進歩性 対象発明と引用例とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば、進歩性が認められる。

進歩性 対象発明と引用例とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば、進歩性が認められる。

 

判例No. 35 平成25年(ネ)第10051号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件

 

※以下は独自の解釈です。

 

1.本件発明の内容
 上記判例における特許第2137621号の請求項1に係る発明(本件発明)は、次の「」内の通りです。
「【請求項1】 版を装着して使用するオフセット輪転機版胴において、前記版胴の表面層をクロムメッキ又は耐食鋼で形成し、該版胴の表面粗さRmaxを
6.0μm≦Rmax≦100μm
に調整したことを特徴とするオフセット輪転機版胴。」

 

2.主引用例との相違点
 本件発明では、版胴の表面粗さRmaxが6.0μm≦Rmax≦100μmであるのに対し、主引用例(証拠の設計図)では、版胴の表面粗さRmax=2.47~4.02μmが調整されている点で、両者は相違する。

 

3.副引用例の内容
 副引用例(特開昭57―156296号公報)では、版胴にかけられる印刷版用基材において、版胴との接触面となる裏面の表面粗さを20μm以上,好ましくは25~100μmとすることにより(ただし、表面粗さがRmaxかRaであるかは不明)、版胴へのフィット性を向上させ,印刷中に版胴との間にズレや歪みを生じにくくしている。

 

4.判示事項(独自解釈)
 副引用例では、次の原理により、版胴とのズレの問題を解決している。副引用例では、版胴ではなく,版胴にかけられる印刷版用基材を、圧縮弾性が得られる材料(樹脂層を含む材料)で形成し、当該基材において版胴と接触する裏面に適度な凹凸をつけている。これにより、版胴に対するフィット性が高まり、版胴とのズレの発生を防止している。
 これに対し、本件発明では、次の原理により、版胴とのズレの問題を解決している。本件発明では、金属製の版胴の表面粗さRmaxを6.0μm≦Rmax≦100μmに調整している。これにより、版と版胴間の摩擦係数を増加させることで、版ずれトラブルを防止している。
 このように、副引用例と本件発明では、面の凹凸を調整する点では共通するが、副引用例では、圧縮弾性材料とのフィット性を高めてズレを防止しているのに対し、本件発明では、金属製の表面の凹凸で摩擦係数を増加させてズレを防止しているので、両者の課題解決原理が相違する。
 また、本件発明の課題解決原理は、主引用例と副引用例のいずれにも記載されていないので、本件発明は、主引用例と副引用例に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

 

5.実務上の指針
 対象発明と引用発明とで、解決する課題が同じであり、かつ、解決手段に共通点(上記判例では面の凹凸を調整するという共通点)があっても、厳密に見た場合に解決原理が異なっていれば(上記判例では、フィット性の向上と摩擦係数の増加とで相違する)、進歩性が認められる。

 なお、上記判例では、本件発明の権利行使が認められている。これは、その上記請求項1において、記載が短くて限定が少なかったことにもよると思えた。
 したがって、発明のポイント(上記判例では、Rmaxが6.0μm≦Rmax≦100μmである点)さえ記載すれば、他の内容はできるだけ簡潔に、不要な限定をせずに記載するのがよさそうと改めて思った。

 

弁理士 野村俊博