進歩性 課題を把握することが重要

進歩性 課題を把握することが重要

判例No.12 平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件

 

※以下は、この判決についての独自の見解です。
※以下において、「」内は、上記の判決文からの引用です。

 

1.本件発明の要点
(特徴)
請求項1の記載は次の通り。
「【請求項1】
下記(1)~(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物100体積に対して,0.1~10体積%である導電性粒子よりなる,形状がフィルム状である回路用接続部材。
(1) ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤」

(効果)
 回路用接続部材は、相溶性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、汎用溶剤で溶かすことができる。
 回路用接続部材は、接着性が良好なビスフェノールF型フェノキシ樹脂を含むので、微細回路接続後の信頼性が高い。

 

2.相違点
 本件発明は、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を成分としているのに対し、引用発明は、特定アクリル樹脂を成分としている点。

 

3.判決における進歩性の判断
 出願に係る発明の特徴点は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、その課題を的確に把握することが重要である。
 そして、その課題を解決するための当該特徴点に容易に想到できたといえるためには、当該特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である(具体的な判示事項は下記の注1の通り)。

 これに沿って進歩性を検討する。
 本件発明の特徴点は、相溶性及び接着性の更なる向上という課題を解決するために、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材の成分にしたことにある。
 これに対し、いずれの文献にも、相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材に用いることの示唆がない。
 したがって、フェノールF型フェノキシ樹脂を回路用接続部材用いることが,当業者には容易であったとはいえない。

 

4.実務上の指針
 出願に係る発明の進歩性を主張する時に、当該発明の課題を把握することが重要である。
 この課題が、いずれの引用文献にも記載されていない場合には、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない場合が多い。したがって、このような場合には、次のように主張する。

 主張:
「本願請求項に係る発明の課題は、いずれの引用文献にも記載されていない。
 また、この課題を解決するために当該発明の特徴点を採用することが、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。」

 

弁理士 野村俊博

 

注1:
「出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠で
ある。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」