進歩性 周知技術の適用が容易に想到できそうな場合における進歩性の主張の一例

判例No.65 令和3年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

 進歩性 周知技術の適用が容易に想到できそうな場合における進歩性の主張の一例

 

 本件発明(特願2019-166439号の請求項1)の進歩性の判断において、一見すると、主引用例に周知技術を適用することで本件発明に容易に想到できそうに思える。しかし、本判決では、以下のように、本件発明の進歩性を肯定した。

 

1.前提

 本件発明と主引用例との間には相違点があるが、主引用例に周知技術(コア電線にテープ部材を巻くこと)を適用すると当該相違点がなくなる。

 

2.判決の内容

 以下の論理で、主引用例に周知技術を適用することに容易に想到できないとされた。

 

 主引用例と周知技術とは技術分野が共通するので、主引用例に当該周知技術を適用するように当業者は動機づけられる。

 しかし、次の(1)~(4)の理由で、上記周知技術を主引用例に適用することには阻害要因があるので、上記周知技術に基づいて上記相違点に係る構成に容易に想到できたとはいえない。

 

(1)本件発明と主引用例は、上記相違点となるそれぞれの手段で、共通の課題を解決しており、主引用例では、当該課題が既に解決されている。

(2)主引用例において、当該課題を解決するために、上記周知技術の構成を加える必要はない。

(3)主引用例において、上記周知技術の構成を加えると、追加の作業(テープ部材を除去する作業)が必要となるので、かえって作業性が損なわれ、主引用例が奏する効果を損なう結果となってしまう。

(4)主引用例の効果を犠牲にしてまで上記周知技術の構成を加えることに何らかの技術的意義があることを示唆するような記載は主引用例には無い。

 

3.実務上の指針

 一見すると、主引用例に周知技術を適用することは容易に想到できそうに思える。

 しかし、主引用例において課題を解決する原理の観点から、上記周知技術の構成を主引用例に 加えると不都合となる理由として、上記(1)~(4)がある。

 このように、本判決にならうと、発明の進歩性の判断に関して、主引用例に周知技術を適用することが容易そうに思える場合でも、次の(A)と(B)のようにするのがよいと思う。

(A) 主引用例における課題解決原理を確認し、その原理の観点から、当該適用が不都合になる理由(例えば上記(1)~(4))が主引用例に存在するかを検討する。

(B) このような理由がある場合には、これに基づいて発明の進歩性を主張する。例えば、本判決にならって、当該理由により周知技術の適用には阻害要因があると主張する。

 

弁理士 野村俊博

権利範囲の解釈:請求項において形状を表わした語句の外延が、辞書的な意味から明確でない場合には、明らかにその範囲内となる形状から明細書に記載の課題を解決できない形状に近づく形状は、その範囲外になる可能性がある。

判例No.64 令和3年(ネ)第10049号,同年(ネ)第10069号 特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成31年(ワ)第2675号)

 

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

権利範囲の解釈:請求項において形状を表わした語句(本件では「楕円形」)の外延が、辞書的な意味から明確でない場合には、明らかにその範囲内となる形状から明細書に記載の課題を解決できない形状に近づく形状は、その範囲外とされた。

 

1.判決の概要

 広辞苑とウェブサイト「コトバンク」における「楕円形」の意味を踏まえると、本件特許第4910074の請求項における「楕円形」とは,幾何学上の楕円の形状がそれに含まれ,同形状とは異なるがそれに近い形についても用いられる語であると解される。

 「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味からは明確とはいえない。

 「楕円形」は,楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう)付近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」など「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられている文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。

 明細書を考慮すると、本件発明の課題を解決する観点からは、「楕円形」は、「曲率に差のある形状」である必要はなく、むしろ、「曲率に差のある形状」の場合、課題の解決に支障が生じ得るともいえる。

 よって、「曲率に差のある形状」を有する、被告製品のピンは、「楕円形」の先端部を有していない。したがって、被告製品は、本件特許の文言侵害を構成しない。

 

2.考察

 本判決の場合のように、発明が、その課題を解決するための形状に関するものである場合、形状の範囲を明確にするために、形状について、例えば次の(1)又は(2)のように記載することが考えられると思う。

 

(1)可能な場合には、請求項において、楕円形やL字形状のような短い語句の代わりに、形状の範囲(外延)が分かるように、形状の説明をある程度の長さ(例えば数行)で記載する。

(2)請求項において、楕円形やL字形状のような短い語句を記載し、更に、明細書において、楕円形やL字形状の語句の定義や説明を、課題の解決と関連させて記載する。これにより、楕円形やL字形状の範囲(外延)が分かるようにする。

 

弁理士 野村俊博

進歩性:主引用例に周知技術を適用することに関して、主引用例において当該適用の必要性が無いことは、当該適用に動機付けがないことの理由になる。

判例No.63 平成31年(行ケ)第10005号 審決取消請求事件

 

進歩性:主引用例に周知技術を適用することに関して、主引用例において当該適用の必要性が無いことは、当該適用に動機付けがないことの理由になる。

 

 なお、動機付けに関して、特許庁の審査基準には、例えば「主引用発明(A)に副引用発明(B)を適用したとすれば、請求項に係る発明(A+B)に到達する場合(注1)には、その適用を試みる動機付けがあることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。」と説明されている。

 

 本判決では、引用発明(主引用例)において周知技術を適用する必要がないことを理由に、当該適用に動機付けがないとされ、その結果、この適用に容易に想到できないとされている。

 

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

1.本件発明と引用発明との一致点と相違点

 本件発明と引用発明とには、次の一致点と相違点がある。

 

 一致点:

「携帯通信端末の所定の機能を実行させるためのパラメータに応じて,前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と,前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と,を有するアプリケーション生成支援システム」である点。

