進歩性 権利範囲 装置の機能的クレーム 方法の機能的クレーム

判例No.66 令和3年(行ケ)第10136号 審決取消請求事件(半田付け装置事件)

 

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

 進歩性 権利範囲 装置の機能的クレーム 方法の機能的クレーム

 

1.本判決の概要の独自解釈

 本件特許(特許第6138324号)における装置の請求項1は、機能的な記載により発明を特定した機能的クレームである。

 この機能的な記載が、引例との相違点として認定され、その結果、本件発明の進歩性が認められている。

 当該機能的な記載は、次の「」内のものである(特に下線部)。

 「・・・溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」

 

 本件発明の請求項1では、上記のように、半田片が、ノズルの内壁と端子の先端に規制されるため必ず真球になれないという機能が記載されている。この機能により、半田片は、ノズルの内壁から伝わる熱により十分に加熱されるという効果が得られる。

 上記機能は、どの引例にも記載も示唆もされていないので、本判決では、このような機能的クレームとしての装置に係る請求項1の進歩性が認められた。

 

2.装置の機能的クレームの解釈

 本件発明の場合には、装置の機能的クレームは、以下のように、権利行使の際に、限定解釈される可能性があると思う。

 本件発明の場合、上記機能が得られるか否かは、請求項1の記載だけを考慮すると、装置の構成要素ではない「半田片」の寸法しだいであると思われる。例えば、半田片の寸法がノズルの内部空間に対して十分に小さければ、半田片は加熱により丸まってもノズル内壁に接することなく真球になり、この場合には、上記機能が得られなくなるからである。

 しかし、進歩性の判断において、上記判決では、装置の構成要素以外の物(半田片)に関する上記の機能的な記載が引例との相違点として認められていた。

 これに対し、権利行使に際しては、上述のように、請求項1における機能的な記載は、装置の構成要素ではない「半田片」に関する記載と言えそうであるので、明細書を参酌して解釈される可能性があると思う。

 具体的には、明細書には、半田導入筒34内の孔34aが記載されており、半田片は、この孔34aを通過してノズル内に供給される。孔34aの寸法は、半田片と実質的に同じであるようなので、孔34aの寸法とノズルの内部空間の寸法との関係が上記機能を得るための構成であると思った。

 そのため、装置の機能的クレームである請求項1は、このような関係を有する半田導入筒34を有する発明に限定して解釈される可能性があるように思った。

 なお、明細書参酌による解釈により権利範囲が狭くならないように、可能な場合には、複数の構成例を明細書に記載しておくのがよい。

 

3.方法の機能的クレーム

 一方、方法の機能的クレームは、本件発明のような場合には、以下のように、権利行使の際に、装置の機能的クレームほどは限定解釈されないように思う。

 本件発明の場合には、上記機能は、「半田片」の寸法が大きければ得られると考える。半田片の寸法がノズルの内部空間に対して十分に大きければ、半田片は、加熱により丸まろうとしても、ノズル内壁に接して必ず真球になれないはずだからである。

 このように上記機能は、「半田片」とノズルの内部空間の寸法との関係で決まるので、明細書に記載された上述の半田導入筒34に依存しないと言えそうに思うからである(また、方法では半田導入筒34は必須の要件でないことを明細書に記載しておくことも考えられる)。

 そのため、方法の機能的クレームは、このような関係を有する半田導入筒34を有する発明に限定して解釈されない可能性があるように思った。

 このような理由で、方法の機能的クレームを、装置の機能的クレームとは独立して設けることが有効であると考える。

 

4.機能的クレームに代わる構成の請求項

 機能的クレームは、構成を特定していない点で、その機能を含む様々な構成を含むように見える。

 しかし、機能的クレームは、明確性要件、実施可能要件、またはサポート要件を満たさないとされる可能性がある。

 これを避けるために、機能的クレームに加えて又は機能的クレームの代わりに、その機能を実現するための構成を、明細書だけでなく、独立請求項や従属請求項に記載することができる。例えば、互いに異なる複数の構成をそれぞれ記載した複数の従属請求項を設けることができる。

 

弁理士 野村俊博