進歩性 データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められた事例

進歩性 データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められた事例

 

判例No. 52 平成30年(行ケ)第10131号 審決取消請求事件(第1事件)、平成30年(行ケ)第10126号 審決取消請求事件(第2事件)

 

 上記判例では、以下のように、データ構造の相違により技術的思想又は効果が異なるとして進歩性が認められている。

 

1.本件発明について

 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて相互作用をチェックする医薬品相互作用チェック装置において、一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを格納する相互作用マスタを記憶している。

 これにより、医薬品の相互作用チェックのために要する検索が2回で済む。

 

 本件発明は、特許第4537527号における次の請求項1に係る発明である。

 

「【請求項1】

 一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と,

 入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし,自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが,前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより,相互作用チェック処理を実行する制御手段と,

 対象となる自己医薬品の名称と,相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し,前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を,前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段と,

を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェック装置。」

 

2.引用発明との対比

 共通点:

本件発明と引用発明(特開平11-195078号公報に記載の発明)とでは、一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用をチェックするためのマスタ」である点で共通する。

 

相違点:

 本件発明と引用発明とでは、医薬品の相互作用チェックに用いられる記憶データの構造が相違する。

 

 詳しくは、以下の通り。

本件発明について、請求項1の記載「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と,前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で,相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する」における各用語「一の医薬品」、「2通りの主従関係」、及び「個別に」の意味を考慮すると、本件発明1の「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は,両者とも,販売名(商品名)か一般名かこれを特定するコードや,薬効,有効成分及び投与経路を特定することができるコードのレベルの概念で統一して格納されると判断されている。すなわち、一の医薬品と他の一の医薬品について、合計2通りの主従関係データが設けられている。

これに対し,引用発明3では、一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれか(すなわち、概念で統一して格納されていない3通りの主従関係データのいずれか)について,相互作用が発生する組み合わせを格納し,また,他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード,薬効分類コード,BOXコードかの少なくともいずれか(すなわち、概念で統一して格納されていない3通りの主従関係データのいずれか)について,相互作用が発生する組み合わせを格納している(すなわち、合計6通りの主従関係データが設けられている)。

 

3.進歩性の判断の独自解釈および考察

 上記判決では、次の理由で、上記相違点に係る構成は容易に想到できたものではないと判断している。

 本件発明では、上記相違点に係る構成により医薬品の相互作用チェックのために要する検索が2回で済むのに対し、引用発明では、相互作用チェックのために要する検索が6回必要である。この点で、本件発明は、引用発明と技術的思想が異なる。

 したがって、上記相違点に係る構成は、引用発明などに示されていないので、当業者

が容易に想到し得たとはいえない。

 

 すなわち、本願発明は、医薬品の相互作用チェックが2回の検索で行えるよう構築されたデータ構造(請求項1では「相互作用マスタ」)により、進歩性が認められたと思う(なお、相互作用チェックが2回の検索で済むという効果は、本件発明の明細書には記載されていないので、引用発明との比較において初めて見出されたものであると思う)。

 

 このように、データ構造により、効果・技術的思想(上記判決では、「検索回数が大幅に減ること」)が異なる場合には、この点で進歩性が認められる可能性がある。

 

 弁理士 野村俊博