 

 相違点1:

 設定ファイルを設定するパラメータが,本件補正発明では,「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」であるのに対して,引用発明では,携帯通信端末の機能を実行させるためのパラメータではあるものの,携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータであることが特定されていない点。

 

※携帯通信端末に固有のネイティブ機能は、カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有の機能を意味する。

 

2、相違点に関する判断

 上記の相違点1に関して、引用発明の文献を読んでみるとは、引用発明は、ブログ、有名人等のファンサイト、ゲームサイト、ショッピングサイト等のウェブアプリケーションの情報を表示するためのものであるので(段落0008、0024)、本判決のように、引用発明において、カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させる必要性は無いと言えそうに思う。

 別の観点からは、引用発明は、ウェブアプリケーションの情報を表示することに限定されているので、この限定の範囲外となる「カメラ,GPS,マイク,加速度センサなど,携帯通信端末に固有のネイティブ機能」を引用発明において実行させる必要性は無いとも言えそうに思う。

 

 上記の相違点1に関する本判決の判断は、主に次の通りである。次の各『』内は本判決からの抜粋です。

 

『引用発明は,アプリケーションサーバにおいて検索できるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として,同課題を,既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで,同ウェブアプリケーションが表示する情報を表示できるネイティブアプリケーションを生成することができるようにすることによって解決したものであるから,ブログ等の携帯通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表示するネイティブアプリケーションを生成しようとする場合,生成しようとするネイティブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はなく,したがって,設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。』

 

『以上のとおり,引用発明に被告主張周知技術を適用することの動機付けはないから,引用発明に被告主張周知技術を適用して,相違点1の構成について,本件補正発明の構成とすることは容易に想到することはできず,したがって,本件補正発明は,引用発明及び被告主張周知技術に基づいて容易に発明することができたということはできない。』

 

 弁理士 野村俊博

進歩性:主引用例と副引用例とである事項が共通することを理由に副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易であるとされたとき、上記理由が、両者の技術分野が共通することである場合には、この理由だけでは、当該適用が容易であるとは言えない。

判例No.62 令和2年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件

 

進歩性:主引用例と副引用例とである事項が共通することを理由に副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易であるとされたとき、上記理由が、両者の技術分野が共通することである場合には、この理由だけでは、当該適用が容易であるとは言えない。

 

 以下は、上記判例の内容の一部に関する独自の見解です。

 

 言い換えると、副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易といえるためには、主引用例と副引用例の技術分野が共通することだけでは不十分である。

 例えば、次の(1)に基づいて、上記適用が容易であると言う場合には、更に次の(2)のようなことも言えなければならない。

 

(1)主引用例と副引用例とが、共通の技術分野に属している。

(2)副引用性の技術を主引用例に適用する動機付けや示唆がある。

 

1.審決の判断

 審決では、次の「」内のように判断している。次の「」内は、上記判決からの抜粋です。また、次の「」内の下線は、ここで付しました。

 

 「引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通するから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。」

 

2.判決内容

 判決では、審決における上記下線部が、主引用例(引用発明)と副引用例(甲3技術)の技術分野が共通することであるとして、(広い)技術分野が共通することから直ちに、上記適用が容易であるとは言えないとした。

 次の『』内は、これに関する上記判決からの抜粋です。また、次の『』内の下線は、ここで付しました。

 

 『甲3技術と引用発明とは,・・・この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。』

 

3.審査基準の確認

 上記判決内容に関連して、特許庁の審査基準には、以下のように記載されている。

 次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。また、次の「」内において、・・・は省略箇所であり、下線は、ここで付しました。

 

「主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無は、以下の(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点を総合考慮して判断される。審査官は、いずれか一つの観点に着目すれば、動機付けがあるといえるか否かを常に判断できるわけではないことに留意しなければならない。

(1) 技術分野の関連性

(2) 課題の共通性

(3) 作用、機能の共通性

(4) 引用発明の内容中の示唆

・・・

主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無を判断するに 当たり、(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点のうち「技術分野の関連性」 については、他の動機付けとなり得る観点も併せて考慮しなければならない。」

 

 このように審査基準では、技術分野の関連性(すなわち、主引用例と副引用例とが共通の技術分野に属すること)を考慮する場合において、上記適用が容易であると言うためには、技術分野の関連性だけでは不十分であり、他の動機付けとなり得る観点も考慮しなければならないとされている。

 

 これに関して、技術分野の関連性と、他の動機付けとの両方を考慮することについて、審査基準には次の例が挙げられている。次の「」内は、特許庁の審査基準からの抜粋です。次の「」内において、下線は、ここで付しました。

 

「例1:

[請求項]

 アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替える電話装置。

[主引用発明]

 アドレス帳の宛先をユーザが設定した重要度に応じて並べ替える電話装置。

[副引用発明]

 アドレス帳の宛先を通信頻度に応じて並べ替えるファクシミリ装置。

(説明)

 主引用発明の装置と、副引用発明の装置とは、アドレス帳を備えた通信装置という点で共通する。このことに着目すると、両者の技術分野は関連している

 さらに、ユーザが通信をしたい宛先への発信操作を簡単にする点でも共通していると判断された場合には、両者の技術分野の関連性が課題や作用、機能といった観点をも併せて考慮されたことになる。」

 

 技術分野の関連性を考慮する場合において、副引用性の技術を主引用例に適用するのが容易といえるためには、この例のように、技術分野の関連性があることに加えて、課題や作用、機能といった観点を考慮する必要がある。

 

 弁理士 野村俊博

進歩性:主引用例において、ある構成を採用すると問題が生じかねず、当該問題を解消するために改良が必要になる場合には、当該構成をあえて採用する動機づけがあるとはいえない。

判例No.61 令和2年(行ケ)第10115号 審決取消請求事件

 

