本判決の場合のように、発明が、その課題を解決するための形状に関するものである場合、形状の範囲を明確にするために、形状について、例えば次の(1)又は(2)のように記載することが考えられると思う。

 

(1)可能な場合には、請求項において、楕円形やL字形状のような短い語句の代わりに、形状の範囲(外延)が分かるように、形状の説明をある程度の長さ(例えば数行)で記載する。

(2)請求項において、楕円形やL字形状のような短い語句を記載し、更に、明細書において、楕円形やL字形状の語句の定義や説明を、課題の解決と関連させて記載する。これにより、楕円形やL字形状の範囲(外延)が分かるようにする。

 

弁理士 野村俊博