進歩性 出願に係る発明と引用例に記載の発明との相違点により両者の性質が相当程度に異なる場合には、相違点に係る構成が取決めにすぎないとして、容易想到と判断することは適切でない。

判例No.55 令和元年(行ケ)第10085号 審決取消請求事件

 

 以下は、上記判例に関する独自の見解です。

 

 出願に係る発明と引用例に記載の発明との相違点により両者の性質(性格)が相当程度に異なる場合には、相違点に係る構成が取決めにすぎないとして、容易想到と判断することは適切でない。

 

1.本件発明と相違点

 上記判例においては、本件発明は、カードゲームを実施するために、コンピュータに各種処理を行わせるプログラムに係る発明であり、主引用例と次の相違点がある。

 

 相違点:第3フィールドに配置されていた追加のキャラクタカードが、第1フィールドに補充されるように表示されることが、本願発明においては「敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへのキャラクタカードの配置」に伴うものであるのに対して、主引用例においては「第11領域から、マナを増やすための第7領域へのカードの配置」に伴うものである点。 

 ※マナとは、カードのセッティング やスキルの発動に必要不可欠なエネルギー値であり、例えば、マナが増えると強力なキャラクターカードをセットできる。 

 

2.判示事項

 本願発明では、敵キャラクタへの攻撃を行う第2フィールドへのカードの配置に伴い、キャラクタカードが第1フィールドに補充されるのに対し、主引用例では、マナを増やすための第7領域にカードを配置させることに伴い、新たなカードが補充される。

 このように、主引用例におけるカードの補充は、本願発明との対比において,補充の契機となるカードの移動先の点において異なり、移動されるカードの種類や機能においても異なるので、上記相違点の存在によって、引用発 明と本願発明とではゲームの性格が相当程度に異なってくる。したがって、上記相違点に係る構成が「ゲーム上の取決めにすぎない」として、他の公知技術等を用いた論理付けを示さないまま容易想到と判断する審決は適切ではない。 

 このように、本件発明は、主引用例から容易に想到できたと肯定することはできない。 

 

3.まとめ

 出願に係る発明と主引用例との相違点が、単なる取り決めに過ぎないとして出願に係る発明が拒絶された場合、次の(1)~(3)の反論をする余地がある。

 

(1)上記相違点に係る構成が、他の先行文献にも記載されていない。

(2)「上記相違点により両発明の性質が相当程度に異なる理由(上記判例では「補充の契機となるカードの移動先の点において異なり、移動されるカードの種類や機能においても異なる」)を述べる。

(3)上記相違点により両発明の性質が相当程度に異なるので、出願に係る発明において上記相違点に係る構成が、単なる取り決めにすぎないとは言えない。

 

弁理士 野村俊博