進歩性:主引用例において、ある構成を採用すると問題が生じかねず、当該問題を解消するために改良が必要になる場合には、当該構成をあえて採用する動機づけがあるとはいえない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 主引用例において、ある構成を採用すると問題が生じかねず、当該問題を解消するために改良が必要になる場合には、当該構成をあえて採用する動機づけがあるとはいえない。

 

1.本件発明について

 本件発明は、次の括弧内の請求項1の通りです。次の括弧内は、上記判決文からの抜粋です。

 

「【請求項1】

 ハンドルの先端部に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,

 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し,

 一対のボール支持軸の開き角度5 を65~80度,一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし,

 前記ボールは,非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており,

 ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした

ことを特徴とする美容器。」

 

2.主引用例(仏国特許出願公開2891137号明)との相違点

 主引用例(上記判決文では甲1)は、本件発明の一対のボールとハンドルにそれぞれ対応する一対のボールとハンドルを備える美容器である。

 しかし、ハンドルの形状が、主引用例と本件発明とで相違する。すなわち、主引用例では、ハンドルは球状であるのに対し、本件発明では、ハンドルは先端と基端を有する形状(例えば長尺形状)であり、ハンドル中心軸に対してボールの軸線が前傾している点で、両者は相違する。

 

 次の各「」内は、主引用例(甲1)と本件発明との相違点1,3に関する上記判決文からの抜粋です。

 

「1 一対のボールを回転可能に支持しているのは,本件発明では,ハンドルの先端部であるのに対して,甲1発明では,先端部であるか不明でる点。」

「3 本件発明では,往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成しているのに対して,甲1発明では,そのような構成を有するか明らかでない点。」

 

3.進歩性の判断

 主引用例において、本件発明のように、ハンドルを長尺状のものとし、その先端部に2つの球を支持する構成を採用すると、球状のハンドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねない。

 こうした操作性を解消するために長尺状の形状を、改良する必要がある。例えば本件発明のようなハンドルの形状を採用する必要がある。

 したがって、主引用例のハンドルをあえて長尺状のものとする動機付けがあるとはいえない。

 その結果、主引用例から本件発明に容易に想到できたとした審決が取り消されている。

 

 以下の「」内は、進歩性の判断に関する上記判決文の抜粋です。なお、「」内において下線は、ここで付しました。

「甲1には,甲1発明のマッサージ器具は,ユーザがハンドル(1)を握り,これを傾けて,ハンドルに2つの軸で固定された2つの回転可能な球を皮膚に当てて回転させると,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転することにより,球の対称な滑りが生じ,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動き,引っ張る5 代わりに押圧すると,球の滑りと皮膚に沿った動きによって皮膚が引き伸ばされることが開示されているところ,こうした2つの球がハンドルに2つの軸に固定され,2つの軸が70~100度をなす角度で調整された甲1発明において,球が進行方向に対して非垂直な軸で回転し,球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿った動きをさせるためには,ハンドルを進行方向に向かって倒す方向に傾けることが前提となる。

 ハンドルが球状のものであれば,後述するハンドルの周囲に軸で4個の球を固定した場合を含めて,把持したハンドル(1)の角度を適宜調整して進行方向に向かって倒す方向に傾けることが可能である。しかし,ハンドルを長尺状のものとし,その先端部に2つの球を支持する構成とすると,球状のハンドルと比較して傾けられる角度に制約があるために進行方向に傾けて引っ張る際にハンドルの把持部と肌が干渉して操作性に支障が生じかねず,こうした操作性を解消するために長尺状の形状を改良する(例えば,本件発明のように,ボールの軸線をハンドルの中心軸に対して前傾させて構成させる(相違点3の構成)。)必要が更に生じることになる。そうすると,甲1の中央ハンドルを球に限らず「任意の形状」とすることが可能であるとの開示があるといっても,甲1発明の中央ハンドルをあえて長尺状のものとする動機付けがあるとはいえない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性:相違点に係る構成が容易そうであっても、発明の意義が、従前には無い課題を取り上げたことにあり、当該課題が前記構成により解決されるものである場合には、発明の進歩性が認められる余地がある。

判例No.60 令和元年(行ケ)第10159号 審決取消請求事件

 

進歩性:相違点に係る構成が容易そうであっても、発明の意義が、従前には無い課題を取り上げたことにあり、当該課題が前記構成により解決されるものである場合には、発明の進歩性が認められる余地がある。

 

言い換えると、発明において主引用例との相違点に係る構成により発明の課題でき、発明の意義が当該課題を取り上げたことにあり、当該課題が主引用例と他の先行技術文献から認められない場合には、主引用例において上記構成を採用する動機付けはない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 相違点に係る構成が容易に想到できそうに見えても、当該構成が上記のような課題を解決するものであれば、上記に基づいて進歩性を主張できる余地があると思う。

 本判決では、相違点に係る構成が容易であるように見えたが、進歩性が認められている。

 

1.本件発明について

 本件発明(特願2014-220371の請求項1に係る発明)では、被験者に手術を行っている医師が見る表示部と、外科用X線透視撮影装置を操作するオペレータが見る別の第2表示部との両方に、被検者に関する同一のX線画像を表示させる場合に、前記X線画像のうち,前記第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構が設けられる。

 これにより、課題「医師から見る被験者の向きとオペレータから見た被験者の向きとが互いに異なる場合には、医師が見る表示部のX線画像の向きを医師から見た被験者の向きに合わせると、オペレータから見た被験者の向きと第2表示部に表示されたX線画像の向きとが互いに異なってしまう。これが原因で、オペレータは外科用X線透視撮影装置を操作することが困難となる」を解決できる。

