進歩性 阻害要因 技術的意義による用語の解釈 二段階を経ることは容易でない

進歩性 阻害要因 技術的意義による用語の解釈 二段階を経ることは容易でない

判例No.7 平成27年(行ケ)第10164号 審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の概要

 引用発明1に引用発明2を適用することに阻害要因があるので、引用発明1、2により本件発明に容易に想到できたとは言えない。

 

2.本件発明(請求項1)の要点

 特徴:ロータリ作業機のトラクタ後部に設けた作業ロータのシールドカバーにおいて、その進行方向後方側の位置で固定され前記端部寄りの部分が自重で垂れ下がる弾性土除け材が,周方向に隣接して複数設けられ、各土除け材の固定位置すべてが,隣接する他の土除け材と互いに重なっている。

 作用効果:「土除け材の固定位置はそれ自身の振動によっても振動を生じない箇所であるから,付着した土砂が落下しにくく,土砂が堆積し易い。そこで,前方側の土除け材の固定位置を後方側の土除け材が覆うことで,または逆に後方側の土除け材の固定位置を前方側の土除け材が覆うことで,固定位置への土砂の付着自体を生じにくくすることができる。」

 

3.相違点

 上記の特徴は,引用発明1に記載されていない。

 

4.判決における進歩性の判断

(阻害要因)

 引用発明2の弾性部材23を、弾性部材23の前端部が自重で垂れ下がるようにして引用発明1の土付着防止部材20として適用すると、この垂れ下がりによりリヤカバーと弾性部材23との接合部に間隙が生じ、この間隙から土が進入して接合部に土がたまりやすくなる。その結果、接合部に土がたまりやすくなという引用発明2の課題を解決できなくなるので、この適用には阻害要因がある。

 

(用語の解釈)

 本件発明の「自重で垂れ下がる弾性土除け材」の「自重で垂れ下がる」とは、ロータリ作業機本体の振動に伴って土除け材が振動することにより土除け材に付着した土砂を落下させるという技術的意義のある現象を生じさせるものである。

 これに対し、引用発明2において、弾性部材23の前端を自由端にする形態は、上記技術的意義のある現象を生じさせるものと認められない。

 したがって、引用発明2の弾性部材23を引用発明1に適用しても、本件発明の「自重で垂れ下がる弾性土除け材」に至らない。

 

(二段階を経ることは容易でない)

 引用発明1に基づいて本件発明に至るには、次の二つの段階を要する。

 二つの段階を経ることは、格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。

 一つ目の段階:引用発明2の弾性部材23の前端部を上記技術的意義が生じるように自重で垂れ下がるものとする。

 二つ目の段階:自重で垂れ下がるようにした引用発明2の弾性部材23を、引用発明1の土付着防止部材20として適用する。

 

5.実務上の指針

(阻害要因の主張)

 引用発明1に引用発明2の部材を適用することにより進歩性が否定されそうな場合には、次のように反論できないかを検討する。

 反論:引用発明2の部材は、引用発明1への適用後において、当該部材が解決する引用発明2の課題を解決できない状態になっているので、適用には阻害要因がある。

 

(用語の技術的意義)

 本件発明の請求項に記載した用語に技術的意義があり、技術的意義の有無で、本件発明と引用発明とが相違する場合には、その技術的意義の相違を、主張し又は請求項で明記する。

 また、請求項に記載する用語の技術的意義を、予め、明細書に記載しておく。

 

(二段階の思考)

 本件発明に至るには、一つ目の段階で引用発明2の技術を変更し、二つ目の段階で変更後の当該技術を引用発明1に適用する必要がある場合には、次のように反論する。

 反論:二つの段階を経ることは、格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 物の発明に係る請求項 構成要素の動作の特定

進歩性 物の発明の請求項において、発明の構成要素の動作は相違点として考慮される

判例No.6 平成27年(行ケ)第10164号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決のポイント

 本件発明において相違点に係る構成(すなわち下記の特徴)は,固有の作用を奏するものであるので,単なる設計的事項にすぎないものであるということはできない。

 

2.本件発明のポイント

概要:レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタ後側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げようとすると、両者が互いに当接することによりレセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せない。一方、レセプタクルコネクタに嵌合したケーブルコネクタ前側の部分をレセプタクルコネクタから持ち上げると、両者が互いに当接せず、レセプタクルコネクタはケーブルコネクタから抜き出せる。

 

 より詳しくは次の通り。

 

特徴:ケーブルコネクタとレセプタクルコネクタとを互いに嵌合接続するために、一方にはロック突部が設けられ、他方にはロック溝部と該溝内へ突出する突出部とが設けられる。嵌合時に、ロック突部が嵌合方向で上記ロック溝部内に進入して、ケーブルコネクタの姿勢が、前端側が持ち上がった上向き傾斜姿勢から嵌合終了の姿勢へ変化する。この姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化する。

