進歩性:相違点に係る構成が容易そうであっても、発明の意義が、従前には無い課題を取り上げたことにあり、当該課題が前記構成により解決されるものである場合には、発明の進歩性が認められる余地がある。

判例No.60 令和元年(行ケ)第10159号 審決取消請求事件

 

進歩性:相違点に係る構成が容易そうであっても、発明の意義が、従前には無い課題を取り上げたことにあり、当該課題が前記構成により解決されるものである場合には、発明の進歩性が認められる余地がある。

 

言い換えると、発明において主引用例との相違点に係る構成により発明の課題でき、発明の意義が当該課題を取り上げたことにあり、当該課題が主引用例と他の先行技術文献から認められない場合には、主引用例において上記構成を採用する動機付けはない。

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 相違点に係る構成が容易に想到できそうに見えても、当該構成が上記のような課題を解決するものであれば、上記に基づいて進歩性を主張できる余地があると思う。

 本判決では、相違点に係る構成が容易であるように見えたが、進歩性が認められている。

 

1.本件発明について

 本件発明(特願2014-220371の請求項1に係る発明)では、被験者に手術を行っている医師が見る表示部と、外科用X線透視撮影装置を操作するオペレータが見る別の第2表示部との両方に、被検者に関する同一のX線画像を表示させる場合に、前記X線画像のうち,前記第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構が設けられる。

 これにより、課題「医師から見る被験者の向きとオペレータから見た被験者の向きとが互いに異なる場合には、医師が見る表示部のX線画像の向きを医師から見た被験者の向きに合わせると、オペレータから見た被験者の向きと第2表示部に表示されたX線画像の向きとが互いに異なってしまう。これが原因で、オペレータは外科用X線透視撮影装置を操作することが困難となる」を解決できる。

 すなわち、医師が見る表示部に表示されるX線画像と、オペレータが見る第2表示部に表示されるX線画像のうち、第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させることにより、第2表示部のX線画像の向きをオペレータから見た被験者の向きに一致させることができる。これにより、オペレータが外科用X線透視撮影装置を操作することが容易になる。この場合、医師が見る表示部のX線画像の向きは、医師から見た被験者の向きに保たれる。

 

 本件発明は、具体的には、次の括弧内の請求項1の通りです。次の括弧内は、上記判決文からの抜粋です。

 

「【請求項1】

 X線管と,

 前記X線管から照射され被検者を通過したX線を検出するX線検出部と,

 前記X線管と前記X線検出部とを支持するアームと,

 移動機構を備え,前記アームを支持する本体と,前記本体に配設され前記X

線検出部により検出したX線に基づいてX線画像を表示する表示部と,

 前記X線検出部により検出したX線に基づいてX線画像を表示する前記表示

部とは異なる第2表示部を備えたモニタ台車と,

 を備えたX線透視撮影装置において,

 前記表示部と前記第2表示部には,手術中に透視された同一のX線画像が表示され,

 前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構を備えるX線透視撮影装置。」

 

2.主引用例について

 特開2006-122448号である引用文献1(以下、主引用例という)では、医師が見る診断用画像モニタ装置17とは別の操作用液晶ディスプレイ装置21の画面において、直前の記憶画像であるX線透視像23と画像正立位置マーカ26とが表示され、画像正立位置マーカ26を画面上で回転させることにより、これに応じてX線透視像23が回転するようになっている。

 これにより、主引用例の課題「X線曝射しない状態で画像回転角度の調整作業を行えるようにすること」を解決できる。

 すなわち、X線透視像23の回転位置が調整された時の画像正立位置マーカ26の回転位置を見て、X線画像用のカメラの回転位置を調整できるようになる。

 

3.相違点

 主引用例には、本件発明の「前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構」が記載されていない。

 すなわち、被験者に手術を行っている医師が見る表示部と、外科用X線透視撮影装置を操作するオペレータが見る別の第2表示部との両方に、被検者に関する同一のX線画像を表示させた場合に、前記X線画像のうち,前記第2表示部に表示されるX線画像のみを回転させる構成が、主引用例には記載されていない。

 なお、画面において、2つの表示部に表示されたX線画像のうち、一方のみを回転させること自体は容易に想到できそうに見えるが、この相違点により進歩性が認められている。

 

 次の『』内は、これに関する上記判決文からの抜粋です。

『本願発明と主引用例との相違点は,本願発明は「前記X線画像のうち,前記表示部に表示されるX線画像のみを回転させる画像回転機構を備え」ているのに対し,主引用例は,そのような特定がない点に尽きるが(本願発明における画像回転機構自体については目新しいものとはいえない。)』

 

4.進歩性の判断

 本件発明において主引用例との上記相違点に係る構成により本件発明の課題でき、本件発明の意義が当該課題を取り上げたことにあり、当該課題が主引用例と他の先行技術文献から認められないので、主引用例において上記構成を採用する動機付けはない。

 

 次の各『』内は、この独自解釈に関する上記判決文からの抜粋です。

『操作者は,従前は,このような課題を具体的に意識することもなく,術者の指示

に基づきその所望する方向に画像を調整することに注力していたものであるのに対して,本願発明は,その操作者の便宜に着目して,操作者の観点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能である。』

 

『引用文献1には,「操作用液晶ディスプレイ装置21」を見て操作する「操作者」の視認方向が「診断用画像モニタ装置17」を見る「術者」の「被検者」の視認方向と一致しないという課題(課題B2)について記載も示唆もなく,被告が提出した文献からは,手術中に被検者の患部を表示する画像表示装置において,異なる方向から被検者に対向する操作者が見る操作用液晶ディスプレイ21の画像の向きを,操作者が被検者を見る向き(視認方向)に一致させるという課題があると認めるに足りないから,こうした課題があることを前提として,引用発明との相違点の構成にする動機づけがあるとはいえず,』

 

弁理士 野村俊博