 すなわち、医師が見る表示部に表示されるX線画像と、オペレータが見る第2表示部に表示されるX線画像のうち、第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させることにより、第2表示部のX線画像の向きをオペレータから見た被験者の向きに一致させることができる。これにより、オペレータが外科用X線透視撮影装置を操作することが容易になる。この場合、医師が見る表示部のX線画像の向きは、医師から見た被験者の向きに保たれる。

 

 本件発明は、具体的には、次の括弧内の請求項1の通りです。次の括弧内は、上記判決文からの抜粋です。

 

「【請求項1】

 X線管と,

 前記X線管から照射され被検者を通過したX線を検出するX線検出部と,

 前記X線管と前記X線検出部とを支持するアームと,

 移動機構を備え,前記アームを支持する本体と,前記本体に配設され前記X

線検出部により検出したX線に基づいてX線画像を表示する表示部と,

 前記X線検出部により検出したX線に基づいてX線画像を表示する前記表示

部とは異なる第2表示部を備えたモニタ台車と,

 を備えたX線透視撮影装置において,

 前記表示部と前記第2表示部には,手術中に透視された同一のX線画像が表示され,

 前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構を備えるX線透視撮影装置。」

 

2.主引用例について

 特開2006-122448号である引用文献1(以下、主引用例という)では、医師が見る診断用画像モニタ装置17とは別の操作用液晶ディスプレイ装置21の画面において、直前の記憶画像であるX線透視像23と画像正立位置マーカ26とが表示され、画像正立位置マーカ26を画面上で回転させることにより、これに応じてX線透視像23が回転するようになっている。

 これにより、主引用例の課題「X線曝射しない状態で画像回転角度の調整作業を行えるようにすること」を解決できる。

 すなわち、X線透視像23の回転位置が調整された時の画像正立位置マーカ26の回転位置を見て、X線画像用のカメラの回転位置を調整できるようになる。

 

3.相違点

 主引用例には、本件発明の「前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構」が記載されていない。

 すなわち、被験者に手術を行っている医師が見る表示部と、外科用X線透視撮影装置を操作するオペレータが見る別の第2表示部との両方に、被検者に関する同一のX線画像を表示させた場合に、前記X線画像のうち,前記第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させる構成が、主引用例には記載されていない。

 なお、画面において、2つの表示部に表示されたX線画像のうち、一方のみを回転させること自体は容易に想到できそうに見えるが、この相違点により進歩性が認められている。

 

 次の『』内は、これに関する上記判決文からの抜粋です。

『本願発明と主引用例との相違点は,本願発明は「前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構を備え」ているのに対し,主引用例は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構自体については目新しいものとはいえない。)』

 

4.進歩性の判断

 本件発明において主引用例との上記相違点に係る構成により本件発明の課題でき、本件発明の意義が当該課題を取り上げたことにあり、当該課題が主引用例と他の先行技術文献から認められないので、主引用例において上記構成を採用する動機付けはない。

 

 次の各『』内は、この独自解釈に関する上記判決文からの抜粋です。

『操作者は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示

に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたものであるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能である。』

 

『引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,』

 

弁理士 野村俊博

進歩性(引用発明の認定):主引用例において、ある装置が他の構成要素と協同しなければ所期の効果が得られない場合、当該装置は、本件発明と対比させるべきものとは認められない。

判例No.59 令和2年(行ケ)第10102号 審決取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

進歩性(引用発明の認定):主引用例において、ある装置(本件では「読取り/書込みモジュール200」)が他の構成要素(本件では「防壁」)と協同しなければ所期の効果が得られない場合、当該装置は、本件発明と対比させるべきものとは認められない。

 

(判決のポイント)

 主引用例(米国特許第9245162号明細書)において、読取り/書込みモジュール200は、対象物に保持されたRFIDタグからデータを読み取り可能である。読取り/書込みモジュール200は、これを囲む防壁と共に用いられる。

 すなわち、主引用例では、読取り/書込みモジュール200の金属製側壁204~210と上記防壁の金属製外側パネルとで電波を反射させつつ、当該側壁と当該パネルとの間に存在する電波波吸収性発泡体で電波を吸収する。これにより、電波の漏えいや干渉を防止するという所期の効果を発揮される。

 したがって、読取り/書込みモジュール200は、単体で、当該効果を発揮する装置であるとは認められない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 動機付けの有無:技術分野の共通性のみでは、動機付けの根拠としては不十分である。  

判例No.58 令和2年(行ケ)第10075号 特許取消決定取消請求事件

 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

進歩性(動機付けの有無):技術分野の共通性のみでは、動機付けの根拠としては不十分である。

 

1.前審の判断(特許取消決定)

 甲1(特開2001-10663号公報)には、弁当包装体に用いる熱収縮性フィルムとしてポリエステルが挙げている。

 甲3(特開2009-143605号公報)には、弁当包装体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性に関する具体的な数値範囲が記載されている。

 したがって、甲1の発明において,熱収縮性フィルムとして、具体的な数値範囲の特性を持つ甲3の熱収縮性ポリエステル系フィルムを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

 

2.判示事項

 甲1と甲3は、技術分野は共通するが、課題においてもその解決手段においても共通性は乏しいから,甲3記載事項を甲1発明に適用することが動機付けられているとは認められない。

 また、被告の主張は、実質的に技術分野の共通性のみを根拠として動機付けがあるとしているに等しく、動機付けの根拠としては不十分である。

 

3.補足

 甲1と甲3との間における技術分野が共通性、課題の相違、解決手段の相違は以下の通りです。以下の「」内は、上記判決からの抜粋です。

 

<技術分野が共通性>

 「甲1発明及び甲3記載事項は,共に,弁当包装体という技術分野に属す

るものであると認められる」

 

