進歩性 周知技術の上位概念化
進歩性 周知技術の上位概念化
判例No. 27 平成28年(行ケ)第10220号 審決取消請求事件
1.周知技術の上位概念化
1.1 実務上の指針1
周知技術を上位概念化した内容に基づいて、発明の特徴が設計的事項であるとされている場合には、この論理は不適切であるので、その旨を主張する。これにより、発明の進歩性が認められる可能性がある。
1.2 実務上の指針2
このような上位概念化は、本願発明の進歩性を否定するために本願発明の内容に引きずられてなされてしまうことによると思われる。
これについて、特許庁の審査基準には、次の「」内の記載がある。
「請求項に係る発明の知識を得た上で、進歩性の判断をするために、以下の(i)又は(ii)のような後知恵に陥ることがないように、審査官は留意しなければならない。
(i) 当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたように見えてしまうこと。
(ii) 引用発明の認定の際に、請求項に係る発明に引きずられてしまうこと」
そのため、発明の進歩性を否定するためになされた周知技術の認定に誤りがないかを確認する。
1.3 判例の独自解釈
上記判例を独自に解釈すると、上記判例では、以下のことが示されている。
周知技術を示す文献には、特定の従業員情報である従業員勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間,有給休暇等)」の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機が記載されていると認められる。
しかし、この内容を上位概念化した「従業員に関連する従業員情報全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機」は、周知技術を示す文献には開示も示唆もされていない。
したがって、このような上位概念化した周知技術の内容を前提とした審決の認定判断「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」は認められない。
2.主引用例への周知技術の動機付けが無い旨を主張する場合には、請求項の補正は不要である。
2.1 実務上の指針
主引用例への周知技術の適用が容易でない旨を主張する場合には、次の(1)のように対応可能である。
(1)本件発明の請求項を補正しなくてもよい。
2.2 判例の独自解釈
上記判例を独自に解釈すると、上記判例では、以下のことが示されている。
本件発明の給与計算方法(詳しくは、下記の請求項1を参照)では、次の発明特定事項により、次の効果が得られる。
発明特定事項:
「各従業員の給与計算に用いる従業員情報が、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された,給与計算を変動させる従業員入力情報を含む」
当該「」内の記載は、特願2014-217202号の請求項1からの抜粋です。
効果:
「従業員入力情報(例えば、扶養者数のほか,生年月日,入社日,勤怠情報)を従業員が入力するようにしたので、給与計算担当者を煩雑な作業から解放できる」
上主引用例には、上記の効果と、これを得るための発明特定事項が記載されていない。すなわち、主引用例は、税理士や社会保険労務士のような専門知識を持った複数の専門家が,給与計算やその他の処理を円滑に行うことができるようにしたものである。
したがって、主引用例において、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて,各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成(すなわち、上記発明特定事項に含まれる構成)とするように当業者は動機付けられない。
2.3 上記判示事項のように進歩性を主張する場合
上記2.2のように主張する場合には、当該主張は、本件発明の上記発明特定事項が周知技術と同じであるとしても成り立つので、本件発明の請求項を補正する必要はない。
弁理士 野村俊博
次の「」内の記載は、特願2014-217202号の請求項1の記載です。
「【請求項1】企業にクラウドコンピューティングによる給与計算を提供するため
の給与計算方法であって,/サーバが,前記企業の給与規定を含む企業情報及び前
記企業の各従業員に関連する従業員情報を記録しておき,/前記サーバが,前記企
業情報及び前記従業員情報を用いて,該当月の各従業員の給与計算を行い,/前記
サーバが,前記給与計算の計算結果の少なくとも一部を,前記計算結果の確定ボタ
ンとともに前記企業の経理担当者端末のウェブブラウザ上に表示させ,/前記確定
ボタンがクリック又はタップされると,前記サーバが,前記クリック又はタップの
みに基づいて該当月の各従業員の前記計算結果を確定させ,/前記従業員情報は,
各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウ
ザ上に表示させて入力された,給与計算を変動させる従業員入力情報を含むことを
特徴とする給与計算方法。」