進歩性 方式の置換容易性

判例No.24 平成25年(行ケ)第10277号 審決取消請求事件

 

進歩性 方式の置換容易性

以下は独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 主引用例における発明で使用する方式(上記判例では、真空法)を、関連する技術分野における他の公知の方式(上記判例では、雰囲気法)に置き換えることは、次の(1)の審査基準の内容により容易であるように見えるが、次の(2)に該当する場合には容易でない。

 

(1)特許庁の審査基準からの抜粋:「主引用発明の課題解決のために、主引用発明に対し、主引用発明に関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。」

 

(2)方式毎に特定の内容(上記判例では、材料)を採用することが本願出願時の技術常識となっており、技術常識から、主引用例における発明の内容(上記判例では、使用される材料)が、方式の違いを超えて相互に利用可能であるとはいえない。

 

2.本件発明と主引用例との比較

一致点:本件発明(特願2006-540530号公報の請求項1)と主引用例(特開2000-303132号公報)のいずれにおいても、アルミニウムのフラックスレスろう付け方法において、芯材に同じ材料(イットリウムを含む材料)を使用していること。

 

 相違点:フラックスレスろう付け方法は、本件発明では雰囲気法(管理された窒素の雰囲気で行われる方法)であるのに対し、主引用例では真空法(真空雰囲気下で行われる方法)であること。

 

 なお、次の「」内は、本件発明(特願2006-540530号公報)の請求項1の抜粋です。

【請求項1】

「管理された窒素の雰囲気下で無フラックスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための,重量パーセントで,少なくとも80%のアルミニウム,ならびに,Si<1.0% Fe<1.0% Cu<1.0% Mn<2.0% Mg<3.0% Zn<6.0% Ti<0.3% Zr<0.3% Cr<0.3% Hf<0.6% V<0.3% Ni<2.0% Co<2.0% In<0.3% Sn<0.3%,合計0.15%であるその他の元素それぞれ<0.05%,を含む芯材用のアルミニウム合金製の帯材または板材における,0.01~0.5%のイットリウムの使用。」

 

3.争点

主引用例において、真空法を雰囲気法に置き換えることは容易かどうか。

 

4.判示事項

 主引用例において、真空法を雰囲気法に置き換えることは容易ではない。

 その理由:アルミニウムのろう付け方法には、フラックス法とフラックスレス法があり、フラックスレス法には真空法と雰囲気法がある。「本願出願時には,ろう付け法ごとに,それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており,ろう付け法の違いを超えて相互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない。」

 ここで、「」内は、上記判例からの抜粋です。

 

 弁理士 野村俊博