<課題の相違>

 「甲1発明は,熱収縮性チューブを使用した弁当包装体について,煩雑な

加熱収縮の制御を実行することなく,包装時の容器の変形やチューブの歪みを防ぎ,また,店頭で,電子レンジによる再加熱をした際にも弁当容器の変形が生じることを防ぐことを課題とするものである」

 

「甲3に記載された発明は,ラベルを構成する熱収縮性フィルムについて,主収縮方向である長手方向への収縮性が良好で,主収縮方向と直交する幅方向における機械的強度が高いのみならず,フィルムロールから直接ボトルの周囲に胴巻きした後に熱収縮させた際の収縮仕上がり性が良好で,後加工時の作業性の良好なものとするとともに,引き裂き具合をよくすることを課題とするもの(甲3の段落【0007】,【0008】)である。」

 

<課題の解決手段の相違>

 「上記課題を解決するために,甲1発明は,非熱収縮性フィルム(21)

と熱収縮性フィルム(22)とでチューブ(20)を形成し,熱収縮性フィルム(22)の周方向幅はチューブ全周長の1/2以下である筒状体であり,熱収縮性フィルム(22)の熱収縮により,弁当容器の外周長さにほぼ等しいチューブ周長に収縮して弁当容器に締着されてなるものとしたのに対し,甲3に記載された発明の熱収縮性フィルムは,甲3の特許請求の範囲記載のとおり,各数値を特定したものである。」

 

弁理士 野村俊博

進歩性 動機付けの有無:主引用例において、構成Aにより効果が既に得られており、かつ、同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無い。

判例No.57 令和元年(行ケ)第10124号 特許取消決定取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

進歩性(動機付けの有無):主引用例において、構成Aにより効果が既に得られており、かつ、同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無い。

 

1.争点

 主引用例においてテストヘッドが収容室に配置されている機構において、テストヘッドをスライドレールにより外部へ引き出す構成Bを採用することは容易であるか否か。

 

2.判示事項

 以下の「」内は、上記判例からの抜粋である。抜粋内の下線部は、ここで付した。

 上記判例では、抜粋のように判断されて、主引用例(引用発明:再表2011/016096)において上記構成B採用することは容易でないとされた。

 

 抜粋:

「引用発明においては,テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開けて行うものとされ,背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているのであるから,検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え,テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。」

 

3.考察

 上記抜粋における下線部は、次のことを示していると考える。

 主引用例では、前提となる機構が、テストヘッドが収容室に配置された状態でメンテナンスされる機構になっている。

 これに対し、テストヘッドをスライドレールにより外部へ引き出すという構成Bは、上記前提となる構成に反するものであると思う。

 

 また、上記抜粋における下線部は、次のことも示していると考える。

 主引用例では、背面扉がメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているという構成Aにより、テストヘッドのメンテナンスを容易に行えるという効果が既に得られている。

 

 したがって、上記判例に倣うと、次の(1)と(2)の両方が満たされる場合には、主引用例において、構成Bを採用する動機付けは無く、この採用は容易でないと言える可能性が十分にあると思う。

 

(1)主引用例において、構成Aにより効果が既に得られている。

(2)構成Aによる効果と同様の効果を得るための構成Bが主引用例の前提となる機構に反する。

 

4.補足

 なお、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けは、技術分野の関連性などを考慮して判断される。

 特許庁の審査基準には、動機付けの判断に関して考慮される主引用例と副引用例との技術分野の関連性について次の記載がある。

 

審査基準からの抜粋(下線はここで付した):

「技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着

目したりすることにより把握される。」

 これについて、上記判例では、上記(2)に関し、主引用例において前提となる機構が、上記構成Aが記載された副引用例の機構と異なる。この点で、主引用例と副引用例とでは、技術分野の関連性が低いと言えそうに思う。

 

弁理士 野村俊博

進歩性(設計事項に対する反論):出願に係る発明において引用発明と相違する構成が、技術的思想の相違に基づくものであれば、設計事項とは言えない。 

判例No.56 令和元年(行ケ)第10161号 審決取消請求事件 

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 進歩性(設計事項に対する反論):出願に係る発明において引用発明と相違する構成が、技術的思想の相違に基づくものであれば、設計事項とは言えない。 

 

1.本件発明の概要

 本件発明(特願2017-157285号の発明)は、建物に組み込まれ、地震の振動エネルギーを吸収するダンパーである。

 本件発明の技術的思想は、振動エネルギーの入力方向を想定し、その想定される方向及びその方向に近い一定の範囲の方向からの振動エネルギーを吸収するというものである。

 

2.上記判決における進歩性の判断

 引用発明(特開2000-73603号の発明)の技術的思想は、水平方向の全方向からの震動エネルギーを吸収するというものである。

 したがって、引用発明の技術的思想は、本件発明の上記技術的思想と相違する。

 

 本件発明において、引用発明と相違する構成は、上述した技術的思想の相違に基づく。

 したがって、当該構成は、引用発明との実質的な相違点であり,設計事項にすぎないということはできない。

 (その結果、拒絶査定不服審判において本件発明の進歩性を否定した審決が、本判決にて取り消されています。)

 

3.補足1(本件発明の構成)

 なお、本件発明において、引用発明と相違する構成は、二つの(平板状の)剪断部が断面「く」の字状に配置されたものである。これに対し、引用発明では、四つの(平板状の)剪断部が、断面「矩形状」又は「十字状」に配置されている。

 

4.補足2(本件発明の請求項1)

 次の「」内は、上記判決文からの抜粋であり、判決の対象となった本件発明の請求項1の記載である。

 

