進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

進歩性 主引用例において、その構成要素に、当該要素と目的及び使用態様が異なる、他の引用例の構成を組み合わせることは容易でない。

 

判例No.16平成28年(行ケ)第10011号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

 

1.本件特許発明の要点

 本件特許(特許第4553629号)の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という)は、以下の特徴A,Bを有し、特徴Bにより以下の効果Cを奏する。

 

 特徴A:

 掘削により削り出される掘削土が、ケーシング内で吹き上げられて、ケーシングの排土口から外部へ排出される場合において、掘削土飛散防止装置は、前記排土口を介して前記ケーシングの外側へ排出された掘削土が衝突するようになっている衝突部と、ケーシングを囲む筒状部とを含み、衝突部に衝突した掘削土がケーシングと筒状部との間を落下するようになっている。

 

 特徴B:

 掘削土飛散防止装置は、さらに、蛇腹状の側壁を有する筒状部の下端近傍に,その一端が連結されたワイヤーと,前記ワイヤーの他端が連結されている巻き取り装置と,を有している。巻き取り装置がワイヤーを巻き取りまたは繰り出して、垂下された状態の前記筒状部の上端から下端までの長さが調整される。

 

 特徴Bによる効果C:

「ワイヤーの巻き取り・繰り出し操作を通じて蛇腹部分(筒状部)の伸縮を繰り返すことによって、落下して来る途中で筒状部の内壁に付着した掘削土を効率的に払い落とすことが可能になる。また、ダウンザホールハンマの掘進に伴って筒状部の長さを調整することができるので、蛇腹部分(筒状部)の下端側が地表上で重なり積もることを防止することが可能になる。」

 

2.相違点について

 特徴Bは、引用発明(特開2001-32274号公報)との相違点であるが、引用例6(特開平11-107661号公報)に記載されている。

 

3.争点 引用発明に引用例6の構成を組み合わせることが容易か

(目的の相違)

 引用例6のジャバラ筒を設ける目的は、次の効果(1)(2)を達成することにある。

(1)オーガスクリュー外周を覆うことにより、砂はジャバラ筒を伝って落下しオーガスクリュー3の上部からの土砂の飛散は防止される。

(2)ワイヤーの一端をジャバラ筒の下端近傍に連結し,他端をウインチに連結させている。この構成で、ウインチの捲上げ捲戻しでジャバラ筒の下端を上下動させることにより、ジャバラ筒下端と地表との間を所定の高さに保持できる。したがって、ジャバラ筒下端と地表との間を通して、オーガスクリューの羽根上の土砂の取除き作業を行える。

 

 引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は,次の効果(3)を達成することにある。

(3)伸縮カバー(34)は,中空コンクリート杭(1)を覆うことにより、押し上げられた土砂(17)を,中空コンクリート杭(1)との間を通って落下させ土砂の飛散を防止する。

 

 以上により、引用発明の伸縮カバー(34)を設ける目的は、引用例6においてジャバラ筒を設けることにより上記効果(2)を達成するという目的と異なる。

 

(使用態様の相違)

 引用例6のジャバラ筒4は,削孔作業中,その下端と地表との間に所定の高さを有するのに対し,引用発明の伸縮カバー(34)は,掘削時,その下端が接地している。

 よって、両者の使用態様は互いに異なる。

 

4.判示事項

 筒状部(ジャバラ筒)の下端を所定の高さに維持することを前提とした引用例6の構成(伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を,筒状部の下端を接地させる引用発明に適用することは、直ちに想到できるものではない。

 上記の目的の相違と使用態様の相違を考慮すると、引用例6の構成を引用発明の伸縮カバー(34)に組み合わせようとする動機付けは存在しない。

 したがって,引用発明において本件特許発明の特徴Bを備えるようにすることを,引用例6に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

5.実務上の指針

 以下の前提(1)の場合に、以下の理由(2)により、対象発明の進歩性が否定されたら、以下の反論(3)ができる場合には、その反論をする。

 

(1)対象発明と主引用例との相違点は、対象発明が特徴Xを有していることにあるが、特徴Xは副引用例に記載されている。

 

(2)主引用例(本判例では引用発明)において、その一部の構成要素(本判例では伸縮カバー)に副引用例(本判例では引用例6)の特徴X(本判例では伸縮カバーとこれを上下させるワイヤー及びウインチ)を組み合わせることにより、対象発明に容易に想到できる。

 

(3)主引用例の上記構成要素と、副引用例の上記構成とは、それを設ける目的が互いに異なるだけでなく、その使用態様(使用状態)も互いに異なるので、主引用例の上記構成要素に副引用例の上記構成を組み合わせることの動機付けはない。したがって、主引用例において特徴Xを備えるようにすることを,副引用例に基づいて当業者は容易に想到することができない。

 

弁理士 野村俊博