進歩性 請求項において構成に関する記載により引例との相違が明確にならない場合には、引例と異なる技術的意義を請求項に記載することもできる。

進歩性 請求項において構成に関する記載により引例との相違が明確にならない場合には、引例と異なる技術的意義を請求項に記載することもできる。

 

判例No32 平成29年(行ケ)第10001号 審決取消請求事件

以下は、独自の見解です。

 

1.判例の概要

 本件発明(特願2014-116674号の請求項1に係る発明)における構成要素A「支柱が貫通する筒状の基礎体」が、引例(実開昭63-59973号)における構成要素a「支柱が貫通するパイプ」に対応する(と異なる)か否かが争われた。

 

 請求項1の記載からは、「筒状の基礎体」の技術的意義が不明確であるため、明細書を参酌して、その技術的意義が解釈された。

 その結果、構成要素Aは、当該技術的意義を有しない構成要素aには対応しないとして拒絶審決が取り消された。すなわち、本件発明の「筒状の基礎体」は引例の「パイプ」と異なるとして、拒絶審決が取り消された。

 

2.考察

 上記判例では、本件発明の「筒状の基礎体」の構成が、引例の「パイプ」の構成と異なることを、請求項1において表現するのは、かなり難しそうに思えた。本件発明の「筒状の基礎体」と引例の「パイプ」は、いずれも筒状であり、しかも、地中において、その内側にいずれも土や砂が充填されるようになっているからである。本件発明の「筒状の基礎体」の内側には土が充填され、引例の「パイプ」の内側において支柱との隙間に砂が充填されるようになっている。

 このように、請求項1における構成の表現により、「筒状の基礎体」が引例の「パイプ」と相違することを明確にするのが困難であったため、審査と審判で特許査定が得られなかった印象を受けた。

 

 上記判例では、本件発明の「筒状の基礎体」の技術的意義が引例の「パイプ」と異なることにより、両者が互いに異なるとされたので、請求項において、技術的意義を請求項に記載する補正も有効であると思う。これにより、特許庁での審査段階又は審判段階でスムーズに特許される可能性が高まるように思える。引例と構成が同じであっても、異なる技術的意義、機能又は目的が請求項に記載されていたことによって特許となった判例には、例えば次の3つがある。

進歩性 構成が同じでも機能が異なれば特許になる(物の発明)。 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 使用時の状態の相違 目的の特定 - hanreimatome_t’s blog

進歩性 機能で進歩性が認められる。 - hanreimatome_t’s blog

 上記判例では、「筒状の基礎体」の技術的意義が、「支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける」ことであると判断されたので、上記判例の場合には、「筒状の基礎体は、支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける」というような記載を審査段階で請求項1に追加する補正も、スムーズな権利化の観点から有効であるように思える。

 

弁理士 野村俊博