「建物及び/又は建造物に適用可能で,想定される入力方向に対して機能する向きに設置される弾塑性履歴型ダンパであって,  

互いの向きが異なる二つの剪断部が,当該ダンパの端部を成す連結部を介して一連に設けられ,  

上記ダンパを囲繞する空間が,二つの該剪断部の間の空間に一連であって,  

上記想定される入力方向に対し,二つの上記剪断部の面内方向が傾斜するように上記剪断部が設置され,

上記剪断部は,外部からの一定以上の入力時に弾塑性的に面外方向を含む方向に変形してエネルギー吸収することを特徴とする弾塑性履歴型ダンパ。」

 

 この請求項1において、特に記載「想定される入力方向に対して機能する向きに設置される」は、引用発明との相違を示すことに役立ったと思う。この記載がなければ、本件発明の「二つの剪断部」は、引用発明の断面「十字状」に配置された四つの剪断部に含まれることになり、その結果、引用発明の構成の一部に該当し、引用発明と相違しないとみなされると思うからである。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 出願に係る発明と引用例に記載の発明との相違点により両者の性質が相当程度に異なる場合には、相違点に係る構成が取決めにすぎないとして、容易想到と判断することは適切でない。

判例No.55 令和元年(行ケ)第10085号 審決取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 出願に係る発明と引用例に記載の発明との相違点により両者の性質(性格)が相当程度に異なる場合には、相違点に係る構成が取決めにすぎないとして、容易想到と判断することは適切でない。

 

1.本件発明と相違点

 上記判例においては、本件発明は、カードゲームを実施するために、コンピュータに各種処理を行わせるプログラムに係る発明であり、主引用例と次の相違点がある。

 

 相違点:第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが、第1フィールドに補充されるように表示されることが、本願発明においては「敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへのキャラクタカードの配置」に伴うものであるのに対して、主引用例においては「第11領域から、マナを増やすための第7領域へのカードの配置」に伴うものである点。 

 ※マナとは、カードのセッティング やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー値であり、例えば、マナが増えると強力なキャラクターカードをセットできる。 

 

2.判示事項

 本願発明では、敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへのカードの配置に伴い、キャラクタカードが第1フィールドに補充されるのに対し、主引用例では、マナを増やすための第7領域にカードを配置させることに伴い、新たなカードが補充される。

 このように、主引用例におけるカードの補充は、本願発明との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なり、移動されるカードの種類や機能においても異なるので、上記相違点の存在によって、引用発 明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくる。したがって、上記相違点に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として、他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断する審決は適切ではない。 

 このように、本件発明は、主引用例から容易に想到できたと肯定することはできない。 

 

3.まとめ

 出願に係る発明と主引用例との相違点が、単なる取り決めに過ぎないとして出願に係る発明が拒絶された場合、次の(1)~(3)の反論をする余地がある。

 

(1)上記相違点に係る構成が、他の先行文献にも記載されていない。

(2)「上記相違点により両発明の性質が相当程度に異なる理由(上記判例では「補充の契機となるカードの移動先の点において異なり、移動されるカードの種類や機能においても異なる」)を述べる。

(3)上記相違点により両発明の性質が相当程度に異なるので、出願に係る発明において上記相違点に係る構成が、単なる取り決めにすぎないとは言えない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 主引用例に副引用例を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる場合には、阻害要因があるといえ、この適用は容易でない。

進歩性 主引用例に副引用例を適用すると、主引用例の目的を達成できなくなる場合には、阻害要因があるといえ、この適用は容易でない。

 

判例No. 54 令和元年(行ケ)第10097号 審決取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自見解です。

 

 主引用例(実開平4-81919号)に副引用例(実開昭61-88518号)を適用すると、主引用例の目的「子供用簡易蝶ネクタイを容易に装着できるようにすること」を達成できなくなるので、この適用には阻害要因があるといえ、この適用は容易に想到できたものではない。

 

1.本件発明

 特願2017-47926号の請求項1は、次の通り。

「【請求項1】

結び目を有する子供用簡易蝶ネクタイであって前記結び目の裏側にはシャツの第一ボタンがはまり込むボタン穴が形成された部材が,前記結び目とつながって,前記結び目の表側に貫通しないように形成され,前記ボタン穴は全ての側縁が閉じた縦状の穴であり,前記結び目近辺にシワを有し,前記結び目の裏側のボタン穴が形成された部材とウイングとの間には前記結び目を介して横方向に空洞部分を有し,前記ボタン穴が形成された部材を持ち,閉めてある状態の第一ボタンの上からはめ込むことで装着することを特徴とする子供用簡易蝶ネクタイ。」

 

2.主引用例

 簡易蝶ネクタイの基板部2には、その下縁から上方へ凹状に切欠いたボタン係合部19が形成されている。ボタン係合部19をシャツの第1ボタン25に上方から係合させて、簡易蝶ネクタイをシャツに取り付ける。

 

3.本件発明と主引用例との相違点

 シャツのボタンがはまり込む切欠き状の部分について,本件発明では,全ての側縁が閉じた縦状の穴であるボタン穴であるのに対し,主引用例では,下縁から上方へ凹状に切欠いたボタン係合部19である点。

 

4.容易想到性についての判示事項の独自見解

主引用例の簡易蝶ネクタイにおいて、「ボタン係合部19」の下部を,ラッパ状に下方へ拡大し開口させているのは、簡易蝶ネクタイの裏側の見えない状態のボタン係合部19を,上方から探りながらシャツの第1ボタンに容易に装着できるようにするための工夫といえる。したがって、主引用例において、「ボタン係合部19」の下方への開口形状は,主引用例の課題を解決するために,重要な技術的意義を有するものであると理解できる。

 主引用例においてボタン係合部19の代わりに,副引用例において「釦挿通孔⑵」を採用した場合には,釦挿通孔⑵では全ての側縁が閉じているので、裏側の見えない状態のボタン釦挿通孔⑵を,第1ボタンに装着することが、困難となることは明らかである。したがって、引用発明1において、下方が開口した「ボタン係合部19」の代わりに,副引用例における全ての側縁が閉じた「釦挿通孔⑵」を採用すると、引用発明1の目的「簡易ネクタイを簡単な操作でシャツの第1ボタンに装着できる」を達成できなくなる。

