進歩性 発明の課題の設定や着眼がユニークである場合には、当該課題を解決するための構成が容易であったとしても、当該発明が容易想到であるということはできない。

判例No. 46 平成22年(行ケ)第10075号審決取消請求事件

 

進歩性 発明の課題の設定や着眼がユニークである場合には、当該課題を解決するための構成が容易であったとしても、当該発明が容易想到であるということはできない。

 

以下は、上記判例についての独自の見解です。

 

1.実務上の指針

 発明の構成が容易であるとしてその進歩性が否定されても、当該発明の解決課題が、一般的には着眼しないユニークなものである場合、当該課題がユニークであることに基づいて発明の進歩性を主張できる。

 

 上記判例に倣うと、より詳しくは次の通り。

 対象発明が、構成A,Bを有し、構成Aが主引用例に記載され、構成Bが周知であり、主引用例の構成Aに周知の構成Bを適用することは容易であるとして、対象発明の進歩性が否定された場合を想定する。

 この場合、対象発明において、構成Bにより解決される課題が、主引用例に何ら示唆されておらず、一般的には着眼しないユニークなものである場合、対象発明が容易とは言えないので、その旨を反論できる。

 

3.本件発明の内容

 上記判決で対象となった本件発明は、次の通りです。

 

「【請求項1】

金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該

金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇

フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,

皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されているこ

とを特徴とする換気扇フィルター。」

 ここで、「」内は、特許3561899号公報からの抜粋です。

 

 すなわち、本件発明は、次の構成A,Bを有する。

 構成A:「金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,接着剤を用いて接着されている」

 

 構成B:「皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いている」

 

 構成Bの水性エマルジョン系接着剤は、水が付与されると、接着力が低下する性質を持つので、使用後の換気扇フィルターを水に浸漬することにより,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分離できる。これにより、次の課題が解決される。

 

課題:「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」

 

3.本件発明に対する主引用例と周知技術

 主引用例には、上記構成Aが記載されているが、上記構成Bは記載されていない。

 周知技術を示す副引用例には、上記構成Bが記載されている。

 

2.上記判例の概要

 上記判決では、次のことが前提として述べられている(ここで、『』内は、上記判決からの抜粋です。『』内の下線はここで付しました)。

 

前提

『当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。

 

 上記の前提の後、次のように判断している。

 本件発明の上記課題は、主引用例にも副引用例にも示唆されていない。

 更に、他の公知文献には、金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを一体物としてゴミ出しをしても問題が生じることがないようにして,作業を性を高めるものようにする手段が記載されている。この公知文献は、解決課題の設定及び解決手段が,本件発明と全く逆である。

 以上のように、本件発明の解決課題を設けることが、どの文献にも示されていない以上,当業者において,主引用例に、副引用例の構成Bを適用することによって,本件発明に想到することが容易であったとすることはできない。

 

弁理士 野村俊博