 

効果:ケーブルコネクタの姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化する構成により、嵌合状態において、「ケーブルコネクタが後端側を持ち上げられて抜出方向に移動されようとしたとき,上記ロック突部が上記抜出方向で上記突出部と当接して該ケーブルコネクタの抜出を阻止」し、嵌合状態において、ケーブルコネクタの前端部を持ち上げることにより「上記ロック突部と上記突出部との上記当接可能な状態が解除されて,上記ケーブルコネクタの抜出が可能となる」。

 

3.相違点

 上記の特徴は、引用発明に記載されていないので、相違点となる。

 

4.進歩性の判断

 上記特徴により得られる上記効果は、本件発明に固有のものであるため、上記特徴は、単なる設計的事項にすぎないものであるということはできない。

 

5.実務上の指針

 物の発明の請求項において、発明の構成要素の動作は相違点として考慮される

 本件発明の請求項1は、物の発明の請求項であり、この請求項には、上記特徴として、記載A「上記姿勢の変化に応じて上記突出部に対する上記ロック突部の位置が変化する」がある。この記載Aは、互いに当接し合うロック突部と突出部を、その動作により特定している。

 このように、ロック突部と突出部をその動作により特定した記載Aが相違点として認められ、その結果、本件発明の進歩性が否定されなかった。

 したがって、物の発明の請求項において、発明の構成要素を構成(形状や位置)により特定したくない場合には、構成要素を、その動作により特定することもできる。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 「容易の容易」は容易でない

進歩性 「容易の容易」は容易でない

判例No.5 平成27年(行ケ)第10149号 審決取消請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決のポイント
 引用発明において、自明の課題を解決するために周知例に開示された構成を採用することは容易である。
 この採用によって生じる別の課題を解決するために別の周知技術を採用することは、「容易の容易」に該当し容易ではない。
 当該別の課題は、引用発明自体について認識できないからである。

 

2.本件発明の要点
特徴:港湾,河川,湖沼などのヘドロや土砂をシェルで掴むクラブバケットにおいて、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し」ている。
作用効果:掴んだヘドロや土砂は、シェルカバーでシェル内に密閉されるので、水中で撹乱しない。シェルが水中を降下する際には、シェル内の水が空気抜き孔から上方に抜けるので、シェルの水中での抵抗を減少させて降下時間を短縮できる。

 

3.相違点について
 本件発明では、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対して,引用発明においては,そのように構成されているか否か不明である。

 

4.進歩性の判断
 シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止するという自明の課題を把握して、この課題を解決するために、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」ことは、周知技術である。
 また、シェルの上部が密閉されている場合に、シェル内部にたまった水や空気を排出するために、シェルの上部に空気抜き孔を形成することは周知技術である。
 したがって、引用発明において「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」ことは容易であり、シェルの上部が密閉されている場合にシェルの上部に空気抜き孔を形成することも容易である。
 このような「容易の容易」の過程を経ることで本件発明に想到するが、この「容易の容易」は容易でない。引用発明自体について、シェル内部にたまった水や空気を排出する必要があるという課題を当業者が認識することは考え難いからである。

 

5. 実務上の指針
 引用発明から本件発明に想到するために、引用発明に公知技術を二段階で適用すること(「容易の容易」)が必要な場合であって、一段階目の適用をしたことによって生じる課題Pを解決するために二段階目の適用をすることになる場合には、次のように進歩性を主張する余地がある。
 進歩性の主張:
 上記課題Pは、引用発明自体について認識できないので、引用発明に二段階の適用をすることは、「容易の容易」に該当し容易ではない。

弁理士 野村俊博

 

 

特許請求の範囲 技術的意義 サポート要件

特許請求の範囲 技術的意義 サポート要件

判例No. 4 平成26年(ワ)第8905号 特許権侵害差止等請求事件

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.判決の要点
 請求項に記載した発明がサポート要件を満たすためには、発明の技術的意義が把握できるように請求項が記載されていればよい。この把握は、明細書や技術常識を参酌してなされてよい。

2.争点
 請求項の記載A「第一のn型層よりも電子キャリア濃度が大きい第二のn型層」について、第二のn型層の電子キャリア濃度の範囲を請求項で特定しなくても、サポート要件を満たすか。

 なお、当該請求項の記載は、以下の通り。
「基板上にn型層,活性層,p型層が積層された構造を備え,該p型層上と,該n型層が一部露出された表面に,それぞれ正電極と負電極が設けられた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であって,