 よって、引用発明1の「ボタン係合部19」に副引用例の「釦挿通孔⑵」を適用することには、阻害要因があるといえ、この適用は、当業者が容易に想到できたものであるとは認めがたい。

 

弁理士 野村俊博

発明の構成が引用文献と同じであるとして新規性又は進歩性が否定された場合に、請求項に余分な構成を限定することなく特許出願を権利化する方法

発明の構成が引用文献と同じであるとして新規性又は進歩性が否定された場合に、請求項に余分な構成を限定することなく特許出願を権利化する方法

 

以下は、判例についての独自の見解です。

 

特許出願の請求項に係る物の発明(以下で単に発明という)の構成が、特許庁の審査において、引用文献に記載された構成と同じであるとして新規性が否定されたときに、本出願の明細書や図面においても、発明と引用文献との間で構成上の相違が存在しない場合、あるいは、明細書や図面には引用発明と相違する構成が記載されているが、請求項を当該構成に限定したくない場合がある。このような場合に、発明の技術的思想又は作用効果が引用文献と相違していれば、請求項に作用等を記載する補正、又は、除くクレームの補正を行うことにより、特許出願を権利化できる可能性がある。

 

目 次

1.はじめに

2.請求項に作用等を記載する場合

2.1 物理的性質の程度を記載する場合

2.2 作用又は機能を記載する場合

3.除くクレームの補正をする場合

4.おわりに

 

1.はじめに

発明の構成が同じであるとして新規性が否定された場合に、作用等を請求項に記載する補正、又は、除くクレームの補正は、有効な対応となり得る。これについて、判例を参照して以下に検討した。

 

2.請求項に作用等を記載する場合

2.1 物理的性質の程度を記載する場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、後述の事例1のように、発明の構成要素の物理的性質(後述の事例1では、テープの収縮力)の程度が、引用発明の構成要素とは異なることにより、発明の技術的意義が引用発明と異なる場合がある。

この場合には、請求項において、構成要素の物理的性質の程度を明確にして、意見書で、物理的性質の程度の相違により、技術的意義が異なる旨を主張する。これにより、以下の事例1のように発明の新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例1:平成27年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件

事例1では、特許第3277180号の請求項1に係る発明は、その記載「延伸可能で」および「二重瞼形成用テープ」などから、延伸させたテープ状部材の収縮力の程度が、引用発明のテープ細帯と異なると解釈されたことにより、引用発明には無い技術的意義「テープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成できること」が得られるとして、進歩性が認められた(詳しくは下記URL1のブログを参照)。

特許第3277180号の請求項1:

「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」

URL1:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2016/09/30/142003?_ga=2.113076292.19447527677.1569284210-1010299014.1469438372

 

2.2 作用又は機能を記載する場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、発明の構成要素の作用又は機能が、引用発明の構成要素とは異なる場合には、後述の事例2のように、その作用又は機能(後述の事例2では、刃先に打点衝撃を与えるという作用・機能)を請求項に記載する補正を行う。これにより、構成要素の相違(後述の事例2では、構成要素の寸法)が認められ、その結果、新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例2:平成22年(行ケ)第10258号 審決取消請求事件

事例2では、特許第3074143号の請求項1に係る発明は、その作用的な記載「刃先に打点衝撃を与える」以外は、構成が引用発明と同じであったが、この作用的な記載により、刃先に打点衝撃を与える突起の寸法が引用発明の突起の寸法と異なるとされて、進歩性が認められた(詳しくは下記URL2 のブログを参照)。

特許第3074143号の請求項1:

「【請求項1】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール。」

URL2:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2016/07/27/220351

 

3. 除くクレームの補正をする場合

発明の構成が引用発明と同じであっても、発明の技術的思想が、引用発明と異なる場合には、後述の事例3のように、除くクレームによる補正で引用文献の範囲を請求項から除外することにより、新規性と進歩性が認められる可能性がある。

事例3:平成29年(行ケ)第10032号 審決取消請求事件

事例3では、特許第5212364号の請求項9に係る発明は、その技術的思想「銀の粒子の平均粒径や焼成の際の雰囲気及び温度の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分となる導電性材料が得られる」が引用発明と異なっていたが、その構成が引用文献と相違していなかった。そこで、除くクレームによる訂正事項により、引用文献との重複部分を除いた結果、進歩性が認められた(詳しくは下記URL3のブログを参照)。

特許第3277180号の訂正後の請求項1:

「【請求項1】導電性材料の製造方法であって,前記方法が,銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm~15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃~320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。」

URL3:

http://hanreimatome-t.hatenablog.com/entry/2019/07/03/123706

 

4.おわりに

以上のように、発明の構成が同じであるとして新規性が否定された場合に、作用等を請求項に記載する補正、又は、除くクレームの補正により、余分な構成を請求項で限定することなく、特許出願を権利化できる可能性があると考える。

 

弁理士 野村俊博

 

進歩性 同じ装置を動作させる環境が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められる。

進歩性 同じ装置を動作させる環境が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められる。

 

判例No. 53平成25年(行ケ)第10163号 審決取消請求事件

 

1.本件発明について

 本件発明は、特許第4877410号における次の訂正後の請求項1に係る発明である。

 

請求項1:

