進歩性 周知技術の適用が容易に想到できそうな場合における進歩性の主張の一例

判例No.65 令和3年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件

 以下は、上記判決に関する独自の見解です。

 

 進歩性 周知技術の適用が容易に想到できそうな場合における進歩性の主張の一例

 

 本件発明(特願2019-166439号の請求項1)の進歩性の判断において、一見すると、主引用例に周知技術を適用することで本件発明に容易に想到できそうに思える。しかし、本判決では、以下のように、本件発明の進歩性を肯定した。

 

1.前提

 本件発明と主引用例との間には相違点があるが、主引用例に周知技術(コア電線にテープ部材を巻くこと)を適用すると当該相違点がなくなる。

 

2.判決の内容

 以下の論理で、主引用例に周知技術を適用することに容易に想到できないとされた。

 

 主引用例と周知技術とは技術分野が共通するので、主引用例に当該周知技術を適用するように当業者は動機づけられる。

 しかし、次の(1)~(4)の理由で、上記周知技術を主引用例に適用することには阻害要因があるので、上記周知技術に基づいて上記相違点に係る構成に容易に想到できたとはいえない。

 

(1)本件発明と主引用例は、上記相違点となるそれぞれの手段で、共通の課題を解決しており、主引用例では、当該課題が既に解決されている。

(2)主引用例において、当該課題を解決するために、上記周知技術の構成を加える必要はない。

(3)主引用例において、上記周知技術の構成を加えると、追加の作業(テープ部材を除去する作業)が必要となるので、かえって作業性が損なわれ、主引用例が奏する効果を損なう結果となってしまう。

(4)主引用例の効果を犠牲にしてまで上記周知技術の構成を加えることに何らかの技術的意義があることを示唆するような記載は主引用例には無い。

 

3.実務上の指針

 一見すると、主引用例に周知技術を適用することは容易に想到できそうに思える。

 しかし、主引用例において課題を解決する原理の観点から、上記周知技術の構成を主引用例に 加えると不都合となる理由として、上記(1)~(4)がある。

 このように、本判決にならうと、発明の進歩性の判断に関して、主引用例に周知技術を適用することが容易そうに思える場合でも、次の(A)と(B)のようにするのがよいと思う。

(A) 主引用例における課題解決原理を確認し、その原理の観点から、当該適用が不都合になる理由(例えば上記(1)~(4))が主引用例に存在するかを検討する。

(B) このような理由がある場合には、これに基づいて発明の進歩性を主張する。例えば、本判決にならって、当該理由により周知技術の適用には阻害要因があると主張する。

 

弁理士 野村俊博