 前記n型層中に,第一のn型層と,第一のn型層に接して,第一のn型層よりも電子キャリア濃度が大きい第二のn型層と,を有すると共に,

 前記n型層中の基板と前記露出表面の間にあるn型層領域において,前記第一のn型層であって前記露出表面が形成された層と,該第一のn型層の基板側に設けられた前記第二のn型層と,を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

 

3.判示事項
 上記の記載Aの技術的意義が、明細書と技術常識から把握できる。
 技術的意義:電極から注入された電子が、電子キャリア濃度が相対的に大きい第二のn型層を通ることにより、半導体発光素子の順方向電圧Vfを低下させることができる。この効果は、第二のn型層の電子キャリア濃度が第一のn型層の濃度よりも少しだけ大きい場合でも、少しは得られる。
 このように、上記の記載Aの技術的意義が把握できるので、第二のn型層の電子キャリア濃度の範囲を請求項で特定しなくても、サポート要件を満たす。
 
4.実務上の指針
 物理的数量(本件では濃度)の具体的範囲を請求項に記載しなくても、ある部分の物理的数量が他の部分の物理的数量よりも大きいか又は小さいかを請求項に記載しておけばよい。
 このように請求項に記載した物理的数量の相対的比較の技術的意義を明細書に記載しておく。
 これにより、物理的数量の具体的範囲が請求項に記載されていないことを理由としてサポート要件が否定されることを回避できると思われる。

弁理士 野村俊博

進歩性 設計的事項

進歩性 設計的事項

判例No.3 平成26年(ワ)第8905号 特許権侵害差止等請求事件について

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用であり、『』は、特許庁の審査基準からの引用です。

 

本件発明の進歩性が否定されなかったのは、次の理由によります。

 理由:相違点に係る構成は、設計的事項とはいえない。

 

(1)本件発明のポイント

特徴:第一のn型層に接して、第一のn 型層よりも電子キャリア濃度の大きい第二のn型層33 を活性層側に形成する(具体的には下記の請求項2)。

 

作用効果:第一のn型層から供給される電子が電子キャリア濃度の大きい第二のn 型層中を通って均一に広がることにより、活性層を均一に発光させる。また、電子がキャリア濃度の大きい第二のn型層33を通って流れるので、発光素子の順方向電圧Vfを低下させることができる。

 

「【請求項2】

 基板上にn型層,活性層,p型層が積層された構造を備え,該p型層上と,該n型層が一部露出された表面に,それぞれ正電極と負電極が設けられた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であって,

 前記n型層中に,第一のn型層と,第一のn型層に接して,第一のn型層よりも電子キャリア濃度が大きい第二のn型層と,を有すると共に,

 前記n型層中の基板と前記露出表面の間にあるn型層領域において,前記第一のn型層であって前記露出表面が形成された層と,該第一のn型層の基板側に設けられた前記第二のn型層と,を有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

 

(2)相違点

 本件発明では、「前記n型層中の基板と前記露出表面の間にあるn型層領域において,前記第一のn型層であって前記露出表面が形成された層と,該第一のn型層の基板側に設けられた前記第二のn型層と,を有する」のに対し,主引用文献では、そのようになっていない。

 

(3)進歩性の判断

 上記相違点に係る構成、すなわち、第二のn型層ではなく第一のn型層に電極形成用の露出表面を形成することは、設計的事項にすぎないとはいえない。

 設計的事項について、特許庁の審査基準では『一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用』と記載されており、その理由として、同審査基準において『当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないからである』と記載されています。

 本件発明では、上記相違点に係る構成は、「エッチングを第二のn型層33で止めることが生産技術上困難である」という課題を解決するために採用されている。この課題は、副引用例には何ら記載されていない。

したがって、上記相違点に係る構成は設計的事項ではないといえる。

 

(4)実務上の指針

 以下の状況を想定する。

 想定状況:対象の発明(例えば権利化しようとする発明)における特定の構成が、どの引用文献にも記載されていないので、引用文献との相違点となっている。しかし、この構成が単なる設計事項であるとして、対象の発明の進歩性が否定されそうになっている。

 

 この想定状況で、可能であれば、対象の発明の進歩性を次のように主張する。

 主張:相違点となっている構成は、従来技術に示されていない課題を解決するものであるので、設計的事項ではない。

 これにより進歩性が認められやすくなる。

 

弁理士 野村俊博

進歩性 構成が同じでも機能が異なれば特許になる(物の発明)。

進歩性 構成が同じでも機能が異なれば特許になる。

 

判例No.2 平成22年(行ケ)第10258号 審決取消請求事件にについて

※以下は、この判決についての独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

 本件発明の進歩性が認められたのは、次の理由によります。

 理由:

『本件発明と引用例1は、「ガラスカッターホイール」の刃先に突起を設けた点で共通するが、突起の大きさが相違することにより作用効果が異なる』

 