「大気中で水を静電霧化して,粒子径が3~50nmの帯電微粒子水を生成し,花粉抗原,黴,菌,ウイルスのいずれかと反応させ,当該花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかを不活性化することを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法であって,前記帯電微粒子水は,室内に放出されることを特徴とし,さらに,前記帯電微粒子水は,ヒドロキシラジカル,スーパーオキサイド,一酸化窒素ラジカル,酸素ラジカルのうちのいずれか1つ以上のラジカルを含んでいることを特徴とする帯電微粒子水による不活性化方法。」

 

2.引用刊行物について

 引用刊行物(甲1)には、帯電微粒子水を生成し,22㎥チャンバー内の空間臭,付着臭を消臭するものであり、そのメカニズムについて,「静電霧化で発生したナノオーダーの水微粒子がアンモニア等のガス成分と接触しやすく,ガス成分が水微粒子に溶解し空間中から除去されると推察される。静電霧化の水微粒子に溶解後のガス成分の挙動については現在検討中である」と記載されている。

 

3.審決の独自解釈

 甲1の内容と本件発明の内容(明細書と図面)と比べると、甲1において帯電微粒子水を生成する装置は、本件発明の図面に記載されたものと同様である。

 したがって、甲1でも、帯電微粒子水はラジカルを含んでいると言えるので、他の引用文献の内容「ラジカルにより、ガス成分を分解し又は殺菌効果を得る」を考慮して、甲1において、本願発明1のように、帯電微粒子水のラジカルにより、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかを不活性化させることは容易に想到できるものである。

 

4.判決の概要

 本件出願の優先日時点においては本件特許明細書は未だ公知の刊行物とはなっておらず,当業者においてこれに接することができない以上,甲1発明1の内容を解釈するに当たり,本件特許明細書の記載事項を参酌することができない。

 甲1以外の文献には、ラジカルによりガス成分を分解し又は殺菌効果を得ることは記載されているが、ラジカルが帯電微粒子水中に存在させることが示されていない。

 したがって、本願発明1は、甲1等から容易に想到できたとはいえない。

 

5.考察

 本件発明の構成は、甲1に記載の装置の構成と同様である可能性がある。

 この場合、甲1においても、帯電微粒子水中にラジカルが存在していることになる。

 しかし、甲1において、帯電微粒子水が放出されるチャンバー内(本件発明の室内に対応)に、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れが存在することが記載されていない。

 その結果、ラジカルを含む帯電微粒子水を室内に放出することにより、室内の花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れを不活性化させるという技術的思想は、容易に想到できないことになる。これは、本件発明が方法の発明であるから言えることと思う。

 すなわち、仮に本件発明が装置の発明である場合には、審決が述べているように、その構成は甲1の構成と同様であるので、その新規性や進歩性が認められないと思う。

 

よって、同じ装置を動作させる環境(上記判例の場合には、本館発明では、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れが存在する環境であり、甲1では、花粉抗原,黴,菌,ウイルスの何れかが存在していない環境)が違うことにより得られる効果が異なる場合には、方法の請求項により進歩性が認められると思う。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められた事例

進歩性 データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められた事例

 

判例No. 52 平成30年(行ケ)第10131号 審決取消請求事件(第1事件)、平成30年(行ケ)第10126号 審決取消請求事件(第2事件)

 

 上記判例では、以下のように、データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められている。

 

1.本件発明について

 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて相互作用をチェックする医薬品相互作用チェック装置において、一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを格納する相互作用マスタを記憶している。

 これにより、医薬品の相互作用チェックのために要する検索が2回で済む。

 

 本件発明は、特許第4537527号における次の請求項1に係る発明である。

 

「【請求項1】

 一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と,

 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが,前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより,相互作用チェック処理を実行する制御手段と,

 対象となる自己医薬品の名称と,相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し,前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を,前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段と,

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置。」

 

2.引用発明との対比

 共通点:

本件発明と引用発明(特開平11-195078号公報に記載の発明)とでは、一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用をチェックするためのマスタ」である点で共通する。

 

相違点:

 本件発明と引用発明とでは、医薬品の相互作用チェックに用いられる記憶データの構造が相違する。

 

 詳しくは、以下の通り。

本件発明について、請求項1の記載「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する」における各用語「一の医薬品」、「2通りの主従関係」、及び「個別に」の意味を考慮すると、本件発明1の「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は,両者とも,販売名(商品名)か一般名かこれを特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することができるコードのレベルの概念で統一して格納されると判断されている。すなわち、一の医薬品と他の一の医薬品について、合計2通りの主従関係データが設けられている。

これに対し,引用発明3では、一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれか(すなわち、概念で統一して格納されていない3通りの主従関係データのいずれか)について,相互作用が発生する組み合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれか(すなわち、概念で統一して格納されていない3通りの主従関係データのいずれか)について,相互作用が発生する組み合わせを格納している(すなわち、合計6通りの主従関係データが設けられている)。

 

3.進歩性の判断の独自解釈および考察

 上記判決では、次の理由で、上記相違点に係る構成は容易に想到できたものではないと判断している。

 本件発明では、上記相違点に係る構成により医薬品の相互作用チェックのために要する検索が2回で済むのに対し、引用発明では、相互作用チェックのために要する検索が6回必要である。この点で、本件発明は、引用発明と技術的思想が異なる。

 したがって、上記相違点に係る構成は、引用発明などに示されていないので、当業者

が容易に想到し得たとはいえない。

 

 すなわち、本願発明は、医薬品の相互作用チェックが2回の検索で行えるよう構築されたデータ構造(請求項1では「相互作用マスタ」)により、進歩性が認められたと思う(なお、相互作用チェックが2回の検索で済むという効果は、本件発明の明細書には記載されていないので、引用発明との比較において初めて見出されたものであると思う)。

 

 このように、データ構造により、効果・技術的思想(上記判決では、「検索回数が大幅に減ること」)が異なる場合には、この点で進歩性が認められる可能性がある。

 

 弁理士 野村俊博