(1)本件発明のポイント

特徴:「【請求項1】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール。」

作用効果:「所定形状の突起により,ガラスカッターホイールの転動時,ガラス板に打点衝撃を与え,更に突起がガラス板に深く食い込むために,ガラス板を,不要な水平クラックが発生しないまま,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させて,ガラス面をスクライブする」

 

(2)相違点

 本件発明では、「ガラスカッターホイール」の刃先に「打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」ことにより、板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることができる。

 これに対し、引用例1(特開平6-56451)には、「ガラスカッターホイール」において突起として凹凸が記載されているが、この凹凸は、微細であるので、ガラス板に板厚を貫通するほどの垂直クラックを発生させる打点衝撃を与えるものではない。

 したがって、本件発明の「打点衝撃を与える所定形状の突起」は、引用例1の「凹凸」と相違する。

 

(3)進歩性の判断

 本件発明では、上記相違点に係る「打点衝撃を与える所定形状の突起」により、上記(1)の作用効果が得られる。

 このようにする点は、引用例1には記載も示唆もされていない。

 よって、本件発明は、引用例1から容易に想到できたものではない。

 

(4)実務上の指針

機能的な記載は相違点として認められる

 本件発明は、「ガラスカッターホイール」の刃先に設けた突起の大きさが引用例1と相違することにより、作用効果が引用例1と相違しています。

 この点は、請求項1の記載「打点衝撃を与える所定形状の突起」により認められています。もし、この記載の代わりに、単に「所定形状の突起」と請求項1に記載されていたら、請求項1の突起と引用例1の突起(凹凸)は同一になり、請求項1と引用例1の発明は同じ構成を有します。すなわち、請求項1は、「打点衝撃を与える」という機能的な記載により、突起(凹凸)の構成(大きさ)の相違が認められて進歩性が認められています。

 したがって、先行技術の構成との相違を示す手段として、請求項に機能的な記載を加えることも有効です。

 ただし、相違を示すために機能的な記載が不要な場合には、あえて機能的な記載を加えないほうがよい場合が多いです。例えば、機能的な記載により権利範囲が不明確になることもあり得るからです。

 

弁理士

野村俊博

進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定

判例No. 1平成27年(行ケ)第10122号 審決取消請求事件

※以下は、独自の見解です。

※以下において、「」内は、上記の判決文または特許出願(特願2010-537149号)からの引用です。

 

 本件発明の進歩性が認められたのは、次の理由によると思われる。

理由:「水フィルター」を、光量の調整と「生物組織」(皮膚)の冷却との両方に用いるという着想(アイデア)が、どの引用例にも記載されていなかった

 

(1)本件発明のポイント

特徴:光を「生物組織」(患者の皮膚)に当てて「生物学的影響をもたらす」(治療を行う)装置において、「生物組織」へ向かう光の通過領域に「水フィルター」が配置されている。

効果:「水フィルター」により、「生物組織」に照射される光量を調整でき、かつ、「生物組織」を冷却できる。

 

(2)本件発明と引用例1との相違点

 光の一部を吸収するフィルターは、本件発明では上記「水フィルター」であるのに対し、引用例1では「プリズム6及びプリズム6の側面のコーティング」である。

 

(3)上記の相違点に関する引用例2の内容

 引用例2には、凍結した液体をフィルターとして用いる「懸濁フィルター」は、皮膚の冷却にも使用されている。

 しかし、「懸濁フィルター」は、フィルターとして作用するのは、凍結されている時だけであるので、液体状態でフィルターとして作用する「水フィルター」と異なる。

 

(4)進歩性の判断

 液体状態の水を、フィルターとして用いるとともに皮膚の冷却にも用いることは、いずれの引用例にも記載も示唆もされていない。

 よって、本件発明は進歩性を有する。

 

(5)実務上の指針

使用時の状態の相違について主張や補正をする>

 フィルターとして用いるとともに皮膚の冷却にも用いるものは、本件発明では、液体状態のフィルターであるのに対し、引用例2では、凍結状態のフィルターであった。

 この相違により進歩性が認められている。

 

目的の特定を請求項に記載する

 請求項1における記載「前記水フィルターは,前記生物組織を冷却するために構成され」により、「生物組織」の冷却という作用効果が認められている。すなわち、「水フィルター」の具体的な配置(「水フィルター」が「生物組織」に接触可能な位置にあること)を特定することなく、この作用効果を得るという目的の特定「前記生物組織を冷却するために構成され」により当該作用効果が認められている。

 したがって、作用効果を認めてもらうためには、その作用効果を得るという目的を請求項で特定することで足りる場合もありえる。

 例えば、請求項1では、目的を特定し、従属請求項では、その目的を得るための具体的な構成を特定することも、請求の範囲の書き方の1つになりえる。

 

2016年7月 弁理士

野村俊博